シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は「摂食嚥下障害」が専門の東京医科歯科大学大学院教授・戸原玄先生が、誤嚥性肺炎の予防法と生きていくために重要な"飲み込む力"を強化する運動について詳しく解説する。

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「摂食嚥下障害」とは

「摂食嚥下障害」は、物を食べることの障害の総称で、そういった方に対してもう一度安全に食べるためにどうするかを指導しています。

大まかにいうと「摂食嚥下障害」という言葉が指す範囲はものすごく広いです。
例えば、「口が悪い」「噛めない」「喉の障害」だけではなくて、食べる行動がうまくいかないから食事がとれないという人まで範囲に入ります。

ただ原因としては、いずれの症状も結構似たような所から出てきていて、数が多いのは「脳卒中の後遺症」や「パーキンソン病」などの神経の病気によっても起こりますし、大事なところは「薬の副作用」も結構あります。

例えば、食べるときに大事な唾液が出なくなるとか、筋力が落ちてしまう場合もあるし、様々な原因によって食べることがうまくいかないというのが「摂食嚥下障害」です。

摂食嚥下障害の1つの「誤嚥」

レントゲンの画像を見て頂くと、飲食物が気管に入る「誤嚥(ごえん)」ということがありますが、この写真の患者さんは極めて「嚥下障害」が重症です。

黒く映っているのがバリウムですが、本来バリウムは口から入ったら食道を通らないといけないのに全然通らずに飲み込んだ半分ぐらいが気管に行ってしまっています。

これが「摂食嚥下障害」の症状の1つの「誤嚥」です。
この「誤嚥」が続いていくと「誤嚥性肺炎」が起こります。

「誤嚥性肺炎」の予防法

「誤嚥性肺炎」にならないためにはどうするか。
健康な人は少しぐらい誤嚥しても気にすることはないです。

基本的には体が弱ってきたようないわゆる寝たきりの人とか、毎日のように少しずつ誤嚥を繰り返していてある日誤嚥に対する侵襲に打ち勝てなくなって肺炎を起こしてしまう人は注意が必要です。

対策としては、口の中の細菌が「誤嚥性肺炎」にとって悪い影響を及ぼします。

口の中の細菌が直接「肺炎」を起こすわけではありませんが、口の中に細菌があると肺炎を起こす菌が繁殖、くっつきやすくなります。
よって、口の中がキレイな人の方が、「誤嚥性肺炎」になりづらいです。

相談先に困ったら・・・

「摂食嚥下」で困った時にどこに相談したら良いかわからないと思います。
何科に行けば良いのか、滅多に専門の科があるわけではないので、わかりやすくするために「摂食嚥下関連 医療資源マップ」というサイトをインターネット上に作りました。

医療資源マップ」で検索してもすぐ出てきます。
全国の対応できる医療機関が1500機関以上載っていますし、嚥下が悪い方が来たときに対応できるメニューを持っている飲食店も70店ぐらい掲載しています。

気になることがある方は検索してみてください。

患者さんのリハビリをしていると「二度と食べられない」と言われた人でも、食べられるようになる方は結構います。
昔は「歳を取ったから仕方ないね」とまとめられていましたが、最近はいろいろなことができるようになってきているので、食べることでお困りの方はリハビリできるところを探して頂きたいです。

嚥下の力を強化する3つの運動

嚥下に関わる筋肉は、手足よりも体幹が落ちると減ってくるので、体幹を保つような生活を送ることが大事です。

歩ける人は歩く、もっと体を動かせる人はちょっとしたスクワットが結構良いです。
嚥下を保ちたい、食べる力を保ちたいと思ったら、体幹を使う生活を心がけることが大事です。

もっと積極的に鍛えていこうと考える場合は、大まかにいうと3点セットの運動があります。
1つは、太ももの裏「ハムストリングス」という筋肉を伸ばすことがとても大事。

太ももの裏の筋肉が短くなってくると、前に体を曲げることがだんだんとできなくなってきます。
深く座れなくなり、ずり下がった姿勢にならざるを得ない。
そうすると食べる姿勢としては不利になってきます。

2つ目は、「嚥下」と「呼吸」は協調運動です。
呼吸が深い方が誤嚥はしづらい

体が弱ってくるとだんだんと猫背になってくるイメージがあると思いますが、肋骨と肋骨の間にも筋肉があって、そこの筋肉が硬くなると肋骨を広げられない、胸を広げられなくなります。

そこで、「腕を組んで上げる」運動をやってもらいます。
すると肋骨と肋骨の間が伸びてきて、ストレッチになり、呼吸を深く保つための運動になります。

3つ目は、嚥下に関わる筋肉を積極的に筋トレする。
口を本気で大きく「あー」と開ける

これは喉から口にかけて「舌骨上筋」という筋肉がありますが、口を開けるときは顎を下に下げる、モノを飲み込むときは喉仏周辺を喉の方に持ち上げる動きをする筋肉です。

なので口を本気で開ける筋トレが、嚥下を改善することに使えます。

嚥下の力を強化するポイントは、
1、脚を伸ばす
2、腕を組んで上げる
3、口を本気で開ける

これが最大公約数的な練習になります。

動画はこちら↓

戸原 玄
戸原 玄

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 医歯学専攻 老化制御学講座 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授、東京医科歯科大学病院 摂食嚥下リハビリテーション科 科長
日本摂食嚥下リハビリテーション学会 認定士 日本老年歯科医学会 認定医・老年歯科専門医・指導医・摂食機能療法専門歯科医師
高齢者を中心とする摂食嚥下障害の治療、リハビリテーションに取り組み、往診による在宅診療や地域連携を積極的に行っている。インターネットメディア・講演活動などを通して、摂食嚥下障害に関する情報発信も行っている。

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