北朝鮮は、10月12日に「自衛2021」という軍の装備品を中心とする展示会を行った。当初、朝鮮労働党創建記念日である10月10日に軍の装備を披露するパレードが行われるのではないか、との観測もあったが費用が掛かり、軍民の動員、訓練の準備も必要なパレード実施を避け、展示会に換えたともみられた。

この展示会では、昨年のパレードで披露した世界で一番大きな移動式大陸間弾道ミサイルについて、名称が「火星17」であることが明らかにされた。


また、北朝鮮は今年9月から10月に掛けて飛距離1500kmとする巡航ミサイル、列車の貨車を移動式発射機にした不規則軌道ミサイル、「極超音速ミサイル」、新型対空ミサイルを立て続けに発射。展示場には上記の巡航ミサイルとみられるものが2発、並んでいた。なお、「極超音速滑空体ミサイル」は、日本どころか、米国も実用化していない(拙著「極著運即ミサイル入門」「極超音速ミサイルが揺さぶる恐怖の均衡」参照)。
中露に続く北朝鮮・極超音速滑空体ミサイル発射試験


「火星8型極超音速ミサイル」についても展示があり、発射直後の労働新聞の画像では不明だった移動式発射機は、かつての火星12型中距離弾道ミサイル(射程3700km以上)の発射機の流用とみられ、さらに、労働新聞(9/29)で公開された画像から、発射時の噴射は火星12型で使用されているRD-250 系列のロケット・エンジンを使用しているとみられた。

「火星12型中距離弾道ミサイル」(右)(朝鮮中央テレビ・2017年5月16日)
火星8型のブースターの直径が火星12型と一致するとなると、火星8型のブースターは火星12型のものより短いことになる。つまり、火星8型の噴射時間は火星12型より短いことになるだろう。

極超音速とはマッハ5以上の速度を指す。展示場に展示されていた火星8型ミサイルの先端部は、典型的なウェーブライダー形状の極超音速滑空体の形をしていた。
火星8型の先端部は噴射を終了後のブースターから切り放たれ、マッハ5以上の速度でグライダーのように飛ぶ。極超音速滑空体の後部には上下左右に操舵する翼のようなものがあり、これを使って極超音速で滑空し、弾道ミサイル防衛をかわしながら、くねくねと不規則な軌道を描いて標的を目指すのだろう。
しかし、韓国・国防部は発射の後、実際の速度はマッハ3に留まり、高度約30km、飛翔距離200km以上との分析結果を発表していた。つまり、その速度は極超音速に到達していなかった、というのである。
しかし、展示会で披露された火星8型の極超音速滑空体は極超音速に耐えるためか、全体にカーボンの黒色であったが、発射時の労働新聞の画像でも展覧会場の極超音速滑空体でも、その前端や縁、底面の後部が明るい色に塗られていた。
これは、9月の発射時にはブースターの燃料・酸化剤を敢えて少なくし、分離後の極超音速滑空体が極超音速に達し無いまま滑空、機動するかどうかを確認したのかもしれない。
また、ブースターが火星12型の全長短縮型とすれば弾道ミサイルのブースターとして使用されれば飛距離3700kmプラスを下回ることになるだろう。だが、先端部はグライダーのように滑空するので飛距離は火星12型に匹敵どころか上回るかもしれない。
ところで、極超音速滑空体の開発には一般に極超音速飛翔体の実物大模型をセットし、極超音速の空気の流れを通す大規模な風洞が必要と考えられるが、北朝鮮はそんな高度な基礎技術・設備を保有しているのだろうか。
もしも、北朝鮮がそのような風洞を保有しているなら、北朝鮮は火星8型以外の極超音速ミサイルを開発できる基盤があるとみる必要があるかもしれない。
新型SLBMは不規則機動ミサイル?

また、展示会場では白と黒に塗り分けられ、すでに発射試験も実施されている北極星5型、同1型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の横に同じく、白と黒に塗り分けられた、ただし、北極星5型、1型より小型のミサイルが並んでいた。

この小型のミサイルの尾部にはハエ叩きの先端のような「グリッドフィン」が付いていて、折りたたんだ操舵翼を収納した突起が四カ所に見られた。


労働新聞(10/20)に掲載された新型SLBMの発射試験の画像を見ると、洋上に飛び出したSLBMが噴射している噴煙の中に広がったグリッドフィン付きのガスジェネレーターらしきモノが映っていた。従って、このSLBMは海中の潜水艦から高圧ガスで打ち出されると、海中での安定のためグリッドフィンを展帳。海上に飛び出すと、グリッドフィンが付いたガスジェネレーターをミサイルから切り離し、ミサイルは操舵翼を広げるとともに噴射を開始する。

ミサイルそのものは不規則機動ミサイル、KN-23系列のミサイルにそっくり。KN-23は胴体下部の4枚の操舵翼の他に,噴射口にも操舵翼と同軸の4枚のベーンが噴射口内に突き出していて噴射の向きを調整。噴射終了後は滑空しながら操舵翌を使ってミサイルを操縦する。
潜水艦発射弾道ミサイルとして、不規則起動するミサイルは他国に例をみないモノとなる。このSLBMは韓国の観測では、最高高度約60km、飛距離590kmとKN-23の性能に近いモノとなっている。
到達高度60kmでは、イージス艦に搭載している弾道ミサイル迎撃用のSM-3で迎撃できるのは高度70km以上と言われているので、このSLBMも到達高度が低いため迎撃が難しいとされる。
今回、SLBMを発射した潜水艦について労働新聞は「5年前に初めて潜水艦発射弾道ミサイルを発射した『824英雄艦』」としている。


画像からはセイルの上部にミサイル発射筒の蓋が一枚開いているのが分かる。また、5年前の2016年に発射されたのは、展示会で並んでいた北極星1型を発射したゴレ級ということになる。ゴレ級にはミサイルの発射筒は一本しかないが、北極星1型は新型潜水艦発射弾道ミサイルよりかなり太いので、今回の成功を元にKN-23の直径を北極星1型並に拡大し、射程を延ばした潜水艦発射弾道ミサイルを開発する可能性もあるかもしれない。
"正体不明"のミサイル

展示会では、正体が不明なままのミサイルもあった。
北極星5型SLBMと火星12型弾道ミサイルに挟まれるようにして展示されていた弾道ミサイルである。火星12型より全長は短い。

"正体不明"の弾道ミサイル(下)(朝鮮中央テレビ・2021年10月11日)
(四枚の翼は操舵用か?)
特徴的なのはブースター部分より細い弾頭部分。弾頭部分の後端四カ所に三角形の操舵翌らしきモノがあり、この構成は2017年5月29日のパレードで公開されたスカッド・ミサイルの精密打撃バージョンに似ている。このため、この弾頭部はマッハ5以上の極超音速で機動する極超音速滑空体との見方もあるようだ。
このミサイルの直径などは不明だが、既存のスカッド、ノドン弾道ミサイルの移動式発射機での運用が可能なら、移動式発射機が40輛以上あるとされ、数量の上で日本にとって、最大の脅威とされるスカッド、ノドン弾道ミサイルに取って代わるものならば、日本の安全保障にとっても影響は大きいだろう。
【執筆:フジテレビ 上席解説委員 能勢伸之】

