11月26日から29日までの4日間。撮影中継取材部のベテランカメラマンから新人アシスタントまで総勢10名が、この季節しか見られない絶景を撮影する為に全国各地に飛んだ。放送では見られない撮影の裏側を報告する。

「三島スカイウォーク」で“鳥が見る景色”を撮影

「日本最長400mの人道吊橋」静岡県三島市の三島スカイウォークからは、日本一の山・「富士山」と日本で一番の深さを誇る「駿河湾」が見渡せる。最長、最高、最深3つの「日本一」がそろった「絶景スポット」。

登山用のハーネスを装着してワイヤーを滑って移動するロングジップスライドが吊橋のすぐ横に併設されている。往復560m。森の木々、市街地の街並み、富士山などの雄大な景色を360°楽しむことができる。

360°カメラでロングジップスライドの撮影をする
360°カメラでロングジップスライドの撮影をする
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担当者に話を聞くと、緊急事態宣言が明けてからはコロナ禍以前の7割程度の人出だが、回復傾向にあるという。この日も快晴の中、雄大な景色を楽しむ人が多く訪れていた。中にはコロナ禍になってから他県への移動を控えていたという東京や神奈川からの観光客も多く訪れていた。

撮影にはミラーレス一眼カメラ・ドローン・360度カメラと、報道取材の現場では見ない数の機材を準備した。

11月26日午前10時、吊橋の俯瞰撮影に入る。ドローンを起動させた。想像以上に大きなプロペラ音と風量が周囲の空気を変えた。機体が上昇していく。モニターにドローンが捉えている映像が映し出される。自分がこれまで見たことがないような景色が広がっていた。

「鳥が見ている景色だ」

画面に釘付けになった。およそ150メートルの高さまで急上昇。ドローンの動きは素早い。自分もつられるように、素早く空のドローンとモニターを交互に見た。取材班の中で一番興奮していたのは、間違いなく私だった。

三島スカイウォーク(静岡・三島市)
三島スカイウォーク(静岡・三島市)

「仙石原すすき草原」で“黄金色の絨毯”をドローン撮影

三島の取材を終えて続いて向かったのは、神奈川県箱根町の「仙石原すすき草原」。到着した時刻は午後2時半。夕陽に照らされるすすきを撮影するべく、準備に取り掛かった。日没予想は午後4時33分。11月下旬は日照時間が短い。現場に向かうカメラマンの後を追いながら「この場所は夕陽が沈むまでが勝負!」と言われたことを思い出した。

一面に広がるすすきは、太陽に照らされ、風を受けて黄金色になびいていた。文字通り「黄金色の絨毯」だった。見とれている暇はない。撮影に入る。ドローンがすすきのギリギリ上を通過し、上空から広大なすすき群を映す。私はただただ先輩の指示に従う事しかできなかったが、日が沈む前に撮影を終えることができて素直にホッとした。

 
 

“機能を知り尽くす大切さ”も痛感(新人VEの撮影後記)

入社して3ヶ月。新人の私にとって初めてのドローン撮影現場だった。事件や事故の取材ではない「企画取材」も、出張で取材するのも初めての経験でわくわくしていた。「この天気なら、半分は成功したも同然!」車中で先輩カメラマンが嬉しそうに言っていた。雲ひとつない快晴。「“晴れ女”の私のおかげかも」と、心の中でつぶやいていた。

「撮影」という仕事の魅力にあらためて引き込まれると共に、クルーの一員としてまだまだ何もできていない自分を思い知った取材だった。

普段の業務では触れたことがない新しい機材。機能を知り尽くすことの大切さ、準備は機材を揃えるだけでないことの意味を痛感した。「何を使い、どのように撮影するか」選択肢は無限にある。その中から、自分の思い描く「ベスト」を撮るにはどうすればいいのかを考え、撮影する。

映像を通して人々に伝えたかったのは、「今だからこそ見る事の出来る絶景という瞬間」だった。いつか観ている人の心も晴れやかにする映像を撮って、放送したい。

(撮影中継取材部 新人VE藤田唯可)

「あしかがフラワーパーク」で“日本一”のイルミネーション撮影

花を知り尽くしている“花の専門家”が、愛情込めてイルミネーションも作っている「あしかがフラワーパーク」。全国6100名の夜景観光士によって選出される第九回イルミネーションアワードでは2021年11月第1位。6年連続第1位を受賞している。

なぜ、多くの人の心に感動を与えられるのか。

電球のキャップの形、1球ごとの光の色に秘密がある。電球を近くで見てみると、咲いている花の特徴に合わせ、花の専門家がデザインした花の電球キャップが1球1球手作業で取り付けられている。園内にはバラ、藤、睡蓮、花壇の花など5種類の電球キャップが光り輝く。

