福井市のある公立中学校。軟式野球部の指導に精を出す、元中学校教諭の男性がいる。
少子化に加え、教員の働き方改革の議論が進む昨今、60歳を超えても枯れぬ熱意で、令和の時代の「部活動」を支えている。
福井市立至民中学校・野球部は現在、部員は1・2年生あわせて10人だ。
この記事の画像(17枚)彼らと共に汗を流すのは、斎藤武治さん(62)。
斎藤さんは、2020年3月に定年を迎えるまで、至民中学校の教諭として野球部を率いた。退職したあとも、今の顧問と連携を取りながら指導に携わっている。
(Q.中学野球の魅力は?)
斎藤武治さん:
下手な子が上手になること、みんなが仲良くなること。一緒にやることも大好き
教員生活38年のうち、ほとんどの期間で野球部を指導してきた斎藤さん。
ただ、その間に取り巻く環境は変化した。それは野球人口の減少だ。
(Q.減ってきたという感覚は?)
斎藤武治さん:
もちろんある。ずいぶん前は、1人で60人近く見ていたが、今はもう十数人。3分の1、4分の1に減っている
“やらせる”だけでなく…自ら考える練習
至民中学校野球部も、2018年には部員が6人となり、廃部の危機にひんした。
しかし斎藤さんは、熱心な勧誘で部を存続させ、2021年3月の県大会では優勝。7月の県大会でも準優勝へと導いた。
ただ、この時の主力だった3年生の多くは野球経験者だったのに対し、現在の部員は半分が中学まで野球の経験がなかった。
そんなチームだからこそ、斎藤さんは練習の質にこだわる。
斎藤武治さん:
このあと、何の練習が必要?
部員:
取れるアウトが取れなかった
部員:
送球
部員:
セーフティーバント
斎藤さんは練習メニューを与えるだけでなく、自分たちで考えるよう促している。
(Q.考えさせることは?)
斎藤武治さん:
大事。これから先の部活動は“やらせる”だけではなく、自分で考えないと成長できない
部員:
ちょうど良いキツさ。自分にあっている練習
部員:
こまめに教えてくれるので良い
休日は“クラブ活動” 「野球がしたい」に応える
実は休日だったこの日の練習は、“部活動”ではない。
斎藤武治さん:
これはクラブ活動。やらせるのではなく自由参加
(Q.部活ではない?)
斎藤武治さん:
「武治クラブ」と名付けている
この日、グラウンドに野球部の顧問の姿はなかった。この練習は部活動ではなく、あくまでも自主参加のクラブ活動なのだ。
福井県の部活動のあり方に関する方針では、学校の働き方改革と生徒の適切な休養日の設定のため、「平日は少なくとも1日、土曜日および日曜日は、少なくとも1日以上を休養日とする」と定められている。
部員(休養日賛成派):
けがが一番良くないので、しっかり休んだ方が良いと思う
部員(休養日反対派):
土日は(どちらも)あった方が良い。小学校のときはあった
部員(休養日反対派):
家に一日いるのも退屈だし、いっぱい動きたい思いもある
生徒の捉え方はさまざまだが、斎藤さんは「野球がしたい」という思いに応えようと、平日は部活動指導員として部活に携わり、休日はボランティアでクラブチームを立ち上げ、個人で指導にあたっている。
令和の時代の部活動のあり方と、プレーしたいという気持ちの両立…
斎藤さんは、その一助になればとの思いがあるという。
斎藤武治さん:
僕の(教員生活)38年間は、ちょっととんでもない働き方をしていて、そういうマネは若い先生にしてほしくない
斎藤武治さん:
家庭の時間、自分の時間を確保してもらうため、少しでもサポートしていきたい。私は常に子どもと走ったり、一緒に練習するので、体が動かなくなるまで精いっぱいやりたい
変化する令和の部活動。生徒にとっての、指導者にとっての、その在り方が問われている。
【編集後記】
私は現在35歳。
中高の部活動は土日含め、毎日あるのが当たり前という時代に育ちました。
働き方改革や生徒の適切な休養という観点で見ると、休養日を設けることは必要だと思う一方、特に生徒たちの「もっとやりたい」という思いにどう応えていくのかという点も、忘れてはいけないことだと思います。
そんな中で、今回取材した斎藤さんのような存在は、これからの部活動にとって、より重要性が増してきます。
ただ、その善意に甘えるだけでは、長続きしません。
令和5年度から、休日の部活動を段階的に地域に移行していくという話もありますが、指導する側のやる気によりかかるだけでなく、資金面と環境面でしっかりサポートしていく必要があるのではないでしょうか。
引き続き、変わりゆく部活動のあり方の取材を進めていきたいと思います。
(福井テレビ アナウンサー 坂本剛史)