活発な動きを続ける中国軍
この記事の画像(20枚)防衛省・統合幕僚監部によると、12月15日午前11時頃、長崎県の男女群島の西約350kmの海域を中国海軍・空母「遼寧」、055型駆逐艦「南昌」、ジャンカイⅡ級フリゲート「日照」、フユ級高速戦闘支援艦の4隻が南東に進み、 16日、4隻は沖縄県を縦断するように沖縄本島と宮古島の間を南下、太平洋へ向かった。
統合幕僚監部が公表した画像の空母「遼寧」の甲板上には、J-15型戦闘攻撃機が並んでいた。
中国は、J-15戦闘攻撃機をベースに新型空母から運用できるJ-15T戦闘機や、敵の通信やレーダーを妨害する電子攻撃機のJ-15D「エレクトリック・シャーク」計画を進めているとされる。
だが、米国等西側諸国を牽制するように軍隊が活動しているのは、中国だけではない。
ロシア、千島列島でも地対艦ミサイル「バスチオン」強化
ロシアもまた、ウクライナ情勢を巡り米国はじめ西側とにらみ合い、日本周辺の極東でも活動を活発化させている。
ロシア国防省は今月(12月)2日、ロシア太平洋艦隊のロプチャ級大型揚陸艦から地対艦ミサイル・システム「K-300P バスチオン」が海浜に上陸する映像を公開した。
バスチオンは、ロシアが「不法占拠」(外務省HP)している択捉島にも2016年に配備されている。
そして、ロシア国防省は「千島列島の中央部にある松輪島にバスチオンを初めて配備し、ミサイル部隊が24時間態勢で隣接する水域と海峡を監視する」と発表した。
バスチオンは、軍艦に搭載する最大射程600キロメートル、最高速度マッハ2以上の超音速艦対艦ミサイル、P-800オニキスを地上発射用に転用した最大射程500キロメートルの地対艦ミサイル・システム。
最大3発のオニキス・ミサイルを装備した移動式発射機12両と指揮車両、支援車両などで部隊が構成される。
しかし、今回映像に映っていたのは、移動式発射機2両と指揮車両の内部らしきものだった。
さらに、公開された映像では移動式発射機2両は軍用車両用大型テントから出てきて移動。
停止すると屋根を開き、中から2本の筒状のミサイル容器を屹立させたところで、今回の映像は終わっていた。
このミサイル容器は、全長8・9メートル、直径72センチメートルとされている。
松輪島から500キロメートルといえば、オホーツク海のかなりの部分と、択捉島まで届くことになる。
しかし、バスチオン・システムが発射出来るのはP-800オニキス・ミサイルだけなのだろうか。
ここで気に掛かるのは、欧米の安全保障・軍事メディアの指摘である。
バスチオン・システムにも極超音速ミサイル?
