「18歳以下への10万円相当の給付」について、岸田首相は13日「年内からでも10万円の現金一括給付を行うことも選択肢の一つとしたい」と述べた。長引くコロナ禍は困窮する子育て家庭や若者の生活基盤を直撃している中、政府の10万円給付は果たして彼らを救うのか?若者やシングルマザーを支援する団体を取材した。

若者は依然として厳しい状況が続く

生きづらさを抱えた全国の若者に、大阪を拠点として支援活動を行っているNPO法人D×P(以下ディーピー)。ディーピーではこれまでLINEを使ったオンライン相談「ユキサキチャット」で、不登校の10代などに向けた就職や進学相談を行っていた。しかし2020年からのコロナ禍を受けてディーピーは、困窮する若年層への食糧や現金支援を始めた。

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理事長の今井紀明さんはこう語る。

「去年から始めた現金給付は約1200万円、食糧支援は累計約2万6千食です。その間、就職支援をしてきた若者の約半分が就職やアルバイトをし、1割は生活保護につなぐことができましたが、残りの若者は依然として厳しい状況です」

D×Pの今井理事長は困窮する若者に現金給付と食糧支援を行っている
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年末年始に孤立する若者に8万円給付する

こうした若者が年末年始を乗り切るためにディーピーでは、最大250人を対象にした現金8万円の給付を発表した。

「コロナの影響が1年半近く続いて若者の生活基盤が破壊され、いまでもその傷跡から回復するのは容易ではありません。年末年始に向けてこうした若者は孤立しやすく、精神的に落ち込んでいきます。この状況を解決するために、私たちは独自の支援策として8万円給付に動き始めたのです」

10代から20代前半の半分近くは非正規雇用で、特に女性の非正規雇用率が高く、ユキサキチャットの相談の7割以上が女性からだという。緊急事態宣言の解除で雇用環境は改善の兆しがあるとはいえ、依然として彼らには厳しい状況が続いているのだ。

「雇用環境自体は少しずつ改善してきています。しかし家賃などを滞納したり借金をしている若者も多く、働く気力を失ったり心身の健康を崩して通院にお金がかかるケースも多い。公的支援は確かにありますが、彼らの半数以上はその情報を知りません」(今井さん)

ユキサキチャットの相談の7割は女性から

10万円給付から困窮する若者は抜け漏れる

今回政府が打ち出した10万円給付は、果たして困窮している若者を救う手立てになるのだろうか?今井さんは「かなり抜け漏れる支援だ」と語る。

「今回の10万円給付は18歳までが対象なので、親に頼れなくて1人暮らしをしている若者には給付されづらく、住民票を移していなければ親に届いて本人に渡らないこともあります。本来政府がするべきことは、例えば1人親家庭で児童扶養手当を厚くするとか、一時的にでも生活保護を大学生にまで広げるとか、単発で終わらない制度的な支援の充実だと思います」

また「いまの支援の仕組みは若者にとって不平等となっている」と今井さんは強調する。

「必要な支援をスピーディーにするために、1人1人を紐付けるマイナンバーの普及は一定程度必要なのかなと思っています。この課題をずっと解決してこなかった政府には、大きな責任があると思います。あとはオンライン申請をできるようにするのが必要です。若者は電話で相談という文化がなく、リアルの窓口に行って相談したり紙で申請するのに慣れていません」

若者は電話や窓口で相談する文化が無いので支援の仕組みは”不平等”

国が出来ないなら民間で給付していくしかない

8万円給付を求める若者は全国から問い合わせがあり、なかには有名な私立・国立大学の大学生たちもいるという。ディーピーではこうした現金給付の原資を寄付に頼っている。

「いま個人のサポーターさんが2千300人を超えていて、法人も100社を超えています。私たちは給付条件を決め精査したうえで給付を行っています。しかし困窮する若者の孤立の解決にはとにかくリーチして、つながっていくのが大切です」

今井さんは「国が出来ないならば、民間が仕組みを作って行動しなければならない」と語る。

「年末年始は、孤立を深めやすい時期です。家族にも頼れず暮らす若者を、ひとりにしないためのご寄付にご協力ください。250名の若者を支えるために、あと800万円が必要です。ぜひ私たちとご一緒にとお伝えしたいです」

