性別を超えた「幸せのカタチ」。性的少数者とされる、いわゆる「LGBTQ」。長野・松本市で2021年春、そうした人を含めたさまざまなカップルを公認する「パートナーシップ宣誓制度」が始まった。
今回、宣誓した1組のカップルが取材に応じてくれた。2人が願うのは、さまざまな幸せのカタチが「当たり前」になることだ。
悩み続け、葛藤を抱えて…「自分は自分らしくいたい」
この記事の画像(13枚)小宮山アナウンサー:
こんにちは、お久しぶりです。きょう、よろしくお願いいたします
川村奈緒さん:
よろしくお願いします
松本市の川村奈緒さん(32)。普段は看護師として働いている。
その一方で、動画投稿サイトに「弾き語り」をアップし、歌を届ける活動もしている。以前、長野放送の歌番組にも出演したことがある。
この日はそれ以来の再会。実は、川村さんには私たちに伝えたいことがあった。
川村奈緒さん:
昔の自分と同じように悩んでいる人がいれば、そういう人たちの役に立つかなと思ったのと、自分も話して役に立てれば、少しでも今までの経験も後悔じゃなくて、少しでも意味があるものになるんじゃないかって思ったので
小宮山アナウンサー:
単刀直入にお伺いすると、川村さんは、LGBTQの中でどれに当てはまるのでしょうか?
川村奈緒さん:
一番、「Q(クエスチョニング)」に近いのかなと。枠に当てはまらない、どれかよく分からないっていうのが正直なところです
Q(クェスチョニング)は、性の自認や性的指向が定まらない、あるいは定めない人。「自分はそれに近い」と打ち明けてくれた。
川村奈緒さん:
昔から男の子が好みそうなおもちゃとか、色とかが好きでした。私服では、スカートはほとんど履いてこなかった。
男性といたら、かわいい格好をしなきゃいけないとか、かわいらしくしなきゃいけないって少し考えてしまったりとか。でもそれって自分じゃないような気がして、「じゃ、男になりたいの?」とか言われたりすると、そうではないんだけどなって。
「どうしたいの?」って聞かれたら、このままでいたいというか、これが自分なので。男らしく、女らしくっていうよりは、自分は自分らしくいたい人なので
服装や恋愛で悩んだり、トイレでけげんそうな顔をされたり…。葛藤を抱えながら、川村さんはずっと「自分らしさ」を探してきた。
歌うことも自分探しの1つ。歌詞が今の気持ちに近いと、ある曲を歌ってくれた。
川村奈緒さん(歌♪):
透き通るほど淡い夜に あなたの夢がひとつ叶って 歓声と拍手の中に誰かの悲鳴が隠れている 耐える理由を探しながら いくつも答えを抱えながら 悩んで あなたは自分を知るでしょう
一緒に暮らすパートナーと「公的に認められたカップル」に
20代のはじめ、川村さんに転機が訪れた。
9年前に出会ったゆかりさん。付き合った直後から一緒に暮らしている。ゆかりさんは、いわゆる「ストレート」。恋愛対象は異性だった。
ゆかりさん:
人として、奈緒さんにひかれたというか好きになった、ただそれだけなんですよね。女性だから男性だからとかではなく、人として奈緒さんという存在が好きになった。自分自身もびっくりしたんですけど、それでも素直にここまで来ているって感じです
先月、2人は大きな節目を迎えた。松本市の「パートナーシップ宣誓制度」に申し込み、公的に認められたカップルとなったのだ。
川村奈緒さん:
結婚という形が今とれないので、何かしら形になるようなものをつくりたいなと思って
ゆかりさん:
家族になりたいっていう思いが強いです。おじいちゃん、おばあちゃんになっても…おじいちゃん、おばあちゃんじゃないな。おばあちゃん、おばあちゃんになっても、支え合えるような存在でありたい
小宮山アナウンサー:
ずばり、幸せですか?
