次々と待望の若手が登場する日本のフィギュアスケート界。

女子では、わずか12歳で4回転を跳んだ島田麻央の台頭。そして男子は2種類の4回転という強みを持つ三浦佳生(かお)、16歳。彼もまた2026年のミラノオリンピックを目指す一人だ。

そんな期待の新星、三浦は同世代や憧れの選手から刺激を受け、貪欲に上を見続けている。

三浦佳生、2020年全日本のフリーの演技
三浦佳生、2020年全日本のフリーの演技
この記事の画像(14枚)

昨年の全日本ジュニア選手権で三浦は、中学3年生ながら2位となり表彰台に上った。全日本選手権のフリーでは3本の4回転を成功させ5位に。総合でも7位に入り、新人賞を獲得した。

そして、今年10月に行われた東京選手権でも自己ベストを更新。今まさに伸び盛りの三浦は、全日本ジュニア選手権の優勝候補でもある。

武器は2種類の4回転

インタビューに応じてくれた三浦佳生(2021年10月)
インタビューに応じてくれた三浦佳生(2021年10月)

「1番の武器は4回転の質とスピード」と話すように三浦の武器はなんといっても4回転だ。高校1年生ながら、すでにトゥループとサルコウ2種類の4回転ジャンプを自らの武器として戦っている。

思い切りの良い踏み切りから繰り出される、切れ味が鋭く、飛距離のあるジャンプは成功すれば3点以上も加点がつく。見ている側が思わずハラハラしてしまうほどのトップスピードからジャンプを跳ぶ三浦に「怖くないのか?」と質問を投げかけると、「全然怖くないです!」と即答。

続けて「逆にあれくらい(スピードが)ついてないと気が済まないというか…。僕は結構スピードを利用して、その流れで跳ぶタイプなので」と明かした。

同世代の2人には「負けられない」

今や自信を持って「武器」と言える4回転ジャンプ。2018年の中学1年生で出場した全日本ジュニアでは4回転トゥループを成功。4回転サルコウもすでに練習で着氷させていた。

2018年に全日本ジュニアに出場した三浦佳生
2018年に全日本ジュニアに出場した三浦佳生

三浦が意欲的に高難度の技に取り組むのには、同世代の仲間の存在があるからだ。

彼らに追いつくべく、新たな4回転習得に向けて練習を続けている。

切磋琢磨してきた3人 左から)佐藤駿、鍵山優真、三浦佳生(2018年撮影)
切磋琢磨してきた3人 左から)佐藤駿、鍵山優真、三浦佳生(2018年撮影)

「2個上に(佐藤)駿と(鍵山)優真がいて、2人の活躍はもちろん見ていますし、自分も負けられない思いがここ何年もある」

今や大ブレイク中の18歳の鍵山は、2021年3月の世界選手権で銀メダルを獲得し、北京オリンピックの代表候補でもある。

17歳の佐藤も2019年ジュニアグランプリファイナルを歴代最高得点で優勝。今季は4回転ルッツやフリップを含む世界屈指のジャンプ構成で、北京オリンピックの代表を狙っている。

三浦にとって鍵山と佐藤は仲間でありライバル(2018年撮影)
三浦にとって鍵山と佐藤は仲間でありライバル(2018年撮影)

鍵山と佐藤がジュニアだった頃は、三浦を含めた3人で何度も表彰台に上がってきた。三浦にとって上位には常に2人の姿があった。鍵山や佐藤がいたからこそ、三浦は早くから4回転という高難度の技に挑戦することもでき、「この世代で良かった」と“ライバル”たちに感謝もしている。

常に刺激を受け、今では三浦にとって手の届かない存在になってしまった2人。そんな彼らを見てフィギュアスケートに打ち込んできた三浦は「どんどん2人に近づいて、越していかないといけない。スケーティングもそうですけど、新しいジャンプは必須になってくると思うので練習しています」と、さらなる成長を約束した。

羽生からの“助言”で意識改革

同世代の2人を追いかけ、がむしゃらに突き進んできた三浦だったが、今季はどことなく雰囲気が変わったように見える。

三浦自身は「高校に入って静かになったんですかね」とも言うが、憧れの選手の一人である羽生結弦の影響は大きかったようだ。

2020年全日本選手権会場での三浦佳生
2020年全日本選手権会場での三浦佳生

「昨年の全日本選手権で羽生くんの演技を見て、『ああなりたい』って思ったのが一番大きかったと思います。あそこから意識が変わって、次の日からスケーティングの練習をひたすらやって。多分、そこで意識が変わっていますよね。本当にすべてが完璧な4分間だったので。あの演技が自分にもできるようになればと思います。あれぐらいしなきゃ、全日本1位になれないんだと思って。全日本がすごく、いいきっかけになりました」

今季はジャンプだけでなく、スケーティングも磨き、レベルアップを図っている三浦。全日本選手権の後、2021年4月のアイスショー「スターズ・オン・アイス2021」でも羽生と共演する機会があり、競技以外の面でのアドバイスも受けたという。

「(食事の時に)肉や本当に茶色いものばかりお皿に乗せて席に戻ってきたら、隣の羽生くんに『それだけ?野菜は?そんなんばっかりだったらニキビ治らないよ』って言われて」

以前はお菓子も大好きだったはずの三浦が、「もうポテチ1袋食べられないです」と羽生からの言葉をきっかけに、今では食に対する意識も向上し、体のコンディションも好調だという。

ちなみに三浦は羽生の他にも、髙橋大輔や宇野昌磨、友野一希といった選手も憧れの存在として挙げている。彼らはみな、自身の持ち味を持ち、それを生かすスケーティングをする選手たちであり、三浦にとっては憧れで、目標だ。

4年後のために…目指すは全日本出場

10月29日から31日にかけて行われる東日本選手権に出場する三浦。

すでに東日本選手権への出場権を得ていたが、10月上旬の東京選手権で、さらなる成長を予感させた。

ショートでは初めての80点台に到達したが、「ステップもレベル1でしたし、ちょっと変更して、さらにもっともっと出せるという意識で今はやっています。昨年よりも良い滑りを見せて、どの試合でも評価を上げていければいいかなと思います」と意欲を見せた。

三浦はジャンプでも4回転フリップと4回転ループへの習得に着手している。4回転ループはすでに練習では着氷しているようだが、「まだ波があるんですよね。降りたばっかっていつもそうなんです。何回も締めていって、自分のものにどんどんしていけたらいいなと思います」と語った。

東京選手権後に三浦は、間に合えば東日本選手権でのチャレンジも示唆していたが、どんな構成で臨むのだろうか。

2020年の全日本選手権でフリーを披露する三浦佳生
2020年の全日本選手権でフリーを披露する三浦佳生

また東日本選手権のあとには、優勝を目指す全日本ジュニア選手権が控えている。全日本ジュニアで目標を達成すれば、昨年“変化”のきっかけとなった全日本選手権への出場も待っている。全日本選手権は特に、北京オリンピックの代表選考会も兼ねているため、緊張感もあるだろう。

ミラノオリンピックを目指している三浦は、北京オリンピックの代表選考会を体感したいという。だからこそ、「全日本選手権のフリーを最終で滑ること、その次に全日本ジュニアの優勝と世界ジュニアの表彰台を引っ提げてシニアに上がりたい」と今シーズンの目標を掲げた。

常に上を目指す三浦がどんなチャレンジをするのか。この16歳からまだまだ目が離せない。

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班