学生三大駅伝と呼ばれる「出雲、全日本、箱根」の開幕に備える重要な合宿の真っ只中、マスコミの取材には普段から強気のコメントを発する原晋監督が、語気を強めながら語った。

ーータイムで言ったら、今までの史上最高のレベルでは?
そうですね。チームとしては私、今年で18年目を迎えるわけなんですが、監督就任18年目でチームとしては最高でしょうね。

ーー2016年に三冠を達成された時に比べて、今のチームはいかがですか?
実力的には今のチームの方があります。ただ、他大学も力をつけました。ですから1戦1戦を真剣に戦っていきたいと思います。最後は学生たちの力をいかに当日100%、あるいは120%発揮させるかどうか。最後は監督手腕でしょうね。

練習に励む青山学院大学陸上競技部の部員たち
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かつて2016年度に学生三大駅伝三冠、さらにその後箱根駅伝4連覇を達成した青山学院大学も、昨年度は全日本4位、箱根4位と7年ぶりに無冠で終わった。

また三大駅伝全体を見渡しても、19年度はすべての大会で優勝校が入れ替わり、昨年度は全日本、箱根で駒澤大学が二冠に輝くなど、まさに“戦国時代”に突入している。

そんな状況下でチームを率いる指揮官として、たとえリップサービスの要素があったとしても、「チームとしては史上最高」という言葉は、裏付けなく語れる言葉ではないだろう。

その言葉を裏付けるものとは何なのか?

学生三大駅伝の開幕を告げる出雲駅伝を前に、無敵を誇った青山学院を取り巻く“今”に迫った。

なぜ「最高」といえるのか?それを裏付ける戦力

5000m13分台のメンバーが揃う青山学院

原監督率いる青山学院は今年、出雲駅伝のエントリー選手10名全員を、大学陸上界ではトップクラスとされる5000m・13分台のメンバーでそろえている。

エントリー10名全員が13分台なのは、昨年二冠の駒澤と青山学院の2校だけという高い戦力だ。

原監督は自信を込めてこう語る。

「5000メートルの13分台ランナーが(チーム43人中)22名出ました。ですからチームの底上げ、また厚みが、非常に良いものがトラックシーズンでは証明できているかなと思います」

さらに注目したいのが、2021年新春の箱根駅伝での復路優勝メンバーが今年も残っている点だ。往路12位の失速から一気に総合4位にまで挽回した強さは、全国の駅伝ファンの目に焼き付けられた。

「負けてなお青学強し」を印象付けた伝説の走りだが、この復路のメンバー5名のうち、卒業した4年生1名を除いて、なんと4名が全員出雲にエントリーしている。

長距離を走る箱根と、比較的短い距離を走るスピード勝負の出雲。

それぞれでメンバーを入れ替えるのが青山学院の戦略だが、層の厚さと経験豊富なメンバーの存在は青山学院ならではの強みと言える。

まさに「監督就任18年目で最高のチーム」と語る訳がここにある。

選手の自主性と目標設定

インタビューに応じる原晋監督

さらに青山学院を特徴立てているのがその指導方法だ。初めて箱根駅伝で優勝した2014年の「ワクワク大作戦」や、三冠に輝いた2016年の「神ってるぞ 青山大作戦」など、マスコミを意識したユニークなスローガンでも有名だが、なにより選手の自主性を重んじた指導で黄金時代を築いて来た。

原監督はその“自主性”について、次のように考えている。

「私どもが箱根や出雲で初優勝した頃は、まだまだ上意下達(じょういかたつ)の指導、監督のパワー型で指導しているスタイルが主流だったと思います」

「その中で、実戦を重んじるサーバント型(支援型)の組織マネジメント、学生たちのマインドを開く指導スタイルをいち早く取り組んだのが、我が青山学院ですが、プラスアルファの力を発揮する選手、あるいはチーム、そういったものが多くなったなと感じますね」

さらにこの考え方はチーム内での具体的な目標設定にもつながる。

「これは毎年青山学院のスタイルですけれど、シーズン始めに目標設定をするんですね。以前は監督が『この目標で行くぞ!』という形をとっていましたが、もう数年前からは学生たちが今年度のスローガンであったり目標を決めています」

「その中で今年の目標は”学生三大駅伝三冠”というものを目標に掲げて、シーズン始めのスタートを切りました。その力が全くないんだったら『嘘言うな』、『何をはったり言ってるんだ』となりますが、充分力がついているので、学生が掲げた“三大駅伝三冠”に向けて、私もサポートしたいと思っています」

