糖尿病は「国民病」

シリーズ「名医のいる相談室」では、各分野の専門医が病気の予防法や対処法など健康に関する悩みをわかりやすく解説。

今回は、三重・桑名市総合医療センター・糖尿病内分泌内科の専門医、堀田康広先生が「国民病」とも呼ばれる糖尿病について解説。
自分でできる糖尿病チェックや予防法、正しい治療法と治療薬について詳しく聞いた。

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糖尿病はこんな病気

糖尿病は、血液の中に糖分が出てきてしまう、糖分が溢れてしまう病気です。

名前からして「尿に糖が出る」とイメージされる方がいると思いますが、血液の中の糖分が高いという結果として、尿に糖が出てきます。よって、血液の中の糖分が高い病、【高血糖病】が本来ならば正しい病名かもしれません。

平成28年の国民健康・栄養調査では、糖尿病に罹っている人は約1000万人、糖尿病の予備群は約1000万人ということで、約2000万人が糖尿病に罹患、もしくは疑いがある患者さんです。
なので、「国民病」といえる病気だと思います。

自分でできる糖尿病チェック

自分で血糖値を測定する手段として、薬局で指先に針を刺して血液を絞って血糖値を測る、SMBG(自己血糖モニタリング)という血糖測定器の購入が可能です。

尿に「糖」が出ているかどうかを調べたい場合は、尿をかけて判定する検査紙もあります。
これで尿糖が出ているかどうか確認できます。

朝、空腹時に測った血糖値が126mg/dl 以上、また食事に関係なく測った血糖値が200mg/dl 以上、この両方を満たした場合は「糖尿病」の確定診断となります。

糖尿病の症状でよく言われるのは、「喉が渇いてくる」「体重がどんどん減って痩せてくる」というものがあります。しかし、自覚症状が全くない人もいます。

「し・め・じ」と「え・の・き」に注意

糖尿病を放っておくとどうなるか。
血糖値が200mg/dl を超えてくると、白血球、体の中の自衛隊(免疫)の働きが悪くなるため、ウイルスや細菌などに感染しやすくなります。

あと、最近言われているのが、歯周病との関係です。
歯肉の中に細菌が感染して慢性的な炎症が起こっているような状況が歯周病です。歯周病になると糖尿病が悪化し、糖尿病があると歯周病になりやすいというデータが出ています。

また、糖尿病には、2つ大きな「合併症」の群があります。
1つ目の群は、「細小血管障害」。
細かい血管に糖の酸化物が詰まって血管障害を起こします。

「細小血管障害」は、神経障害「し」、網膜症「め」、腎症「じ」を引き起こします。
まとめて、「し・め・じ」と呼びます。

2つ目の群は、「大血管障害」。
足の壊疽「え」、脳梗塞「の」、狭心症を伴う心筋梗塞「き」。
この「え・の・き」が起きると致命的になる恐れがあります。

糖尿病の種類とメカニズム

糖尿病には4つの種類があります。
国内の90~95%が「2型糖尿病」です。

血糖値(血糖)は膵臓から分泌されるインスリンがないと体の細胞の中に入っていきません。

血糖値、血液の中の糖分が高くなってくると、膵臓はインスリンを出すことによって細胞たちに糖分を取り込ませようとしますが、2型糖尿病は、糖分を取り込む細胞たちに問題があるといわれています。

その細胞たちは、肥満、高血糖、ストレス、がんになってしまった時に、血糖を取り込む気がどんどんなくなってくる。

膵臓はたくさんインスリンを出して頑張るが疲れてしまい、細胞を押さえ込むだけのインスリンを出せなくなってしまう。この状態が「2型糖尿病」です。

「運動・食事・服薬」の3本柱

治療法は「運動」「食事」「薬物」です。
2型糖尿病の原因は、肥満、運動不足、ストレス、食べ過ぎ、高血糖などがあげられます。

①運動療法
まずは、肥満にならないように運動することが重要です。
運動するとインスリンに頼らずに糖分が細胞や筋肉の中に吸収されることがわかっています。

しかし、運動といっても、急に力を入れるような運動は、「網膜症」の人は目の血管が切れる恐れがあるので、運動療法ができるかを医師に確認するといいです。

糖尿病初期の人は、食後15分くらいから血糖値が上がることが確認されているので、食後15分くらいから10分ほど歩いていただく。
それをすると血糖値は下がりやすくなります。

コロナ禍で外で運動ができないという方は多くいらっしゃいます。
家の中で階段を上がるとか、縄跳びを食事した15分後に10分ほどすることを推奨しています。

しかし、肝臓が悪い人は、食後15分は肝臓がかなり働く時間帯なのでそこで運動するのは危険です。いずれにしても、運動療法を行う際は医師に確認するといいでしょう。

②食事療法
これは、カロリー計算をして治療するのがメインになります。
最近、「糖質制限食」がありますが、糖質制限をすると血糖値が上がりにくくなるので良いのですが、極端な糖質制限をすると逆に脂質が多くなったりして、カロリー制限と糖質制限のどちらの方がいいのかというのは、まだ議論の余地が残っています。

今のところ、糖尿病学会としては「カロリー制限」を推奨していますが、マイルドな糖質制限は良いのではと言われています。

③薬物療法
薬は、昔は膵臓を頑張らせるような薬とインスリンの2種類しかありませんでした。
最近は「メトホルミン」という薬が再評価されており、これは膵臓ではなく、細胞を治す(膵臓からのインスリンの効果を良くする)薬で、これを飲むとがんが予防できたり、健康な人よりも長生きできるのではないかというデータも出始めています。

そのため、アメリカではTAME studyといって、健康な人にメトホルミンを飲ませることによって長生きするのかどうかという実験が始まっています。

糖尿病の予防法

食事と運動が糖尿病の予防に繋がります。
食べ過ぎないことで太らない体をつくる、運動することで筋肉を増やし糖分を消費できるところを増やす。

食事も食べ方が大切で、初めにご飯やパン、麺などの炭水化物を食べてしまうと急激に血糖値が上がります。
血糖値があまり上がらないものをはじめに食べて、最後に血糖値が上がるものを食べる。

食べる順番に気をつけて、まず野菜やタンパク質を食べて、最後に糖分を食べることが大切です。これらのことに気を付けながら、糖尿病にならないようにしましょう。

堀田康広
堀田康広

2009年 三重大学医学部医学科卒業後、医療法人山本総合病院で研修を行う。
一般内科として心臓カテーテル検査や上部消化管内視鏡などに携わるものの、病気の根幹に糖尿病が深くかかわっていることを知る。
糖尿病治療の最適化を求めて、2013年に国立大学法人三重大学医学部附属病院糖尿病・内分泌内科医員として勤務。
2018年 より桑名市総合医療センター糖尿病・内分泌内科医長として日々患者さんに笑顔と活力を頂きながら、現在も一人ひとりにとっての最善の治療を模索している。
日本内科学会認定総合内科専門医・指導医 認定内科医
日本糖尿病学会専門医
日本糖尿病協会療養指導医
日本内分泌学会専門医
難病指定医

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