名古屋入管に収容中のスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが3月に死亡した問題。今月1日、ウィシュマさんの死の直前までの様子を映した監視カメラの映像が初めて遺族の弁護団に開示された。弁護士の駒井知会氏は、映像のあまりの惨さに「弁護士達も皆、呆然としていました」と筆者のインタビューで語った。弁護団は国に対して国家賠償を求めた訴訟を起こす。

開示された映像に弁護団は呆然とした

「なぜこんな状況でこの部屋にいさせ続けたのか。本当に皆、呆然としていました。弁護士たちも。全く理解できない世界でした」

こう語るのは遺族の弁護団の1人、駒井知会氏だ。

映像を視聴し記者会見する駒井知会弁護士(10月5日国会にて撮影)
映像を視聴し記者会見する駒井知会弁護士(10月5日国会にて撮影)
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この映像は今年7月に遺族が、名古屋地裁に証拠保全を申し立て開示が認められたものだ。遺族と弁護団らは今月1日、2月22日からウィシュマさんが亡くなった3月6日までの7日間の映像、約1時間30分をみた。

死亡当日「指先がちょっと冷たい気もします」

駒井氏はウィシュマさんが亡くなった6日朝の映像について、こう語った。

「朝、職員が『おはよう』と声をかけるんですけど、ウィシュマさんはほとんど反応がありませんでした。しかし職員は『洗濯物後ろ置くね』とか『バイタルを測るね』とか、なぜか分かりませんが、声が若干明るい気がしたんです」

死亡当日の映像についての駒井氏のメモ(本人提供)
死亡当日の映像についての駒井氏のメモ(本人提供)

そして映像は当日ウィシュマさんが亡くなる直前に変わる。

「14時5分、職員が部屋に入ってきて、『サンダマリさん(※)、サンダマリさん?』と何度も呼びかけました。しかし反応がないので彼女はインターホンに向かって『指先がちょっと冷たい気もします』と報告をして。その後脈を取ろうと腕に手を当てたり、心臓のところに耳を当てたり。この時はさすがにまずいと思ったみたいですが、もう全く反応がありませんでした。そこで映像は終わっています」

(※)職員らは「サンダマリさん」と呼んでいた

「どう見ても食べさせるどころではないのに」

ウィシュマさんの妹ワヨミさん(2021年9月23日日帰国)とポールニマさんは、2021年8月12日月法務省で入管が編集した映像をみていた。しかし途中でワヨミさんが体調不良となり、閲覧は3月3日分までで中断。3月4日以降の映像をポールニマさんがみるのは初めてだった。

「4日の朝は、職員達がウィシュマさんの上半身を起こそうとすると、痛がって呻いていました。着替えさせようとしても、ほとんど動かない。車椅子に座っていてもうなだれて顔を上げることは出来ない。しかし職員は『食べないとねえ。食べるともっと動けるようになるよ』というようなことを言っていました。どう見てもそれどころではないのに」

3月4日の映像に関する駒井氏のメモ(本人提供)
3月4日の映像に関する駒井氏のメモ(本人提供)

「彼女たちも相当まずいなと思ったのでは」

前日の5日朝も、職員は『おはよう』とか『着替えようか?』とか話しかけていた。駒井氏は続ける。

「しかしすでにウィシュマさんはほとんど動かなく、うめき声や悲鳴をあげていました。この日は職員がこれまでの2人から4人に増えていました。彼女たちも相当まずいなと思っていたんじゃないでしょうか。彼女たちにしてみたら、介護の専門家ではないし、すごく気が重くなっていたのかもしれません。一方で『なんでこんなことさせられなきゃいけないの?』という気持ちもあったのではないでしょうか」

「しかし呼びかけても返事をしないウィシュマさんに、職員はおかゆを食べさせようとしているんです。そしてもう食べられる状態でないことがわかると、砂糖だけ口に含ませようと。あそこまで衰弱している人にお粥や砂糖を含ませようとするのは、もはや現代社会の考え方じゃないと思いました。とても現代日本の出来事だとは思えなかったです」(駒井氏)

死亡前日に仮放免の意思確認をしていた

その日には仮放免にむけた意思確認が行われていたこともわかった。

「18時頃、女性の職員が『ボスがお話ししたい』と伝えて。その後、職員の上司らしい男性がやってきて、すごく饒舌に話続けて。『良くなっている?』とずっと問いかけるんです。そして『仮放免のお願いしているでしょ。仮放免になったら●●さん(保証人)のところに行くの?』とか」(駒井氏)

駒井氏は「たぶんこの時には仮放免をしたかったんだと思います」と続ける。

「最後の意思確認のための面接をしたかったのでしょうが、ウィシュマさんの体調は明らかにそんな面会に耐えられる段階を過ぎていました。本当にひどいです」

駒井氏のメモには死亡前日の面会の様子が綴られている
駒井氏のメモには死亡前日の面会の様子が綴られている

弁護団は国家賠償を求めた訴訟を起こす

映像をみながらポールニマさんは目に涙をためていた。気遣った駒井氏が「少し休む?」と聞くと、「大丈夫」と最後まで気丈に見続けた。その後裁判所が用意した長椅子に横になりながら、ウィシュマさんの思い出を駒井氏に話したという。

国会で記者会見する妹ポールニマさん(中央)
国会で記者会見する妹ポールニマさん(中央)

弁護団は今後国に対して国家賠償を求めた訴訟を起こす。提訴は名古屋地裁か東京地裁は未定だという。駒井氏はこう語る。

「裁判が始まれば映像提出の申し立てをする方針です。けれども、これとは別に入管はいつでも提出しようと思えば、提出できるんです。しかし様々な言い訳をして、最後の最後まで争ってこれから半年先になるか、もっと先になるのかわかりません」

保安や名誉・尊厳は非公開の理由にならない

弁護団は映像を一般公開するつもりだと駒井氏はいう。

「遺族は映像を日本国民や外国人に見てもらいたいという意思を持っています。ですので、私たちは御遺族の許可を得て、一般公開する方向で考えております」

古川禎久法相は5日、就任後初めての記者会見で、映像の開示について「保安上の問題や亡くなった方の名誉、尊厳もあり、代理人を含めた公開は適当でない」と語っている。

既に弁護団に開示され、ウィシュマさんの遺族が公開を求めている中、これは理由にはならない。国連から直ちに見直すよう求められている入管制度のあり方について、国民的議論をするためにも映像公開は必要だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。