名古屋入管に収容中死亡したスリランカ人女性のウィシュマさんの問題について、遺族にのみ開示された監視カメラの映像の全容がわかった。そこに映し出されていたのは、日々衰弱しながらも生きようとしたウィシュマさんの姿と入管職員の人権を蹂躙する非人道的な行為だった。ともに映像を見た従姉妹に映像の詳細を時系列で聞いた。

殺風景な倉庫のような部屋で映像は開示された

ウィシュマさんの従姉妹のマンジャリさんは映像を遺族と見た
ウィシュマさんの従姉妹のマンジャリさんは映像を遺族と見た
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従姉妹のマンジャリさんによると、遺族が映像を見せられたのは法務省内の殺風景な倉庫のような部屋だった。正面には大きなプロジェクター画面があり、入管側からは佐々木聖子入管庁長官、丸山秀治出入国管理部長のほか、職員、通訳など計8人、遺族側はワヨミさん、ポールニマさんとワヨミさんの夫、マンジャリさんと通訳の5人だった。全員がパイプ椅子に座った。

マンジャリさんの話をもとに筆者が描いた映像開示時の部屋の様子
マンジャリさんの話をもとに筆者が描いた映像開示時の部屋の様子

プロジェクター画面は大きかったものの、映像は円形で小さかったとマンジャリさんはいう。

「映像は天井にある監視カメラ1つのもので、音声ははっきり聞こえるが、映像は体の動きがわかるくらいで顔の表情までははっきりわからなかった」

部屋にはベッドが1つあるだけで、ベッドと壁の間は人がやっと通れるくらいの狭さだ。出入り口を入ると右側にベッドがあり、奥にトイレと洗面器・鏡がある(プライバシー保護のため映像にはモザイクがかかっている)。丸い映像の下半分は壁が映っているので、映像は実質半円のかたちだ。

マンジャリさんの話をもとに筆者が描いた映像に映る部屋の様子
マンジャリさんの話をもとに筆者が描いた映像に映る部屋の様子

「あーあー」と大きなうなり声をあげていた

映像は日付入りで、日付が変わるたびに職員・通訳から映像の説明があった。

最初の映像は2月22日午前9時21分から37分の16分間。ウィシュマさんの服装は白っぽいフード付きのジャージとスエットパンツで、頭にはフードを被っていた(ほぼいつも同じ服装)。

映像の冒頭ウィシュマさんはベッドの上で左右に寝がえりを打ちながら、1人で「あーあー」と大きなうなり声をあげていた。そこに収容者の友人が訪れると、ウィシュマさんは声を出すのを止め、その友人が歯磨き粉をつけた歯ブラシで、ウィシュマさんはベッドに腰かけ壁にもたれかかりながら、バケツを抱えて弱々しく歯磨きを始めた。

映像の冒頭でウィシュマさんは大きなうなり声を上げていた
映像の冒頭でウィシュマさんは大きなうなり声を上げていた

「セーライン(点滴)」と身振りを入れながら4回言う

2月23日午後7時37分から39分の2分間。

女性職員2人(※)が部屋にいて、ウィシュマさんは壁にもたれかかりながらベッドに座っている。映像は職員の「違うことを考えて」という言葉で始まる。職員の顔にはモザイクがかかっており誰かはわからない。ウィシュマさんは「病院に連れて行って」と訴えるが、職員は「私たちはずっとみているからね」と肩をトントンと叩く。

(※)ウィシュマさんの担当職員は映像中ずっと女性。

そして職員が部屋を出ようとするとウィシュマさんは「行かないで」と言い、職員は「大丈夫、私たちがいるから」と返す。さらにウィシュマさんが「セーライン(シンハラ語で点滴)」と身振りを入れながら4回言うが、職員は「セーラインって何?」「いまお医者さんがいないから私たちはわからない。お医者さんしかできない」と返す。

そこでウィシュマさんが「ボスを呼んで」と言うと「ボスは休み」と職員が言って映像は終わる。

その映像が終わるとワヨミさんは、「入管職員が言った“違うことを考えて”はどういう意味なのか?この前の映像を見たい」と入管側に詰め寄った。これに対して職員は「今日は用意していないから今度見せる」と伝えて会話はいったん終わった。

妹のワヨミさん(左)は「この前の映像を見たい」と入管側に詰め寄った。右は妹のポールニマさん
妹のワヨミさん(左)は「この前の映像を見たい」と入管側に詰め寄った。右は妹のポールニマさん

「ウィシュマさんが立った映像は一度も見ていない」

2月24日午前11時13分から19分の6分間。

収容者の友人が仮放免になるため別れの挨拶にやってきた。顔にはモザイクが入っている。友人はウィシュマさんの頭や肩をマッサージしたり、抱きしめてキスをしたりしながら「私はここを出るけどあなたも頑張って出てね。ちゃんとご飯を食べてね」と語った。

ウィシュマさんの返事はか細くほとんど言葉が聞き取れない。壁にずっともたれかかりベッドに座ったままだ。

マンジャリさんは「私たちはウィシュマさんが立った映像を一度も見ていない。座っている態勢を見ても、脚には力が入っていない感じだった」と語った。

「担当さん、転んだ」と助けを呼ぶが誰も来ない

2月26日午前5時14分から36分の22分間。

ウィシュマさんはベッド上で「あーあー」とうなり声をあげながら寝がえりを打つとベッドから転落した。ウィシュマさんは「担当さん、転んだ」と叫ぶと、職員の面倒くさそうな「わかった」「自分でやって」という声だけが聞こえる。部屋には誰も来ない。

その後ウィシュマさんはベッドに手をかけ起き上がろうとするができず、「担当さん」と24回助けを呼ぶ。ウィシュマさんはベッドにあった毛布を手繰り寄せて自分にかけたところで、職員2人が部屋に入ってきて「昨日の夜みたいになるよ」と言った。

ウィシュマさんはベッドから転落し「担当さん」と24回助けを呼んだ(マンジャリさん作画)
ウィシュマさんはベッドから転落し「担当さん」と24回助けを呼んだ(マンジャリさん作画)

ここでワヨミさんたちは映像を止めさせ、「昨日の夜は何があったのか」と職員に尋ねたが「今度見せる」との回答だった。

支援者によると前夜の25日夜トイレに行こうとしたウィシュマさんは、助けを求めたが誰も来ず、自力で這いつくばって行こうとして頭と手に怪我をしたという。

「床が寒い」と訴えるウィシュマさんを跨いで出て行く

職員2人はウィシュマさんをベッドに戻そうとするが、腰を持ったり服を引っ張るだけで「助ける振りとしか見えなかった」(マンジャリさん)。ウィシュマさんがベッドにもたれて床に座ると、「あなたは私たち2人じゃ重くて無理。大きい声出さないでね。ほかの人に迷惑をかけるから。朝まで頑張ってね」と話し、ウィシュマさんが「担当さん、床が寒い」と訴えると職員は毛布をかけてウィシュマさんの足を跨いで部屋を出ていった。

2月27日午前10時16分から17分の1分間。

ウィシュマさんは車いすに座っている。シャワーに行く前との説明があり、11時4分にシャワーから帰ってきたと職員から説明されて映像は終わる。ウィシュマさんは車いすに座ったままで、車いすを押している職員にはモザイクがかかっている。

ワヨミさんはこの映像を見て「姉が自分で車いすに乗ったのか、誰が乗せたのか」と聞いたが、職員は「いまは映像がないので今度見せる」と答えた。

(関連記事:ウィシュマさん妹「ここには人道がない」…なぜ入管施設では悲劇が繰り返されるのか

#2後編に続く

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。