シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は肝臓病学が専門の広島大学大学院教授・茶山一彰先生が、「脂肪肝」やそれによって引き起こされる「脂肪性肝炎」「肝硬変」「肝臓がん」について詳しく説明する。

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肝臓がんの原因と割合

昔は、肝臓がんになる人の9割以上は、原因がウイルス性でした。
C型肝炎がすごく多くて、C型肝炎が7割以上、B型肝炎が2割ぐらい、そうではないアルコールを原因とする人はすごく少なかったんです。

C型肝炎はどんどん治るようになってきて減ってきました。
B型肝炎はまだ高齢の人はウイルスが陽性な人が多いのでそこまで劇的には減っていませんが、今はB型が1~2割、C型が3割、残りの約半分は「脂肪肝」や「アルコール」が原因です。

こうしたウイルスのいないがんがどんどん増えてきて、今は半分ぐらいを占めています。

「脂肪肝」は、肝臓の細胞に脂肪が溜まってしまった状態で、要は食べ過ぎや運動不足で余ったエネルギーが脂肪になって蓄えられる状態です。

不思議なことに、肝臓にやたらとつきやすい人と皮下脂肪になりやすい人、あるいは内臓脂肪になりやすい人と人によってそれぞれです。
そんなに太っていなくても脂肪肝の人はいるし、結構太っていても脂肪肝は大したことない人もいます。

脂肪肝のもう一つの原因は、アルコールです。
お酒飲んで太っている人は結構脂肪肝の人が多いです。
脂質異常、あるいは高血圧、糖尿病を合併している人はその傾向が多いです。

脂肪肝が進行するとどうなる?

ウイルス性肝炎と同じで、脂肪が原因で肝臓の細胞が壊れます。
そうすると肝臓の中に傷痕ができて肝硬変に向かって進行していきます。

昔はあまり気付かれていなくて、お酒を飲まないんだけどお酒と同じような肝臓の繊維化が起きて肝硬変があります。
全然お酒を飲まないのにそういうことになっている人もいますよ、ということが今ははっきりしてきました。

これは、Non-alcoholic Steatohepatitis (NASH) 「非アルコール性脂肪性肝炎」という病気なんです。

お酒を飲んで太っている人は両方あるということですから、両方のリスクを併せ持っているということなので肝硬変になりやすいということになります。

NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)になりやすい人は、「遺伝子多型」という遺伝子のちょっとした違いによって、例えばお酒が飲める、飲めないとかが決まってきますが、「PNPLA3」という遺伝子のちょっとした違いがNASHになりやすい、なりにくい、あるいは、肝臓に傷痕ができやすい、できにくいという違いに関係があるということが分かっています。

それは血液検査をすれば分かることですが、それよりもやはりどれだけ太るか、どれだけ飲むかといったことを気を付けなくてはいけません。
遺伝子多型が安全の方だからと言って飲んでも食べても大丈夫といったことにはなりません。

肝硬変・肝臓がんの予防法

「食べ過ぎない」「飲み過ぎない」「適度な運動をする」につきます。
ただ、口で言うのは簡単ですが、みなさんなかなかできません。

だから毎日体重を測って、何歩歩いたかを記入するといった地道な努力が大切です。

肝臓は体の中の工場みたいなもので、体の中で必要なタンパク質などを作っています。
それが肝臓が悪いために減ってしまうと、仕方ないから筋肉を分解して使うようになります。

エネルギーが足りないと筋肉から補うことが起こるので、肝臓が悪くなると筋肉・筋力は落ちやすくなります。

あまりハーハーいうような激しい運動ではなくて、じっくり歩くとか、ある程度重たいものをぐっと持って筋肉を鍛えるのがいいでしょう。

ただ、あまり末期になってから無理に運動するとかえって状態が悪くなったりしますから、ひどく悪くならないうちにきちんと運動して、悪くならないようにすることが大事です。

果物はお菓子よりも悪い!

食べ物だったら昔はシジミやウコンが良いとか言っていましたが、これをひたすら食べれば肝臓が良くなるということはありませんから、全体のバランスが良い食事が大事です。

カロリーを過剰に摂ればそれが何からでも変わりありませんが、甘い物は太るのでその辺は気を付けた方がいいです。
過剰に摂取したブドウ糖は、グリコーゲンや脂肪酸になって蓄えられるので、食べるなら食後すぐに少しデザートとして食べるのがいいです。

間食として食べると吸収も良いし、身につきやすいので、食後に意識して「よし!きょうはお菓子食べてやる。だからご飯はこれだけ減らそう」という風にできると一番いいですね。

気を付けないといけないのは、「果糖」が結構悪いんです。
代謝のされ方で果糖が良くないので、果物は肝臓にとってはお菓子よりもむしろ悪いんです。

リスクを高めるタバコ

タバコを吸うと全てのがんが増えます。
肝臓がんも同じです。

吸わない人と吸う人を比べると、吸う人の方ががんになりやすい。
これはC型肝炎が治った人をフォローアップして調査しても、やはり発がん率はタバコを吸う人の方が高いです。

自分の肝臓の細胞が壊れているかどうか、壊れているなら何が原因なのか、あるいは壊れていなくてもウイルスがいないかなど、血液検査でチェックすることが大事です。

異常値が出ていればすぐにわかりますが、B型、C型のウイルスがいても正常値の人もいます。
ウイルス検査は1回やっておけば、皮膚を突き破ったり、粘膜からウイルスが入ってくることがなければ感染することはないので、1回調べておくことが大事です。

肝臓の細胞が壊れたりするような、例えば脂肪が溜まって壊れている、アルコールで壊れていることがないかをチェックすることが大事です。

動画はこちら↓

茶山一彰
茶山一彰

肝臓病学が専門。
日本消化器病学会専門医・指導医
日本肝臓学会肝臓専門医・指導医
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医・指導医

広島大学医学部医学科卒。
虎の門病院内科医長、広島大学病院病院長などを経て現職。

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