また、光の色にも注目してほしい。温かく優しい色を出している光の花がある。担当者に聞くと、「ピンク藤、うすべに藤、きばな藤は、春に咲いている花の色を忠実に再現するために電球に塗装する。全部には塗らない。すべて塗ってしまうと花が単一化してしまい違いを出すのが難しいから…」という。

日々、花を世話している花の専門家がだからこそ、何百万球とある電球に、細かな藤の花の彩りを調整しながら塗装し、表現できる。そして、他のイルミネーションには類を見ない、優しくて温かみのある光の花で訪れた人々を包み込む。

そんな花の専門家たちのアイデアと地道な作業によって、初めて見る者をその場に立ち止まらせるのは、あしかがフラワーパークのシンボルである”奇跡の大藤”エリア。

幅35メートル、枝を広げた大きさは約畳600枚分の広さ。そして、藤の咲く広さとその藤たちを支える樹齢150年の大木の存在感。春は、咲き始め、満開、藤の最後、訪れる度に姿を変え、来場者を楽しませる。

イルミネーションの時期になると、 “夜に映える光の藤の花”に、ガラリと姿を変える。花びらの咲き始めから舞い散るまでの一生が、音楽に合わせて表現されて、花ひとつひとつが魅力的に輝き、舞っているようにすら見える。実物の藤のように、胸のあたりまで垂れ下がっている房が多く、イルミネーションとしては珍しく、かなりの至近距離でもその美しさを堪能できる。

新型コロナウイルスの治療にあたる医療従事者を応援するため“光のバラ園”は去年に引き続きブルーライトアップされた。ほかにも花の専門家たちがそれぞれに思いやストーリーを込めたイルメネーションがある。

今年の見どころは5年ぶりに大幅にリニューアルした一番の人気スポットの”フラワーキャッスル”。

城の前にある一面の花の形をした電球と背景に花火の形をした電球がある人気のエリアだ。今回リニューアルした箇所は、城の後ろにあるバックスクリーン。以前作られたものと比較すると、フラワーキャッスルの裏手にあるバックスクリーン描写を映像のように表現したという。比較してみると花火の描写が映像化され、より本物に近く見えるようになった。

2017年
2017年

                        

2021年
2021年

フラワーキャッスル制作担当者は、「従来の動きも残しながら、どんな新しいシーンを打ち出すかは試行錯誤しました」「実際に光らせて見られるようになってからは毎日現地で確認しては修正しました」と話す。

試行錯誤の結果、完成したフラワーキャッスルは、大迫力の音楽と光のコラボレーションによって、来たものを別世界へ連れて行ってしまうような大人気スポットへと生まれ変わった。

ドローン撮影の「安全管理役」として…(新人VEの撮影後記)

先輩カメラマンの誘いでドローンを使った取材に初めて参加した。「とにかく飛ばして慣れろ」との先輩の教えから、去年から遊び感覚ではドローンを飛ばしていた。取材で扱うのは初めてだった。先輩が実際に撮影のために飛ばす現場を見る事ができる。取材前日からわくわくしていた。

昼間の園内の様子とイルミネーションを見に来た来場者への取材を終え、閉園を待った。園内の人がいなくなり、いよいよドローンを飛ばす瞬間が来た。

私はこの取材でドローンが飛行している位置を常時監視し、操縦士に伝達する「安全管理役」も担当した。障害物とドローンの距離が近い時は迅速に教えて欲しいと先輩から指示された。撮影開始。ドローンが暗闇に飛び出して数分後に、役割の重要性がよく分かった。

操縦者の地点からドローンが離れている場合、昼間でもドローンと障害物の距離感をつかむ事は難しくなる。夜間であればなおさらだった。ドローンを目で追跡すると同時に、飛行ルート先の障害物に目を配る、徹底したチームワーク、声かけの重要を実感した。安全が管理されることで、感動的な映像を生み出すことができることがよく分かった。

ドローンの飛ぶ速度に合わせて操作

大藤のイルミネーション撮影は忘れられない取材経験となった。先輩が“新人”の自分にカメラ操作のチャンスをくれたからだ。ドローン撮影では、操縦と同時にカメラの操作を行う。私が挑戦したのは、先輩が操縦している送信機のカメラコントローラーを動かす役だ。

レバーを操作することで映像を上下に動かすことができる。取材当日まで何回も練習した。ドローンを飛ばさずに練習した時は落ち着いて操作できたが、実際の取材は全く違った。飛ぶ速度に合わせて操作する。わずかな手の動きの差で映像が上下に向いてしまう。飛行の動きが読めずに操作が追いつかずに何度も撮り直しをすることになった。