2年間も子どもにまともにご飯を食べさせられない

10万円給付について、2007年以来日本の子どもの貧困支援を行っているNPO法⼈キッズドアの渡辺由美子理事長は「非常に中途半端です」と語る。

「10万円という言葉が災害緊急支援なのか、分配なのかが曖昧なまま独り歩きをしていると思います。困窮子育て家庭、例えば、1人親で非正規で働きながら子どもを育てていたのにコロナの影響で仕事がなくなった人は、子どもにまともにご飯を食べさせられない状況が2年近く続いています。そういう家庭の生活を安定させることが最優先です」

困窮家庭にとっては明日のご飯をどうするかが切実な問題だ。そうした中で様々な自治体が反対している使途を限定したクーポンはどうなのか?渡辺さんは「余分なコストがかかるだけで、やめたほうがいい」と憤る。

「困窮子育て家庭にとってはとにかくご飯が必要なので、食料品が買えないと困るわけです。学習支援に使えますよと言われても、その“手前”が大変なのです。現金にしてお米や学校の制服を買えますとしたほうが絶対いいと思います」

キッズドアの渡辺理事長は「10万円という言葉が独り歩きしている」と憤る

社会が「困窮の人はもう大丈夫だね」となるのが怖い

キッズドアではこの年末年始に向けて困窮子育て家庭に食糧支援を行う。申し込みは現在2千600世帯を超えているという。その際行ったアンケート調査では(実施日11月29日~12月6日・回答数2千585件)、回答者の多くがシングルマザーだった。

「回答者の8割近くは働いていますが、そのうち正社員は2割程度です。年収を見ると200万円未満が7割に達しています。貯蓄も50万円未満が75%です。保護者の健康状態を聞くとよくない、あまりよくないと答えた人が半数近くになっていました」

回答者の7割が年収200万円未満だ(資料提供キッズドア)

緊急事態宣言が解除されてから2カ月が過ぎ、社会はコロナ以前に戻りつつある。しかし渡辺さんは「社会のムードが『困窮の人はもう大丈夫だね』となるのがすごく怖い」と懸念する。

「過酷な状況は全く変わっていなくて、ご飯を満足に食べられない子どももたくさんいます。しかし『もう社会は戻ったんだから、収入がないっていうのは自己責任でしょう』という声が大きくなることを心配しています」

コロナ禍で増える「子どもを持つことはリスクだ、怖い」

アンケートでは、直近の精神状態について「絶望的だと感じる(33%)」、「価値のない人間だと感じる(35%)」、「気分が沈み込む(40%)」と、多くの保護者が自己肯定感、活力や意欲を失っていることもわかった。

困窮家庭の保護者は自己肯定感、活力や意欲を失っている(資料提供キッズドア)

渡辺さんはこう強調する。
「日本は子どもや子育て家庭に対して、災害時の特別扱いがほとんどありません。コロナ禍は非正規や特定の業種の人たちがずっと被災している状態で、被災者認定して支援をしていくべきです。コロナ禍の中で、『子どもがいると仕事に行けなくなる』、『子どもを持つことはリスクだ、怖い』と考える家庭が増えています。これでは日本はますます少子化になっていくでしょう」

いろいろな思惑が混ざって誰も満足できないものになる

10万円給付について渡辺さんは、「日本は子どもや子育てに対する分配が非常に少ないので、増やしてほしいというのはもちろんあります」としたうえでこう語る。

「しかしそれは例えば児童手当を高校まで延長するなど制度としてやるべきで、10万円を配って子育てに分配しましたよというのは違うと思います。もし子ども・子育てを応援するのであれば、960万で区切る必要はなくて、すべての子どもがもらえるようにした方がいいです。今回の給付はいろいろな趣旨が混ざっていて、結果的に誰にとっても満足できないものになるでしょう」

10万円給付はそもそも何を目的にしたものなのか?困窮家庭の支援なのか、子ども・子育て対策なのか。政治がこの問いに明確に答えられない限り、今回のような迷走は続き、多額の税金を使って誰一人救われないような政策となるだろう。

政府は困窮する家庭の声にもっと耳を傾けるべきだ(提供キッズドア)

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款


フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。

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