復権を狙う青山学院。最大の壁は昨年二冠の駒澤大学

ーー今年の大学駅伝、監督から見てどういう戦力図になっていますか?
駒澤でしょう。強いと思います。

原監督の口調が一段と強まる。

「でも一強とは言わせません。確かに駒澤は強いです。ただ、一強では面白くありません。強いのは認めます。でも簡単には負けません。そして我々が勝ちます」

昨年度、全日本・箱根と二冠を達成した駒澤大学。初戦の出雲駅伝はコロナ禍の影響で中止となってしまい三冠達成はならなかったが、年度をまたぐ形での三冠を狙っている。

さらにエントリーされた選手10名全員が5000mのタイムで13分台なのは、原監督の青山学院とこの駒澤大学の2校だけ。先ほども触れたように戦力の厚みが他校を一歩リードしている。

駒澤のエース田澤廉(左から2人目/2019年出雲駅伝)

中でも「学生長距離界のエース」と呼ばれる駒澤大学の田澤廉(3年)がチームの中心的存在。今年の箱根駅伝では、各校のエースが集う“花の2区”で7人抜きを演じると、5月の日本選手権10000mで学生歴代2位の記録をマークしている。まさに「一強」と言われるゆえんだ。

さらに原監督が“世界的な逸材”と恐れる選手がこの出雲駅伝で初参戦を果たす。

東京国際大学3年のイェゴン・ヴィンセント

「やはり東京国際大学のヴィンセント選手でしょう。無次元の走り。これは日本の実業団選手、また日本の実業団に来日している外国人選手にも一歩も引けを取らない、世界を代表する選手に
なる逸材だと思います」

このイェゴン・ヴィンセント(東京国際大学3年)は、駒澤大学の田澤が7人抜きを演じた“花の2区”で区間新記録と14人抜きの離れ業を演じ、大会MVPの金栗四三杯に輝いた。5月には男子5000mで14年ぶりに日本学生記録も更新しており、さらにその破壊力を増している。

本人もアンカーを任された場合、「2分ならば逆転」と意気込む。東京国際は何秒差でアンカーにタスキを繋げるのか、追われる強豪たちは逃げ切れるのか、過去13度、最終6区での逆転を生んだ出雲駅伝だけに最後まで決着は分からない。

ーーもしヴィンセント選手が6区のアンカーになるとしたら、やはり各校の戦略は?
やっぱりね、そこまでに1分は離しておかないとダメでしょう。場合によっては、1分半。これ位差をつけて最終6区に渡していかないと、一気に来ると思います。

出雲大社からの下りを利用してダァーと上がって、競技場の横の坂を上って下ったあたりから見えてくると、やっぱり彼の破壊力は1枚も2枚も飛び抜けている選手だと思いますので、本当に最低1分、場合によっては1分半リードしたいですね。

「最後は監督の手腕」という覚悟

明日、10月10日にスタートを迎える出雲駅伝。

果たして原監督の目論見通り、青山学院は1分半以上のリードを保って最終区を迎えられるだろうか?そして駒澤大学の“年度またぎでの三冠”を阻止できるのか?

2016年度の“リアル三冠王者”の力が試される時が近づいている。

最後に開幕に向けた分析と決意を聞いた。

ーー2016年に三冠を達成された時に比べて、今のチームはいかがでしょうか?
実力的には今のチームの方があります。ただ、他大学も力をつけました。そう簡単にできるものではありません。ですから1戦1戦を真剣に戦っていきたいと思います。

最後は学生たちの力をいかに当日100%、あるいは120%発揮させるかどうか。最後は監督手腕でしょうね。

ーー出雲駅伝の抱負を。
駒澤大学は強いのはわかっていますし、周りの関係者も「駒澤大学一強じゃないか」という声も聞こえますけど、決してそんな事はないと。打ち負かすのは青山学院大学しかない。そういうふうに思っていますので、三冠を狙える陣容は揃いました。出雲から戦っていきたいと、そういうふうに思います。

出雲、全日本、そして箱根へとつながる学生三大駅伝。明日12時5分の号砲とともに、戦いの幕が上がる。

(取材 フジテレビ陸上中継班 構成・文 吉村忠史)

「第33回出雲駅伝」
10月10日(日)12:00~14:25 フジテレビ系にて生中継