「(外観は異なるが、極超音速巡航ミサイルの3M22 )ジルコンは、超音速P-800オニキスから派生している。ミサイルの寸法は同等であり、ジルコンの長さは8〜10メートル、P-800の長さは表面発射型で8.6メートルと推定されている」「K-300バスチオン対艦ランチャーはジルコンを発射するように改造できると言われている」(National Interest 2019/9/16付)
「3M22ジルコンは、軍艦や潜水艦の共通垂直ランチャー3S-14から、およびバスチオン移動式沿岸ミサイルランチャーから発射される」(Naval News 2021/7/19付)との指摘もあった。
3M22ジルコン極超音速巡航ミサイルは、ロケット・ブースターで打ち上げられ、ある程度の速度(マッハ4以上?)に達すると、先端の「極超音速巡航ミサイル」を切り離す。
ミサイルはスクラム・ジェットを動力とし、マッハ5を超える極超音速域のマッハ9の速度に達することも可能で、30〜40 kmの高度で飛行できるとみられている。3M22ジルコンは速度が極超音速と早い上、機動しながら飛翔するため、レーダーによる追尾と飛翔経路の予測が難しく、さらに、マッハ8を超えた場合にはジルコンの周囲の空気が電離し、電波が通りにくくなるため、ミサイルの詳細な位置を捕捉することがさらに難しくなり、既存の弾道ミサイル・システムを持ってしても迎撃は極めて困難と考えられる。
また、ロシア国防省は2021年7月19日、「ジルコンがバレンツ海最南部の白海のアドミラル・ゴルシコフ級フリゲートから発射され、音速の約7倍の速さで350㎞以上を飛行し、“沿岸の標的”に命中した」と発表した。
つまり、3M22ジルコンは対艦攻撃だけでなく、対地攻撃も可能ということなのだろう。
そして、3M22ジルコンの最大射程については2018年12月に、ロシアのプーチン大統領自らが「1000㎞」と明らかにしている。
さらに、2021年11月3日、プーチン大統領は2022年からロシア海軍へジルコンの供給を開始することを明らかにした。
松輪島から1000㎞なら、オホーツク海の過半だけでなく、北海道の北半分にも届くことになる。
前述の通り、ロシア国防省が公開した映像には、バスチオン・システムの移動式ミサイル発射機は2輌しか確認できないが、指揮車輛1輌に対し、最大12輌の移動式発射機が連接できる、とされている。
ロシア海軍が松輪島にバスチオン・システムの移動式発射機の数輌を増やすかどうか。
そして、2022年から開始されるジルコン極超音速巡航ミサイルの配備先が気になるところだ。前述の通り、3M22ジルコンは迎撃が極めて困難なミサイルだからだ。
さらに、2021年12月15日、日本海、オホーツク海、太平洋でロシアのイリューシンIL-20M情報収集機の他、8機のロシア機と推定される航空機、合計9機が飛行した。
防衛省・統合幕僚監部が発表したこれらの飛行機の飛翔ルートは別図の通りだが、この推定ロシア機8機の機体の画像も機種も発表されていない。
ただ、ロシア国防省はこの日ツポレフTu-95MSベアH戦略爆撃機2機が、東部軍管区所属のSu-35S戦闘攻撃機に護衛されながらオホーツク海と日本海を9時間掛けて飛行したことを明らかにし、映像を公開している。
Tu-95MSベアH戦略爆撃機は、核弾頭搭載可能なKh-55、Kh-102 巡航ミサイルを運用可能な爆撃機だ。
この日のロシア軍航空機の動きの目的は何だったのだろうか。
ロシアが日本海で実施した新型対潜水艦ミサイルの試験
ロシア軍機の動きとの関係は不明だが、ロシア国防省は、同日(12/15)、日本海でロシア太平洋艦隊所属の駆逐艦「マーシャル・シャポシュニコフ」が、海中の潜水艦を狙う、最新鋭の対潜水艦ミサイル「オットベット」の発射試験を行い、水中の標的破壊に成功したとして同ミサイルの発射の模様の映像を公開した。
また、ロシア国防省はこの「オットベット」対潜水艦ミサイルをオニックス対艦巡航ミサイルや、カリブル地上攻撃用巡航ミサイルと共通の垂直ランチャーから発射したことも明らかにしている。
ロシアのタス通信(2021/12/15付)によると、オットベット対潜水艦ミサイルの最大射程は、約40kmで、軍艦のZS-14汎用発射機から発射後、目標のエリアに到着、対潜水艦魚雷を放出。
パラシュートで降下した魚雷はソナーを使って敵潜水艦を捜索する、という。
この「オットベット」対潜水艦ミサイルの発射試験を日本海で行った同じ日に、ロシアが戦略爆撃機含め、異例な数の軍用機を日本周辺に飛ばしていたのは、日米の情報収集を牽制しようとしていたのか、筆者には不詳だが、日本周辺でのロシア軍の活動の活発化そのものは、中国軍の活動とともに気掛かりな事ではある。
【執筆:フジテレビ 解説委員 能勢伸之】