宮崎・椎葉村の土砂災害から1年 

宮崎・椎葉村で4人が犠牲となった2020年9月の土砂災害から1年が経った。
行方不明となった建設会社の相生泰孝さんが残した「ある志」を、仲間が受け継ぎ、叶えようとしている。

土砂災害が発生した現場
土砂災害が発生した現場
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2020年9月の台風10号で発生した椎葉村の土砂崩れでは、「相生組」の社長の妻・相生勝子さん(当時68)と息子で専務の泰孝さん(当時39)、ベトナム人技能実習生のチャン コン ロンさん(当時23)、グエン ヒュー トアンさん(当時22)が犠牲となった。
土砂崩れに巻き込まれ、命からがら助かった相生秀樹社長は息子の泰孝さんについて、地域を大事に思う頼もしい存在だったと振り返る。

相生組・相生秀樹社長:
ちょうど私と(社長を)交代する矢先の出来事であったものですから、やっぱりショックと言うか、「何で?」ということですよね

 
 

効率の良い施工方法の確立へ

会社経営を引き継ぐ予定だった泰孝さんは、当時  業界の深刻な担い手不足に危機感を覚えていた。

泰孝さんが、土砂災害に遭う直前に考案した資料。業界全体で、担い手の確保などを目指す構想が描かれていて、建設業者などが集まる勉強会で発表する予定だった。

泰孝さんが考案した構想
泰孝さんが考案した構想

泰孝さんの長年の友人で建設業の坂本浩一さんは、泰孝さんが担い手の減少により災害への対応が遅れることを危惧していたという。  

北部産業開発・坂本浩一専務:
経営の持続化を図るうえでも、相生君が考えたことは、すごく大きなことだと考えています

泰孝さんの構想では、担い手不足を解消するためには、効率の良い施工方法を導入することが重要だとしている。

泰孝さんが作成した資料
泰孝さんが作成した資料

例えば、急斜面の危険な現場では遠隔操作の重機を使うことで、安全で、より少ない人数で施工が可能となる。また既製のコンクリート製品を活用するなど、効率の良い施工方法の採用が進めば、経営の改善や従業員の働き方改革などにつながるというもの。

 
 

泰孝さんが部長を務めていた日向地区建設業協会青年部では、泰孝さんの志を受け継ごうと、2020年12月  施工性向上委員会を立ち上げた。

施工性向上委員会・寺原多加広委員長:
これ(構想)を形にしていかないと(将来)大変なことになると、そういうところからみんなの気持ちが一つになったと思う

構想の重要性を指摘する寺原さん
構想の重要性を指摘する寺原さん

これまにで20回以上 リモートで会議を開催。7月には取り組みに同意した県建設業協会青年部のメンバーと一緒に県の担当課を訪れ、効率の良い施工方法などを提案。協議を続けていくことになった。

組織の垣根を越えて重ねた協議
組織の垣根を越えて重ねた協議

また泰孝さんは、こうした施工方法をスムーズに導入するためには、工事の設計前に県や設計業者、それに施工業者の3者が話し合う仕組みが必要と考えていた。

泰孝さんの“志”を受け継ぐ

この仕組みは、泰孝さんが犠牲となった現場の復旧工事でモデルケースとして実施されたほか、2021年3月には、県が試行要領を作成し、実際に3カ所の現場で実施されたという。

泰孝さんが犠牲となった現場の復旧工事がモデルケースに
泰孝さんが犠牲となった現場の復旧工事がモデルケースに

宮崎県 技術企画課・森川慎也副主幹:
道路が早めに完成したりとか、災害復旧現場といったところが早めに完成していくということで、県民にも恩恵が生まれるのかなと思います

そして、災害発生から1年となった9月6日。青年部のメンバーが現場を訪れ、志を受け継ぐ決意を泰孝さんに報告した。

日向地区建設業協会青年部・甲斐宣人部長:
泰孝君の考えていた建設業の未来をみんなで一緒に話し合い、実現するために一歩一歩前進しています。私たちの活動を見守っていてください

相生組・相生秀樹社長:
おそらく泰孝も、天国から青年部に協力してくれんかと言うのではないか。私も積極的に協力してやりたいと思ってます

泰孝さんの志が多くの仲間や行政を動かし、建設業を現場目線で変えようとしている。

(テレビ宮崎)

テレビ宮崎
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