新型コロナウイルスの新規感染者数は大幅に減少したが、いまだに終息には至っていない。

シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は小児感染症科の専門医で新潟大学大学院の齋藤昭彦教授が、子供と新型コロナウイルスについて解説。
子どもが感染した場合に脅威となる「MIS-C」とワクチンの有効性などについて詳しく解説する。

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小児多系統炎症性症候群「MIS-C」

コロナウイルスに感染すると非常に稀ですが、小児多系統炎症性症候群「MIS-C」などの重症な病態になることがあります。

MIS-Cは、デルタ株の流行によって海外での報告が極めて多いのですが、新型コロナウイルスにかかってすぐに出てくるものではなくて、感染して大体2~6週後ぐらいに出てくる、体全体の炎症を総称した病名です。

MIS-Cは子供で良く見る「川崎病」の病態に非常に似ています。
川崎病は原因不明の病気ですが、目が充血したり、唇や舌が赤くなる、首のリンパ節が腫れる、発疹が出たり、手足の先が赤くなり皮が剥けたりします。

特に特徴的なのが、心臓の冠動脈瘤が膨れて時々コブを作ったりする原因不明の病気です。

大体1~4歳ぐらいの小さな子供に起こる病気ですが、決定的に違うのが年齢です。
MIS-Cにおいては、平均年齢が8~9歳です。
大きな子供、小学生ぐらいの子供に起きるのがMIS-Cと報告されています。

何が起こっているのかというと、体の中にウイルスが入ってきて、そのウイルスに対して様々な免疫の反応が起こりますが、体の中でウイルスを認識して免疫を作るには少し時間がかかります。

新型コロナウイルスの感染症を起こしてからだいたい2~6週間後に病気を発症します。
その機序に関与しているのではと言われていますが、まだ精細は不明です。

国内のMIS-C患者数は、これまで10例ほど報告があります。
デルタ株の流行によって国内では感染者数がかなり増えましたが、それによってMIS-Cの症例も増えるのではないかと非常に心配していましたが、増えているという報告はありません。

子供にワクチンは接種すべき?

国内ではmRNAワクチンは12歳以上に接種が可能です。
各地方自治体でもその年齢層への接種が進んでいます。

子供においては重症化しない、かかっても症状が出ないということは考慮した上で、実際にはMIS-Cなどの重症例があることから、現在予防するための方策として唯一積極的にできるのはワクチン接種だけなので、やはりワクチンをしっかり接種して、感染しないための準備をしておく姿勢が重要だと思います。

発達障害を持つ子供に関しては、いろいろなこだわりがあって、特に痛みに対して恐怖を持つ方が多いです。
この状況においては、集団接種ではなく個別接種で確実にワクチンのことを説明する必要があります。

その際には子供をよく知っているかかりつけの小児科の先生が接種してあげた方がより良いと思います。

12歳未満のワクチン接種については、現在ファイザー社のワクチンは12歳以上が対象ですが、アメリカでは5~11歳の子供を対象にしたワクチンの治験の効果と副反応の結果を国にあげています。
今後子供における接種の対象は広がっていく可能性があると思います。

全人口の中で子供だけが接種できていない年齢対象になるので、その辺りの接種を進めることが社会全体の感染者数を減らすという意味でも非常に重要な意味を持ってくると考えています。

注意したい"子どもに出やすい副反応"

ワクチンを接種することによってワクチンの副反応が起こります。
代表的なものはワクチンを接種して大体10~20分以内にアナフィラキシーという激しいアレルギー反応が起こることがあります。

もう一つ、頻度が極めて高いものとして接種した部位が痛くなります。
そして全身症状、発熱や怠さなどがみられることがあります。

また、10代の若い方々に起こりうる副反応として、起立性の調節障害が知られています。
いわゆる朝礼などで立ちくらみの原因となるものですが、パッと立ち上がることによって体の水分のバランスがうまくとれず、頭への血流が減ってしまい、倒れたりふらついたりする症状です。

過度のワクチン接種に対する緊張などから体の交感神経が高まり、パッと立ち上がった瞬間にその辺りのバランスが崩れて倒れたりふらついたりします。

感受性の高い人は、前の人が倒れると自分もつられて倒れるといったことが報告されています。

いままでにそういうことが起こったことがある人は、横になってワクチン接種をしてもらうことも可能です。
あとは、急に立ち上がらない、接種の前にしっかり水分を摂って体内の水分バランスをしっかりすることが必要になってきます。

男性に多い心筋炎・心膜炎

非常に注意しなければいけない副反応の1つに「心筋炎」と「心膜炎」という病気があります。
特に10~20代の若い男性に多く発生します。

頻度としては10万人に1人ぐらいです。
ワクチンを接種した後、特に2回目に多いですが、2回目の接種から1~4日後ぐらいに集中して心臓を包んでいる膜、心臓の筋肉に炎症をきたすことが報告されています。

具体的な症状は、胸の痛み、胸苦しさ、胸の圧迫感、歩いたり運動した時に非常に苦しくなるといったことで病院に行かれる方が多いです。

万が一起こってしまった場合は、それなりの経過を見る必要があります。
場合によっては治療が必要になってくるかもしれませんが、通常一過性で治るので、長期的には心配はいらないと思います。

特に若い方々に関しては、ワクチンを接種した後、通常の運動や部活動は一週間ぐらいは様子を見て、あまり無理をしないようにと指示しています。

心筋炎、心膜炎についてはアメリカのデータが中心に出ていますが、ファイザー社とモデルナ社のワクチンの頻度を比較すると、モデルナ社のワクチンの方がより頻度が高く発生している事実があります。

若年の男性に多いことが報告されているので、海外では男性にはモデルナのワクチン接種を控え、ファイザーで対応しています。

それぞれの国によってワクチンの副反応をどう捉えるかという背景だとか、感染状況によっても大きく変わってくると思いますので、なかなか一概に判断することは難しいですが、これから接種が進んでいく中で症例の頻度がどうなっていくのか、この辺りのデータは注視していく必要があると思います。

齋藤 昭彦
齋藤 昭彦

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 小児科学分野 教授 カリフォルニア大学サンディエゴ校 小児感染症科 Associate Professor
国内での小児科研修後に渡米。米国カリフォルニア州で小児科・小児感染症の臨床トレーニングの後に、カルフォルニア大学サンディエゴ校の小児感染症科のスタッフとして、小児感染症領域の臨床、研究に従事し、その成果は米国の診療ガイドラインなどにも反映されている。帰国後、国立成育医療研究センターの感染症科を立ち上げ、日本における小児感染症専門医の地位と専門医制度の確立に貢献してきた。また、日本小児科学会の活動を通じて国内での予防接種制度の改革活動に精力的に取り組んでいる。日本人初の米国小児科学会認定の小児感染症専門医。

主な所属学会
日本小児科学会(理事)、日本小児感染症学会(理事)、日本感染症学会(理事)、日本臨床ウイルス学会(幹事)、日本感染症教育研究会(IDATEN)(元代表世話人)、米国感染症学会 (IDSA) 会員、米国HIV学会(HIV MA) 会員、米国微生物学会(ASM)会員 1s

名医のいる相談室
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