その場所だけ、こみあげてくる何かがあった。 

のぞき込んだ縁から下に流れ落ちるプールの水は、最初は速度が速く見えるが、ゆっくりとした大きな流れとなり、地中へと吸い込まれていく。 

2001年のアメリカ同時多発テロでニューヨークの「ツイン・タワー」こと、世界貿易センタービルにハイジャックされた旅客機が突っ込んでから20年。南棟の跡地にある“追悼記念プール”の一角に、犠牲になった343人消防隊員たちの名前が刻まれている。テロ当日、市民を救出するために自らの命を省みず、避難する人の流れとは逆に現場へと入っていった人たちだ。 

消防隊員を追悼する赤い線が入った黒い国旗が並ぶ
この記事の画像(7枚)

無論、人命を救ったのは消防隊員に限らず、警察官や無名の市民も数知れない。でも、ことにFDNY(ニューヨーク市消防局)をはじめとする消防隊員に対するアメリカ国民が払う敬意は特別なものだ。 

20年を迎えた9月11日、その一角は黒いアメリカ国旗に赤い線が入った小さな旗がずらりと並び、犠牲となった消防隊員の多さを象徴していた。消防局の制服に身を包んだ男性が頭をもたげ、家族だろうか、刻まれた名前にそっと手を添える女性の姿もあった。 

南棟の跡地にある追悼記念プールには制服姿の消防隊員が

3000人近い犠牲者の氏名読み上げ・・傷は癒えていない

追悼式では3000人近い犠牲者の氏名を遺族が読み上げることが恒例なのは知っていたが、4時間通して見たのは初めてだった。地元のテレビ局は特別番組を組み、CMも挟まない。壇上にあがった遺族は交互に20人ずつ、アルファベット順に犠牲者の名前を読み上げ、最後にそれぞれ亡くなった家族や親族へのメッセージを述べる。兄弟を亡くした消防隊員も涙をこらえながら言葉を絞り出した。 

「彼はすばらしい若者だった・・いなくてさみしい」 

衝撃的な映像は「忘れないため」

見ている側が、こんなにも感情が揺さぶられるのはなぜなのか。 

日本のテレビではごく一部しか放送されないが、地元のテレビ局は特集で当時の旅客機がビルに衝突し、その後崩壊する様子や、救出にあたった消防隊員の証言を放送した。ある意味、視聴する側にとって衝撃的で容赦ない。でもキャスターは「これは、(911を)忘れないようにしたいから大事だ」と説明した。 

生きていた“サバイバー・ツリー”

倒れた消防隊員たちの名前が刻まれた南棟の追悼記念プールのすぐそばに、特別な木がある。“サバイバー・ツリー”と呼ばれるマメナシの木だ。2001年10月にグラウンド・ゼロで見つかったこの木は枝が焼け折れ、根も傷んでいた。しかし、生きていた。現場から移され、丁寧に世話された後、跡地に戻ってきた。 

「復活」「忘れない」の先にあるものは

“サバイバー・ツリー”とワン・ワールド・トレード・センターは復活の象徴

「きょうは20年前と同じ、真っ青な空だ」 

そう言う人が多かった。 

サバイバー・ツリーの木の葉の間からは、あの時と同じ青い空と104階建てのワン・ワールド・トレード・センターが見える。復活の象徴だ。 

しかし、あまたの消防隊員をはじめとする犠牲を「忘れない」ことの先には、何があるのか。 

透き通った空とは裏腹に世界情勢は不透明さを増し、考えさせられる。 

【執筆:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子】