沖縄県内各地の海岸や港に漂着し、漁業や観光業に深刻な影響を及ぼしている軽石。突如降ってわいた問題に翻弄された県民の暮らしと、ウミンチュたちの奮闘をまとめた。

船のエンジン故障、ビーチも軽石であふれ…

2021年10月上旬、北大東島でうねうねと動く灰色の地面。その正体は、約1000キロ離れた小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火で噴き出た軽石だ。

東大東島の海岸(2021年10月)
東大東島の海岸(2021年10月)
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軽石は海流に乗って移動し、今帰仁村の海岸でも漂着が確認された。軽石が漂着してすぐ、被害にあったのは漁師たちだった。

海流に乗って今帰仁村の海岸にも漂着(2021年10月)
海流に乗って今帰仁村の海岸にも漂着(2021年10月)

漁師:
エンジン系統の故障の原因になるので、あまり無理してまでは(船を)出さないです

船のエンジンは海水で冷やしているが、ろ過装置に軽石が詰まることで海水を取り込めず、オーバーヒートするのだ。海上保安庁の巡視艇までもが、軽石を吸い込んで航行不能になった。

さらに、観光への影響も。

延総史記者: 
本来、水中であるはずの場所が軽石で大量に埋め尽くされ、波打ち際がどこにあるか分からない状態となっています

水中であるはずの場所も軽石で埋め尽くされた(2021年11月)
水中であるはずの場所も軽石で埋め尽くされた(2021年11月)

シーカヤックは軽石をかき分けて進むことに…。

マリンアクティビティーが人気のホテルの目の前にあるビーチでは、遊泳エリアの端に大量の軽石が押し寄せた。

ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート(2021年10月)
ホテルモントレ沖縄スパ&リゾート(2021年10月)

水上バイクや船を出すことが出来ず、ダイビングなどはほとんど中止に。

ホテルモントレ沖縄 スパ&リゾート 横山寛統括支配人:
緊急事態宣言が解除され、これからという所ではございましたが、自然災害ですので致し方ない。長い目でお付き合いをしていくような形で進めてまいります

県は2021年10月下旬から、操業に影響が出た辺土名漁港などで重機を使った除去作業を開始したが、この間、軽石は本島中南部にまで流れ着いていた。

 
 

漁師総出で除去 「こし器」に工夫も

県産もずくの一大産地、うるま市勝連。もずくの養殖は例年、10月に陸上のタンクで種付けした網を漁場に張り始めるが、船が出せない状況が続き作業の延期を余儀なくされている。

勝連漁協浜支部 上村直人支部長:
これもう(漁場に出す)時期が過ぎちゃってきているんですよね、タンクの。1週間以上、10日くらい遅れていますね

このままでは2022年の収穫に間に合わない。漁協の漁師たちは総出で養殖場が集中する津堅島に渡り、自らの手で軽石の除去作業を行った。

軽石の除去作業にあたる漁師たち(2021年11月)
軽石の除去作業にあたる漁師たち(2021年11月)

漁師:
全員集合ですよ。今ほったらかしにすると、また(潮が)満ちてきたら流れていくので

一方、海人の町・糸満市では、2021年12月のソデイカ漁解禁を前にただ指を加えて待っているだけではなかった。

2021年12月
2021年12月

糸満海遊振興会 平田光則会長:
エンジンのところに「こし器」っていうのがついているんですけど、それを掃除しないといけないので、デッキの上に上げてあります。エンジンをかけたまま、切り替えで清掃ができるように

12月2日早朝、ソデイカ漁の解禁に合わせていよいよ出港。

ソデイカ漁の解禁に合わせ出港(2021年12月2日)
ソデイカ漁の解禁に合わせ出港(2021年12月2日)

漁師 濱野大祐さん:
漁師は船をいっぱいにして帰ってくるのが一番幸せな時ですね。まず、大漁を願って出港したいと思います

砂利採取船を改良し強力ポンプで回収

軽石の影響は一体いつまで続くのか。

海洋生態系の研究を続ける、沖縄科学技術大学院大学の御手洗哲司准教授は、過去5年分の海洋データを基に今後の軽石の動きをシミュレート。その結果、南風が吹き始める2022年6月まで沖縄近海に留まる予測となった。

沖縄化学技術大学大学院 御手洗哲司准教授:
とにかく除去だと思います。今が海から軽石を減らすチャンスだと思って、積極的にやるべきだと思います

国は2021年12月から、除去作業の効率化が期待できるとする新たな手法を導入した。

仲宗根琢人記者:
羽地内海に浮かぶ軽石の作業船に来ています。ご覧のように、ポンプを使ってグイグイと海面の軽石を吸い上げる様子が確認できます

本来は海底の砂利を採取する作業船だが、1分間に約100トンの水を吸い込む強力なポンプを改良し、12月6日から15日までの9日間で10トントラック350台分の軽石を回収した。

軽石は「水面下」にも 拭えぬ不安

陸では重機、海では作業船を活用するなどして急ピッチで対策が進められる一方、これまで海面を漂っていた軽石が「水面下」にシフトしてきていることもわかってきた。

津堅島の沖合、一見するときれいな海だが…。

2021年11月
2021年11月

中を覗いてみると、海中に無数の軽石が漂っている。

勝連漁協 稲福正也津堅支部長:
潜っている最中に船が故障することもあったりする。だから船1隻ではなくて2~3隻とか、グループとかで行くようにして

2021年11月
2021年11月

船の上からは見えない軽石の影響で、11月はもずく網の設置も思うように進んでいなかったが、12月21日は天候に恵まれたことに加え軽石の漂流も少なく、やっと網を下ろす作業ができるようになった。

勝連漁協 稲福正也津堅支部長:
久しぶりに昨日、一昨日くらいからいい天気になって。軽石も少しくらいになりました

それでも、いつまた軽石がやってくるのか先が読めず、不安は拭えない。

勝連漁協 稲福正也津堅支部長:
収穫時期に軽石が流れてきて、沈んだときには収穫に影響するのか、少し不安なところはありますね

漁業や観光など、沖縄の産業に思いもよらない影響を与えた軽石。見えない軽石も含めて、影響をいかに最小限にできるか、民間と行政が連携したきめ細かい対応が求められる。

(沖縄テレビ)

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