モータースポーツ界のトップが集結

ライバルだけどパートナーでもある。競争だけど協力もする。
ものづくりの精鋭企業が脱炭素に挑む。

爆音をあげ、サーキットを猛スピードで走り抜けるのはトヨタ自動車が開発し、商用化へ向けてさらに進化を続ける水素エンジン車。

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CO2をほとんど排出せずカーボンニュートラル実現の切り札の1つとされるこの車だが、新たなライバルが続々と登場。
脱炭素へ向けた動きがさらに加速している。

11月13日に岡山・美作市のサーキットで行われた耐久レース。
レースに先立って行われた記者会見には日本を代表するモータースポーツ界のトップが集まった。

トヨタ自動車・豊田章男社長:
我々の情熱を持った意志ある行動により、(水素)エネルギーを『作る』『運ぶ』『使う』に対して多くの仲間たちが自発的に増えてまいりました。

2021年5月、世界で初めて水素エンジン車でレースに参戦して以降、トヨタが続けているカーボンニュートラルの実現に向けた取り組み。

そこに、日本のものづくりのトップ企業が相次いで賛同し、新たなパートナー、そしてライバルとしてその輪が一気に広がり始めている。

マツダは来シーズンから使用済み食用油などを原料とした次世代バイオディーゼル燃料車によるレース参戦を発表。
この日のレースにもスポット参戦するなど、環境に優しいクリーンなエネルギーの普及・拡大を目指す。

マツダ・丸本明社長:
燃料の選択肢を含めたさまざまな選択肢を提供することが非常に重要であると考えています。信じています。

そして、スバルも来シーズンのレースに動植物由来のバイオマス合成燃料を使用した車で参戦。モータースポーツの現場での新たなチャレンジを表明した。

スバル・中村知美社長:
選択肢を狭めない。一方でレースはガチンコ勝負ですので、そういったことで競い合いながらカーボンニュートラルの実現に向けていろいろな選択肢で挑戦していきたい。

そして、ヤマハ発動機と川崎重工は、二輪車への搭載を視野に入れた水素エンジンの共同開発の検討を開始した。
今後はホンダとスズキも加わり、内燃機関を活用したカーボンニュートラル実現の可能性を探る。

ヤマハ発動機・日髙祥博社長:
社名に(ヤマハ)発動機とあるように、内燃機関への思いとこだわりを人一倍強く持った会社です。

川崎重工業・橋本康彦社長:
我々のサプライチェーンというのは、内燃機関を使った日本の誇る技術が結集しています。

それぞれの企業が得意分野を生かしながら進める日本、そして世界の未来を見据えた取り組み。

これまで仲間づくりを呼び掛けてきたトヨタは、引き続き水素エンジン車でのレース参戦をするとともに、スバルと同じくバイオマス燃料を使用した新たなレーシングカーを開発。

社長も引き続き、ドライバーとしての参戦に意欲をみせる。

トヨタ自動車・豊田章男社長:
使う側にライバルが増えてきたのはいいことじゃないかなと思う。多様な状況には多様なソリューションが必要。不確実性に対しては多様な解決策で臨むこと。これがわれわれが思っているカーボンニュートラルへのチャレンジの道筋だと思っています。

高い技術力を誇る日本のものづくり。
そのトップランナーたちの"決意"が脱炭素への未来を照らしている。

日本には水素エンジンなど多様な可能性

三田友梨佳キャスター:
早稲田大学ビジネススクール教授の長内厚さんに聞きます。
モノづくりの視点からビジネスを研究されている長内さんの目には今回の試み、どのように映りましたか?

早稲田大学ビジネススクール教授・長内厚さん:
EVは脱炭素の救世主であり、内燃機関はCO2を排出する環境の敵のように語られる風潮に研究者として危惧を感じています。

ヨーロッパのように原発と再生エネルギーを中心に発電して電力網が張り巡らされた場所ならEVでもいいのかもしれません。
ただ発電を火力に頼る地域では脱炭素にはならないし、どこでも電気を使えるという環境でない新興国にはEVは向いていません。

また、寒冷地ではEVは様々な問題があります。
さらに消耗品であるバッテリーのリサイクルや廃棄などの課題もクリアできていません。

三田キャスター:
これからクリアすべき課題も多いEVになぜ、ヨーロッパは熱心なのでしょうか?

長内厚さん:
かつてヨーロッパメーカーのディーゼル性能の偽装によって内燃機関のイメージが悪化したことを受けてEVに行かざるを得なかった状況があります。

さらに日本の自動車メーカーと内燃機関による低燃費・エコという土俵で戦ってもかなわないため、EVという見方もあります。

三田キャスター:
長内さんが考える未来のクルマとはどんなものですか?

長内厚さん:
先程のVTRにあった水素エンジン車も有力な選択肢の一つです。
CO2を排出しないうえに、走らない時には燃料が減らない。
さらにEVの課題でもある寒冷地の問題や廃バッテリーの環境負荷の問題もクリアできます。

ただ、技術には不確実性が伴いますので、何が正解だったのかは今後市場が決めることです。
ヨーロッパの「EV推し」は裏返すと、そこでしか勝負出来ないわけです。

しかし日本は水素エンジン車をはじめ多様な可能性を持っていて、将来のある会社がたくさんあることが特徴です。

三田キャスター:
日本が脱炭素のために生かせる強みは何ですか?

長内厚さん:
水素エンジン車はCO2を排出しない地球への優しさに加え、日本が磨いてきた内燃機関の技術を生かせます。
さらに強調したいのは、ドライバーが走って楽しい車をつくるという意味でもメリットがあります。

自動車メーカーはドアの開け閉めの音や質感までこだわる会社です。
EVでは音や振動が今までのようにはないです。

エンジンの音、振動というのが走る楽しみで、これがなくなると自動車はただの移動手段になってコモデティ化が進み、選ぶ楽しみも低下してしまいます。

情緒的な価値が体験できる車をつくりながら、カーボンニュートラルをやるのは大前提ですが、人類が築いてきた自動車文化を守りながら脱炭素を目指す選択肢を模索していく必要があるのではないでしょうか。

三田キャスター:
世界の流れはEV一辺倒となっていますが、充電する電気が火力発電所でつくられていれば環境問題に与える効果は限定的です。
様々な選択肢をもって脱炭素を目指していく必要がありそうです。 

(「Live News α」11月24日放送分)