何度も飛び直しても、先輩は冷静にドローンを操縦して、ぶれることがなく、その技術力に圧倒された。ドローンの操縦訓練のみならず、安全と機材管理など基本から一歩ずつスキルアップし、いつか先輩のように自信をもって美しい映像を撮影できるカメラマンになることを自分に誓った。 

(撮影中継取材部 新人VE石川莉奈)

「嵯峨野トロッコ列車」「伏見稲荷大社」「兼六園」

京都府にある、ディーゼル機関車に引かれ片道およそ25分の渓流や自然の景観を楽しむ観光列車である嵯峨野トロッコ列車では春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬は枯野や雪景色など四季を通じて楽しむことができる。

1300年以上の歴史がある伏見稲荷大社。全国に約3万社存在するといわれる稲荷神社の総本宮である。江戸時代以降、願い事が通るように、また通ったお礼の意を込めた感謝の印として鳥居が奉納される習わしが始まった。稲荷山には約1万基の鳥居があり、なかでも千本鳥居は圧巻である。

石川県の兼六園は、国の特別名勝に指定されている日本庭園で、水戸偕楽園、岡山後楽園と並ぶ日本三名園のひとつに数えられる。加賀藩の歴代藩主により、長い歳月をかけ形作られてきた。金沢の中心に位置し、四季折々の美しい景観を楽しむことができる。

「晴れ男カメラマン」が360度カメラでカニを撮影(取材後記)

11月27日東京駅から最初の取材地、京都に向かってのぞみ1号に乗り込みました。関西地方の天気予報は雨で、滋賀辺りを通過した頃には、車両の中にまで音が聞こえる程の大雨となり不安になりました。ところが、京都に近づくと快晴にめぐまれ、その上、到着は定刻通り8時8分。末広がり(そして、フジテレビのチャンネル8並び!)幸先のいいスタートを切ることができました。

取材を始めてから途中雨が降ってきましたが、撮影の時間になるとサーッと晴れて、撮影した中には雨の映像はありません。

この日は嵯峨野トロッコ、伏見稲荷、祇園の花見小路などの撮影を終えて、すぐに特急列車の「サンダーバード」に乗って金沢へ移動しました。

金沢に着いたのは午後8時13分。元フジテレビ撮影中継取材部カメラマンで、今は石川テレビでカメラマンをしているZさんに取材場所について相談しました。すると驚きの返答。

「取材予定の千里浜なぎさドライブウェイは波が荒いと通行止めになることがある」

と聞いて、えっ?!何?聞いてないよー(・・;)

千里浜なぎさドライブウェイは、日本で唯一、車で走ることができる砂浜の道路。ダイナミックな映像を撮影しようとドローンや360°カメラ、ミラーレス一眼という装備に四輪駆動車とドライバーまで準備し臨んでいた。通行止めになっていないことを祈って、とにかく行くしかない。

「解放されていて!」と願いながら走っていると、道路上の目の前の電光掲示板に「千里浜なぎさドライブウェイ通行止め」との文字が表示された。

「晴れ男カメラマン」の運も尽きたかと悔しい思いをしながらも、気を取り直し現地に行き、車の走っていない、ただの砂浜を、砂浜の砂を噛む気持ちで、ドローンで撮影しました。

悔しさを挽回できたのはカニとの出会いでした。鍋で茹でているカニに出会い、思わず360度カメラで撮影。カニと目線を合わせるような面白い映像を捉えることができました。まるで自分もカニと一緒に茹でられているような不思議な気持ちになりました。

皆さんも是非映像を見てください。

カニはスタッフみんなで美味しく頂きました
カニはスタッフみんなで美味しく頂きました

取材を終え、東京に戻るために乗った新幹線は最終の「かがやき」。発車2分前の飛び乗りでした。

今回の取材では、初めて360°カメラを使ってみました。日頃プロ機材しか使わない我々でも「かなり使える」という手応えでした。

一脚などの先に装着して撮影しながら持って歩けば、後から自分が使いたい場所や画角を切り出すことができます。撮り逃しがありません。カメラの位置だけしっかり決めていれば、誰が持っても綺麗な映像を撮影できるということです。音声も思いのほか収録できているので驚きました。

こんな機材が発達しては、「現場での臭覚・観察力勝負」の我々カメラマンの仕事が減ってしまいそうです。困ったものです。(^_^;)

(撮影中継取材部 上園孝洋)

<撮影>上園孝洋・三浦修・中村龍美・山下高志・佐藤祐記・岸下怜史・赤田年彌・石黒雄太
<執筆>藤田唯可・石川莉奈・上園孝洋
<編集>石黒雄太

Song: Jim Yosef & Anna Yvette - Linked [NCS Release] Music provided by NoCopyrightSounds Free Download/Stream: http://ncs.io/2017Linked Watch: http://youtu.be/yHLtE1wFeRQ

撮影中継取材部
撮影中継取材部