岸田総理のもと内閣の新しい顔ぶれが決まった。その目玉人事の1つが文科相から経産相に唯一横滑りした萩生田光一氏だ。萩生田氏は2年前に就任して以来、コロナ禍の中1人1台端末や少人数学級導入、教員の働き方改革など矢継ぎ早に着手し新しい教育のあり方を打ち出してきた。萩生田氏は4日文科省での最後の記者会見を行い、コロナに学校現場が翻弄された激動の2年を振り返った。
この記事の画像(4枚)コロナとの戦いの中、子どもの学びを守る
「2年前の9月に就任して以来、皆様には大変お世話になりまして、あらためて心から感謝を申し上げたいと思います」
萩生田氏は冒頭こう述べたうえで、教育現場が大きく揺れた2年間をこう振り返った。
「思い起こすと本当にいろんなことがございました。特に途中からはコロナとの戦いを続けながら、子どもたちの学び、スポーツや文化を守っていくことに腐心したつもりです。とりわけ私が学校行事を大切にしてほしいと呼びかけをしたことに、現場の先生方から大変勇気を貰ったと言って頂き嬉しく思いました」
昨年2月に始まった新型コロナウイルス感染拡大の中、文科省と学校現場は子どもの学びと健康を守るため感染対策に追われた。昨年春には教育史上初の全国一斉休校が実施され、その後も子どもたちの学校活動や行事は大きく制限された。
(関連記事:マスクが子どもたちのコミュニケーション力を奪っている 感染対策で立ちすくむ教育現場)
萩生田氏はこう続ける。
「学校は勉強するところですから、授業のことばかりがクローズアップされます。しかし集団活動をしたり好きなことも苦手なこともする中で、人は磨かれていくと思う。だから大切にしてほしい、修学旅行は諦めないで欲しいとお願いしてきたことは良かったのではないかと思っています」
GIGAスクール構想で強く感じたこととは
コロナ禍の中大きく進んだのがICTを活用した学びだ。GIGAスクール構想によって、1人1台端末が子ども達に支給されたが、構想開始の当初は自治体によって端末の普及のスピードが様々で、中にはその予算を他に補填する自治体もあったという。
(関連記事:子どもの1人1台端末は“市の備品”ではなく「未来のツール」 GIGAスクール開始 )
萩生田氏はこう語った。
「いままで数十年にわたって地財措置をしてきましたが、各自治体の様々な行政事情で優先順位が変わってしまい違うものに使われたことがあったと思います。少なくとも義務教育は日本中どの学校でも同じ学びの環境を国の責任で作るべきです。義務教育に必要な経費は国が責任をもって直接補助をしていかないと今回のGIGAのようなものは進まないと強く感じた次第です」
最大の決戦は35人学級を巡る財務省との折衝
そして萩生田氏の任期中に、約40年ぶりとなる“少人数学級”=小学校での35人学級が導入された。しかしその実現を巡り、教員増による支出を抑えたい財務省との予算折衝は熾烈を極めた。
(関連記事:「少人数学級の課題は教員の“数と質”」カギは教員免許法改正…小学校が2025年度までに35人学級へ)
「最大の“決戦”は何と言っても35人学級でした。本当は30人で勝負をしたかったのですが、お隣の役所(財務省)の壁が高くてなかなか攻略ができませんでした。文科省の職員は子ども達にとって大切なことは引かないという思いで、財務省の皆さんと膝を詰めて議論しました。35人学級はまだ始まりだと思っています。少人数学級をさらに充実をさせて、子ども達のより良い教育環境を作っていきたいと思います」
孫にいくはずの1万円がおじいちゃんにいく
日本の公的教育予算は対GDP比で世界的に見て圧倒的に低い。萩生田氏は教育予算のあり方についてこう語った。
「言い訳になるかもしれませんが、教育行政はすぐに単年度で結果を出せないことがたくさんあります。ですから最前線で重要性が分かっている私たちが、財政当局に『いまこれを始めなければ5年後はない』と説得力をもって説明して行く必要があると思います」
萩生田氏は地元でよくこんな話をするという。
「1万円しかなくて家族で何を買いたいのか相談した時に、おじいちゃんが『孫の1万円を俺によこせ』と言うのかと。『孫の分を買ってやってくれ』って言うに決まっていると。それなのに孫にいくはずの1万円がおじいちゃんにいっているのが、いまの日本の行政の実態じゃないかと。予算があれば政策のスピードを上げることができる。結果を検証して必要な予算要求はしていくべきだろうと思っています」
教員の“ブラック職場”を変える働き方改革
また萩生田氏は学校が教師にとってブラック職場となっている現状を変えようと取り組んできた。今年3月に文科省が始めた「#教師のバトン」プロジェクトでは、現役の教師の声をツイッターなどで募集したところ、「やりがい搾取だ」など労働環境への不満や批判が相次いだ。
(関連記事:「#教師のバトン」萩生田文科相に真の狙いと覚悟を聞く)
先週さいたま地裁で判決があった埼玉県教員超過勤務訴訟では、埼玉県に未払いの残業代を求めた公立小学校教員の請求は退けられたが、教員の給与体系の見直しや勤務環境の改善を求める異例の付言があった。この判決について萩生田氏はこう語った。
「教員の皆さんの働き方、多忙さについて改善の必要があると裁判所がおっしゃったことは重く受け止めています。来年度勤務実態調査をしますので、これから教員の皆さんが生き生きと仕事をして頂ける労働環境や報酬のあり方を検討して頂くよう(次の文科相に)引き継ぎしたいと思います」
わいせつ教員根絶の決意はバトンを繋げた
萩生田氏は教師による生徒への性暴力の根絶を目指して、昨年7月にわいせつ教員を二度と教壇に上らせないため教員免許法を改正する方針を明らかにしていた。しかし12月に文科省は改正を断念し、今年議員立法でわいせつ教員根絶の法案は可決成立した。
(関連記事:「わいせつ教員根絶」法案成立へ しかし残る課題…子供が性被害に遇うのは"学校だけじゃない”)
「わいせつ教員(根絶)については一定のけりをつけることができたと思います。閣法として出すことはできませんでしたが、不退転の決意を申し上げたことが議員立法にバトンを繋ぐことができたのではないかと。これから教員を目指す人たちにとって、また子ども達にとっても新しい良い制度を作れたのではないかと思っています」
「教員は子どもの人生を変えるぐらい大切な仕事」
そして最後に教育現場で奮闘する教員たちにメッセージを残した。
「コロナ禍で先生方、お子さん達を残して、自分が違うとこ行くと言うのは本当に忍びなく申し訳ない思いです。教員という仕事は子ども達との出会いが人生も変えるぐらいの影響力がある大切な素晴らしい仕事だと思います。学生の皆さんにも、教師を目指す志を持って教壇に立つ人が1人でも増えることを祈っていますし、そのための応援をこれからもしていきたいと思っています」
教育分野ではGIGAスクール構想のさらなる推進など教育のDXや学校の働き方改革、教員免許制度や教職課程の見直しが急務だ。また幼児教育から大学入試まで検討課題が山積みとなっているほか、デジタル庁や創設されるこども庁と文科省の連携も今後の課題だ。
岸田内閣には「教育は国家百年の大計」であることを念頭に国のビジョンを描いてほしい。
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】