ゆかりさん:
幸せですね
川村奈緒さん:
よかったです
松本市の「パートナーシップ宣誓制度」…婚姻に相当する関係として認める
宣誓制度は、両方もしくはどちらかが性的マイノリティのカップルを婚姻に相当する関係として認めるものだ。県内では2021年4月、松本市でスタートした。
宣誓すると、市営住宅への入居資格が得られる他、市立病院では面会や看取りで親族と同様に扱われる。生命保険の受取人になれたり、携帯電話の家族割引が適用されたりといったメリットもある。
ゆかりさん:
先日(川村さんが)入院したんですよね。その前からパートナーシップに登録しようという話はしてたんですけど、入院した時に誰が説明を聞くとかっていうのが、まだ制約がある状態なので。その時はいい先生で、私がお話を聞くことができたんですけど。
役所の方たちも頑張ってやってくれているのがすごく分かったので、もっと広まればなって。長野県の中でも制度が広まれば、幸せな人が増えるというか
制度がスタートして半年あまり。これまでに宣誓したカップルは2人を含め、5組だ。
松本市・人権共生課・永田沙織さん:
今までは大人向けの啓発活動は行ってきたんですけれども、お子さんに対する周知・啓発活動をしていけたらいいなと思っています。
(宣誓制度を)やっているよってことが広まれば、誰にも打ち明けられない、カミングアウトできていない当事者の方の耳に少しでも入れば、その方たちを勇気づけられる、励ますことができるのではないかと思って、これからも活動を続けていきたいと思っています
「LGBTQは少数ではない」
LGBTQへの理解はまだ低く、権利が尊重されているとは言えない状況だ。パートナーシップ制度も県内の導入は、10月現在、松本市のみ。
川村さん・ゆかりさんは、自分たちのようなカップルが当たり前となる社会を望んでいる。
ゆかりさん:
幸せの一つの形として、私たちみたいな夫婦じゃないですけど、パートナーもいるっていうことを皆に知ってもらって、受け入れてもらって、楽しく生活できたらなとは思っています
川村奈緒さん:
LGBTQっていうと少数派、性的マイノリティーって言われたりするんですけど、少数派だけど、少数ではないと思うんですよね。こういう話題が少しずつでもいろんな人の中でされていくことで、話しやすい空気とか環境って作られていくんじゃないかなって。
10人いたら10人分の考え方があるし、生き方があるし、そういう個性の1つじゃないかなって思います
【取材後記】
川村さんのお話の中で特に印象的だったのは、「性的マイノリティ(少数派)と言われているが、決して少数ではない。まだまだ打ち明けられない人が多いから。むしろカミングアウトという言葉自体なくなって、気軽に話せる世の中になればいい」という言葉でした。
「LGBTQ」と聞くと、特別な人、珍しい人と思うかもしれませんが、むしろ普通とは何なのでしょうか。誰を好きになって、誰と人生を共にするかはそれぞれの自由であり、「男らしい」「女らしい」と枠にはめることは、その個性を奪ってしまいます。
川村さんのエピソードや思いを大勢の方に知っていただき、より理解が広まっていけば、誰もが住みやすい、心地よい世の中になっていくのではないかと思いました。
番組放送後、川村さんのSNSには、「身近なところで理解が広まっていることを実感した」とのコメントが載せられていました。車のディーラーの方から、自動車保険の「本人・配偶者限定」が適用されるか確認しますと提案があったり、また、携帯電話の販売店では、「パートナーの家族割」が可能か確認しますと言われたりしたそうです。
幸せの形は人それぞれ。もし今、悩んでいる方がいるならば、それはあなたの個性であり、どうか無理に周りに合わせたり、自分を責めたりしないでください。
私自身も今後番組を通して、LGBTQについてより理解が深まるよう、取材を続けていきます。
(長野放送 小宮山 瑞季アナウンサー)