本会議での逆転否決

3カ月以上住んでいれば外国人でも住民投票できるという武蔵野市の条例案が市議会の本会議で逆転否決された。立憲民主や共産の支持を受けて当選した松下玲子市長が出したこの条例案は委員会では可決されたので、どうなることかとヤキモキしていたのだが、否決されてホッとした。

東京・武蔵野市議会の本会議
この記事の画像(5枚)

今回の否決に大きな役割を果たしたのが自民党の長島昭久衆院議員だ。長島は民主党政権で首相補佐官を務めるなど活躍したが、党分裂後に自民党に移籍。10月の衆院選では選挙区を立川、国立などの東京21区から府中、武蔵野などの18区に移して菅直人元首相と対決し、敗れたものの比例で復活した。

この条例案には法的拘束力はないが、「市は結果を尊重する」と明記され、松下市長は「外国人が意見を表明する権利を奪う合理的理由は見つからない」と述べ、条例の必要性を強調していた。

条例の必要性を強調していた武蔵野市の松下玲子市長

「アベが動いた!」の衝撃

これに対し長島は「住民投票の結果は行政に対して事実上の拘束力が働き、広義の参政権にあたる。外国人に要件をつけず、無条件に投票権を認めるのは乱暴」と反論し、街頭演説やSNSなどで徹底抗戦した。ただあの地域は菅直人氏が勝っているということからわかるように土壌が「リベラル」なので、委員会で可決した時点で僕は「ダメかな」と思っていた。

長島昭久議員

だがそこで話は終わらなかった。自民の和田政宗議員が条例反対の街頭演説を行った際に野次やスピーカーで妨害してきた人たちがいたのだが、これをある新聞記者が「表現の自由だ」と擁護し、和田を「レイシスト」呼ばわりした。和田はその動画を配信して「民主主義への冒涜」と批判。これがSNS上で大変盛り上がるなど、騒ぎはどんどん大きくなっていった。

こうした流れの中で安倍晋三元首相が投票前日の20日、条例反対派の市議を激励。「アベが動いた!」と衝撃が走った。結局21日の本会議では立憲、共産が賛成、自民、公明は反対したが、中間派が反対に回り否決された。

長島は初仕事をうまくやった

今回長島は旧民主から自民への移籍後の「初仕事」をうまくやったと思う。ローカルな話題を国レベルの議論に発展させ、安倍を引っ張り出したのもよかった。

9年近く続いたアベスガ政権の後にリベラルで「聞く力」の岸田政権が誕生した。昔の自民がよくやった「疑似政権交代」というやつである。だから党内は一見リベラル全盛で保守は旗色が悪いようにも見える。保守派の反撃はあるのか。その場合出てくるのは高市か萩生田か。意外に長島もあるかもしれない。

旧民主から自民に来た人達は、敵陣営からの離脱組であり、自民党内にはいまだに拒否反応もある。ただ細野豪志、松本剛明、山口壮、鷲尾英一郎らそうそうたるメンバーで、閣僚も十分こなせるメンツなので遊ばせておいてはもったいない。

遊ばせておいてはもったいない?! 細野豪志議員

今回の長島の働きをみて彼ら「旧民主離脱組」に対する期待は上がるのではないか。彼らはそうやって何か成果を出さないとそうは簡単に仲間に入れてもらえないだろう。そういうことをうまくやれば自民党は強くなると思う。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫


フジテレビ報道局上席解説委員。2020年4月から立命館大学客員教授。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。

政策・政治
記事 286