岸田氏が256票、河野氏が255票。自民党総裁選の1回目の開票結果が発表されると、会場がどよめいた。「1回目の投票では河野氏は1位になるだろう」という下馬評が覆された。党員票ではトップに立ったものの、議員票では岸田氏の146票、そして高市氏の114票に次ぐ86票と3位。この結果を見た時、河野陣営の議員の一人は「完敗だ」と悟ったという。迎えた決選投票では岸田氏が257票を獲得し、170票の河野氏は敗れた。議員票不足は明らかだった。
「河野さんと食事したのは1回だけ」
陣営幹部の一人は選挙期間中、何度もこう語っていた。
「なかなか議員票が伸びない」
これまでの歯に衣着せぬ物言いなどから、河野氏が自民党内で支持が広がらないことは予想されていた。
河野氏が所属する派閥のトップ・麻生副総理は「河野は大事な志公会(麻生派)の総裁候補だから」と周囲に話し、麻生氏の周辺議員らもかつては河野氏と他の議員の食事会をセットするなど人脈作りに汗をかいていた。しかし、あるベテラン議員は「河野さんと飯を食ったのは1回だけだったな」とこぼす。河野氏は総裁選前から「仲間作り」に苦戦していた。
所属する麻生派の全面支援得られず
菅首相が総裁選不出馬の意向を伝えた9月3日の正午前、河野氏は、周辺の議員に連絡し出馬の準備に入った。午後2時過ぎ、河野氏は麻生副総理のもとを訪れた。麻生氏は河野氏に「まずは派閥内をまとめろ」と伝えたが、「政策の不一致」を理由に、麻生派のベテラン議員らは軒並み河野氏支援に難色を示した。
それでも河野氏は国会内の議員事務所を訪問し、協力を求め続けた。しかし最終的に麻生派は「河野か岸田の支持を原則」とした。河野氏は所属する麻生派の支持を全面に得ることができなかった。
若手議員の支持獲得に失敗
「今回の決断は自分1人で悩んで決めたんではない。大勢の仲間の皆さんと一緒にいろいろと考え、いろいろと議論し、皆さんと一緒に決めたそういう決断だ」
河野氏は総裁選最中、陣営の会合で声を張り上げた。
若手中堅議員の「永田町に地殻変動を起こさないといけない。河野さんが日本を前に進めて欲しい」という声に押された河野氏は、岸田派を除き、原則自主投票となったことで、派閥横断の「仲間」を作り、議員票獲得の突破口を見出そうとした。
派閥に一任せず、個々の意志で投票すべきだと主張する、若手議員90人による「党風一新の会」の動きにも期待を寄せた。河野陣営からは「党風一新会の大多数が支持してくれば」と考え、派閥を超えて各議員に個別のアプローチを続けた。
「今の時代40~50代は企業であれば幹部だ。なぜずっと自民党の『上』は変わらないのか。今、自民党は変わらないといけない」(自民党中堅議員)
そうした声は多くの若手中堅議員が賛同するところなのかもしれない。
しかしそこに壁としてたちはだかったのが、安倍前首相だった。安倍氏が強い影響力を持つ最大派閥・細田派は、多くの“安倍チルドレン”と言われる若手議員を抱えている。安倍氏が高市氏の全面支援を表明した結果、最大派閥から「若い仲間」を増やすことは叶わなくなった。
さらに党内第三派閥の竹下派も多くは河野氏支援にまわらなかった。国会議員への支持拡大も次第に手詰まりとなっていった。そして、総裁選最終盤、当初は河野氏を支持するとみられていた二階派内からでさえ、岸田氏を支持する動きが起きた。河野氏の「仲間作り」は絶望的な状況となった。
決選投票での議員票は131票
河野氏の周辺は、「正式な出馬表明の前から派閥の外から支援の動きがあり、それが却って麻生派内の溝を生んでいた。一方で、派閥を重視すれば“改革”イメージを損なってしまう」と苦しい胸の内を明かす。
総裁選終了後、記者団に次の総裁を目指すか問われ、「チャンスがあればしっかりやっていきたい」と語った河野氏。決選投票で獲得した議員票は131票。今回得た「仲間」の期待を背負い続け、さらに「仲間」を増やすことができるか。河野氏はこれから試されることとなる。
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