日本の最南端、沖ノ鳥島の海はブルーブラック。黒にわずかに青を混ぜた深い色だった。12月なのに温暖化の影響下、季節はずれの台風21号が日本近海に発生し、高い波とうねりに包まれた沖ノ鳥島の環礁は、白く縁どられていた。

12月5日、6日の二日間、東京都と東海大学は、共同で沖ノ鳥島周辺の海洋調査を行った。海洋調査研修船「望星丸」が利用され、東海大学海洋学部の教員を中心とした25人の調査員、研究員で調査を実施した。周辺海域の海洋調査は初めての試みであり、同島に関する総合調査は、2005年に日本財団が実施して以来、16年ぶりの取り組みである。

沖ノ島海底地形
沖ノ島海底地形
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海洋安全保障上の重要性

沖ノ鳥島は、国土の最南端に位置し、40万平方キロメートルに及ぶ領海と排他的経済水域の基点となり、また、海洋安全保障上重要な島であるが、その現状を国民は知らされていない。同島を行政域内に持つ東京都は、沖ノ鳥島の現状を広く都民、そして国民に伝え、今後の有効活用を考える必要から、東海大学海洋学部と共同で、同島周辺海域の海洋調査を実施することになった。

東京都 Tokyo Metropolitan Government「知っていますか?沖ノ鳥島の秘密(前編)」より
東京都 Tokyo Metropolitan Government「知っていますか?沖ノ鳥島の秘密(前編)」より

一つのテーマは、SDG‘s14「豊かな海を守ろう」に置き、海洋環境、水産資源に関する調査を行う。具体的には、漂流するマイクロプラスチック量や環境DNAを測定することにより存在する海洋生物を把握する。

また、望星丸に搭載されている海底状況を把握できる「マルチナロビーム」を使い、詳細なデータの少ない海底地底の測定を行った。さらに、ドローンを使い、環礁外から島全体の状況を撮影し、今後の同島の活用の基礎資料とした。

望星丸と沖ノ鳥島遠景 ドローンで撮影
望星丸と沖ノ鳥島遠景 ドローンで撮影

絶海の孤島

沖ノ鳥島は北緯20度25分30分にあり、日本で唯一、熱帯気候に属する日本の最南端の島である。東京都小笠原村に属し、東京港の南方約1700キロ絶海の孤島である。

周囲12キロほどのサンゴの環礁に囲まれ中に、北小島、東小島の小さな島が存在する。北小島は高潮時、高さ16センチほど姿が残り、東小島は6センチほどであるといわれている。この小さな島が基点となる日本の領海と排他的経済水域の面積は約40万平方キロメートルに上る。

この島の重要性から、政府は、小さな島の周囲をコンクリートで固め、鉄製の消波ブロックを設置し、チタン製のネットで覆い、波浪による浸食を防ぐ処置を行っている。

東小島と北小島を守るための工事 東京都 Tokyo Metropolitan Government 知っていますか?沖ノ鳥島の秘密(後編)より
東小島と北小島を守るための工事 
東京都 Tokyo Metropolitan Government 知っていますか?沖ノ鳥島の秘密(後編)より

「島」ではなく「岩」と主張する中国

日本、米国、中国が関わる海洋安全保障上も重要な位置にある沖ノ鳥島の管理は、極めて重要である。今年、沖ノ鳥島近海において中国の調査船が日本に無断で海洋調査をしていることが確認され、政府は遺憾の意を表明した。

中国は、日本国政府が国際機関により確認を得ている沖ノ鳥島が国際法上の「島」(※注1)に該当することを否定し、「岩」(※注2)であると主張し、日本の排他的経済水域の主張を認めようとしない。沖ノ鳥島は、米国の基地があるグアムと沖縄本島の中間にあり、軍事展開においても重要な位置にあり、中国にとって目が離せない海域である。

日本政府は、沖ノ鳥島の経済的な利用を明確するために、同島環礁内においてサンゴ礁の培養実験、外洋上における金属疲弊の実験等をおこなっている。さらに、2007年に灯台を設置し、2011年からは、北小島につながる洋上に桟橋の建設を進めている。

沖ノ鳥島灯台の立つ観測基盤
沖ノ鳥島灯台の立つ観測基盤

今回の調査では、島周辺の波、風が強く、AUV(自立型無線潜水機)による調査は見送られたが、海洋資源開発、漁業、観光利用など多方面で活用できるデータが収集され、分析した結果が、今後、東京都から公表される予定である。

※注1:「島」とは、常に水に囲まれ高潮時に陸地が存在する。
※注2: 「岩」人の居住もしくは独立した経済的生活を有することがない島は、岩として、排他的経済水域及び大陸棚の基点とはならない。

【執筆:海洋経済学者 山田吉彦】

山田吉彦
山田吉彦

海洋に関わる様々な問題を多角的な視野に立ち分析。実証的現場主義に基づき、各地を回り、多くの事象を確認し人々の見解に耳を傾ける。過去を詳細に検証し分析することは、未来を考える基礎になる。事実はひとつとは限らない。柔軟な発想を心掛ける。常にポジティブな思考から、明るい次世代社会に向けた提案を続ける。
東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。