尖閣諸島が危機的な事態に

3月、石垣島は既に初夏の様相をていしている。新型コロナウイルス禍においても多くの観光客が訪れている。特に幼児を連れた家族ずれがバカンスを楽しんでいる。

観光客で賑わうシーズンを迎えた石垣島
観光客で賑わうシーズンを迎えた石垣島
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楽園のような島の沖、170キロほどにある尖閣諸島では、中国が我が国の領土、領海を脅かし危機的な事態となっている。尖閣は、石垣市の一部なのである。

3月29日、中国海警局の警備船が尖閣周辺の我が国領海を侵犯した。2021年に入り11回目の領海への侵入であり、40日以上連続で我が国の沿岸(接続水域内)に姿を現している。例年を上回る件数である。同日、領海侵犯した中国警備船は尖閣海域で2隻の日本漁船に接近し追尾している。

この漁船は、八重山漁協所属であるが、尖閣の領有権確保策の実行を求めるグループに関係していて、漁業者と断定できない人が乗っているとの海保および水産庁の判断から、尖閣出漁の自粛を求められていた。中国側には、この日本漁船の動きを事前に察知し領海に侵入し、あたかも海上警備を行っているかのように動いている。このように中国は、作為的に既成事実を積み上げているのだ。

中国の狙いは「台湾攻略」

このままでは、尖閣は奪われてしまう。

尖閣諸島は石垣市の一部
尖閣諸島は石垣市の一部

中国の尖閣諸島への侵攻は時代とともに変遷している。1970年から80年代は、東シナ海の海底に埋蔵されていると推定される石油の獲得であり、90年代から2000年代にかけては、中国本土と太平洋を結ぶシーレーンの確保であった。そして、2010年以降は台湾攻略の要衝の意味を持つ。

中国は、香港の完全支配に続き、台湾を中国共産党の支配下に置くために実力行使の構えを見せている。米軍は、「6年以内に中国が台湾を振興する可能性がある」と指摘し、台湾防衛も視野に入れたアジア展開を進めている。台湾は、中国の海上民兵の侵入に備え、海上警備機関である「海岸巡防署」の武装を強化し、中国海警局にも対峙できる能力を持つようになっている。中国が台湾に迫るには、まず、台湾の北側の東シナ海に位置する尖閣の攻略が重要になる。

中国は、日本の海上保安庁の体制を研究し、対抗する中国海警局の能力、装備の強化を行っている。

3月28日、尖閣周辺では中国海警が動き出していたが、石垣島にある海上保安庁の桟橋には、尖閣領海警備専従部隊に所属する10隻の1千トン型巡視船巡視船の内、8隻が停泊していた。2020年来、尖閣周辺に姿を現す中国海警船が5千トン級、3千トン級の大型船を中心に構成されるようになったため、海上保安庁も尖閣部隊の巡視船での対応からさらに大型の巡視船での対応に戦術を切り替えたのである。

待機する尖閣諸島警備専従部隊の巡視船
待機する尖閣諸島警備専従部隊の巡視船

国内各地から大型船を動員し、尖閣警備にあたるようになった。その分、日本海をはじめ、他の海域の警備が手薄になっているのは否めない。

日本の警備が手薄になった海域に、中国は大漁船団を送り込む。中国漁民の多くは、軍事訓練を受け政府の指示のもと活動している。そのため、海上民兵と呼ばれる。

新たな海上警備システムの構築を

2020年末には、日本海に総数1万人を超える海上民兵を乗せた中国漁船団が侵入し、不法操業を企てた。この時、海上保安庁の手が回らない状況が露呈してしまった。海保に代わり、水産庁の漁業取締船が対応にあたったが、武器も持たず警告、放水を繰り返すだけの取締船に対し、中国漁船が怯むことはなかった。中国漁船が排他的経済水域内に侵入した件数は、延べ4千回ほどに上った。

日本の主権、そして、沿岸部で暮らす人々の生活を守るためには、新たな海上警備システムの構築が必要である。そして、島や沿岸部に暮らしを守ることこそが、日本の主権を守り、社会を守ることにつながる。

台湾との交流を進め、多くの外国人観光客を受け入れ、市を発展させてきた石垣市の中山義隆市長は、「我が国のみならず、台湾をはじめとした東アジアの平和と安定のためにも、早い時期での尖閣諸島対策の実施を望む」と語る。

日台の友好関係の構築が、東シナ海の平和と安定の礎であり、国境の島々の経済を活性化する原動力となっていのだ。台湾の危機は、沖縄県の離島の社会・経済に直結する問題なのである。

中山市長は、国際問題、海洋環境問題を絡めた尖閣対応を望んでいる。「今すぐにでも対処策を打ち出さなければ、取り返しのつかないことになるだろう」と、遅々として進まない尖閣諸島施策の現状を危惧していた。

【執筆:海洋経済学者 山田吉彦」

山田吉彦
山田吉彦

海洋に関わる様々な問題を多角的な視野に立ち分析。実証的現場主義に基づき、各地を回り、多くの事象を確認し人々の見解に耳を傾ける。過去を詳細に検証し分析することは、未来を考える基礎になる。事実はひとつとは限らない。柔軟な発想を心掛ける。常にポジティブな思考から、明るい次世代社会に向けた提案を続ける。
東海大学海洋学部教授、博士(経済学)、1962年生。専門は、海洋政策、海洋経済学、海洋安全保障など。1986年、学習院大学を卒業後、金融機関を経て、1991年、日本船舶振興会(現日本財団)に勤務。海洋船舶部長、海洋グループ長などを歴任。勤務の傍ら埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程修了。海洋コメンテーター。2008年より現職。