「線状降水帯」予測は喫緊の課題
ここ数年、毎年のように甚大な大雨災害が発生しているが、2021年も大雨被害がたびたび発生した。7月1日から3日にかけて静岡県や神奈川県を中心に大雨が降り、静岡県熱海市では土石流災害によって20人以上が犠牲になった。8月11日から16日にかけて前線の影響で九州、北陸、中国地方をはじめ各地で断続的に大雨が続き、河川の氾濫などによって多くの命が奪われた。
この記事の画像(7枚)気象庁の長谷川長官は2021年を振り返る中で、特に線状降水帯が原因となる大雨災害が度々発生している現状と、気候変動によって、極端な気象現象がこれからますます強くなる事を踏まえると、線状降水帯の予測の実現は喫緊の課題だと強調した。
「線状降水帯」予測に257億円
「線状降水帯の予測」を早期に実現するために、気象庁の予算としては過去最高額のおよそ257億円の補正予算が組まれた。予算の内訳は、予測の鍵となる水蒸気量などの観測の強化におよそ76億円、スーパーコンピュータの増強など予測の強化におよそ181億円だ。
これまで気象庁の当初予算額が190億円に届かない程度だったことを考えると、国が災害後の復旧復興の対応から大雨災害を減らす取組みの方に舵を切った本気度と、気象庁への期待度がうかがえる。
気象庁は、この予算をもとに大学や研究機関、関係省庁とも連携して、線状降水帯の予測の上で重要とされる水蒸気の観測、スパコンの強化、機器の整備、数値予報モデルの高度化のための技術開発に総力を挙げて取り組み、線状降水帯の予測を早期に実現したいとしている。
まずは「九州北部」など地方単位で”予測情報”
まさに結果が求められる挑戦だが、気象庁はまず2022年の大雨シーズンには、「九州北部」や「四国地方」など地方単位の広域を対象に、半日前に線状降水帯の予測情報を発表できるとしている。
具体的には、線状降水帯が発生しやすい確率をもとに「九州北部では、●日未明から明け方にかけて線状降水帯が発生し、大雨となるおそれがあります。」と、地方向けの気象情報として発生する半日前に発表する方針だ。
これは深夜に大雨になる場合に「明るいうちからの早めの避難」を目指すもので、その後、予測技術の精度を高めることで段階的に対象地域を狭めてく計画だ。
今回の予算措置によってこの計画のスケジュールは当初の予定を1年ずつ前倒しして、2024年には対象を県単位に、2030年の実現を目座していた市区町村単位で地図上に色分け表示して線状降水帯が発生する危険度の把握が出来るような予測情報も、2029年の開始を目指すことになった。
線状降水帯“発生情報”を進歩させる取り組みも
線状降水帯に関する情報としてすでに気象庁は、大雨をもたらす危険がある「線状降水帯」の発生情報を2021年6月17日に開始している。
この情報は「線状降水帯」が発生したことをメディアなどを通じて住民に届けるとともに、気象庁ホームページの「雨雲の動き」と「今後の雨」の地図上におおよその発生場所を示すものだが、現状は発生情報であって、発生を前もって知らせる予測情報ではない。
この情報については新たな取組みとして、段階的に予測時間をのばしていき、2023年には30分前を目標に線状降水帯が発生する直前に予測情報を出し、その3年後の2026年には予測時間を2~3時間前に延ばすことを目指している。
線状降水帯予測実現の鍵とされる水蒸気量を観測するための切り札として「マイクロ波放射計」を、毎年大雨被害が出ている西日本中心に新たに17台配備することが決まっている。
気象衛星からの観測では水蒸気の総量は推測できても、雨量の予想に重要な大気下層の水蒸気量を正確に把握することはできないため、この新たな計測機器と、船舶からの大気の状態を直接調べる洋上観測などで、より早くよりピンポイントで線状降水帯の発生を予測する挑戦が始まっている。
(フジテレビ社会部・気象防災担当 長坂哲夫)