この笑顔をもう見ることはできない…

弾けるような笑顔を見せる、小学1年生の屋宜奏花ちゃん(2016年当時)。前途のある女の子の未来は、無謀な運転による交通事故で唐突に奪われた。
愛する我が娘を突然失った苦しみを抱えつつも、新たな一歩を踏み出した両親を、沖縄テレビ・小林美沙希アナウンサーが取材した。

屋宜奏花ちゃん
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奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
奏花が好きだった本。これを読んだら月曜日、一週間のスタートから笑顔になれるかなということで読ませてもらいます。

2018年取材時 父・屋宜司さん

沖縄・宜野湾小学校3年生の教室で明るく読み聞かせをする、屋宜司さん。同級生だったはずの娘・奏花ちゃんの姿はそこにはない。

奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
こうやって読み聞かせに来ると、皆が“奏花のお父さん”って呼んでくれるので、やっぱり嬉しいかな

今でこそ笑顔を見せる屋宜さんだが、愛娘の奏花ちゃんを亡くした時から苦しみの日々を過ごしてきた。

無謀な運転が愛娘の命を奪った…

屋宜奏花ちゃんはどんなことにも全力で取り組むがんばり屋さんで、いつも明るく、リーダーシップがあって、周りの人たちからも愛される、優しい女の子だった。
2016年12月11日。無謀な運転で対向車線からはみ出した車が、奏花ちゃんを乗せた車に衝突。

2016年12月11日 事故現場

奏花ちゃんは、そのまま帰らぬ人となった…。
一緒に車に乗っていた母・道代さんも事故に巻き込まれた。

奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
事故の翌日が自分たちの結婚記念日で。明日が楽しみだな、子供たちに何を食べさせようかなって思いながら仕事をしているときに事故を伝える電話が入ってきて。一気に地獄に落とされた感じで…

事故から1年以上経っても消えない苦しみ…

奏花ちゃんの母・道代さん:
私はもう意識がなくて、何が起こったのかもわからない状態で・・・気が付いたら病院にいました。なんでこんなことになったか答えが欲しくて。毎日どうしてどうしてって…時間が経っても気持ちは全然楽になりません

2018年取材時 母・道代さん

奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
奏花のことを思わない日はないので、今こうしているときにもずっと奏花のことが頭の中にあります

2018年取材時 父・司さん

やりきれない思いを抱え続ける二人の背中をそっと押してくれたのは、奏花ちゃんの思い出の品だった。事故当日の朝、奏花ちゃんが書いていた宿題ノートには“生きる”の文字があった。

奏花ちゃんが事故当日に書いていた宿題ノート

奏花ちゃんの母・道代さん
ちょうど事故の日の朝。日曜日だったので朝に宿題をしていたんですけど。亡くなって大分経ってから見て、”生きる”と書いてあったので…私は辛いけど生きていかなきゃいけないのかなと思って

一歩踏み出して、娘の死と向き合うことに

奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
悲しいままで何もしなかったら、奏花のこの事故のことも風化して皆忘れていくだろうし、何よりこの子の一生懸命生きていた“命の証”というものを残していきたい

奏花ちゃんの思い出の品を見せてもらう小林アナウンサー

愛娘の生きた証を繋ぐ。本が大好きだった娘が心躍らせていたそんな経験を、同じ学校の子供たちにもして欲しいと、小さな図書館を作ることに決めた。名前は「そよかぜ文庫」。

文庫に込めた思いを児童に向けて語る屋宜さん

奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
奏花はずっと毎週末には、市民図書館に行って本を借りて読むのが大好きな子でした。そこで本を通してまた小学校のお友達と一緒に過ごしていけたらなという思いで、この「そよかぜ文庫」を作りたいなと考えました

奏花ちゃんのためにひとり、またひとり…。宜野湾市内の学校で図書館に関わる多くの人が集まり、500冊もある本にカバーをかける作業を手伝ってくれた。

協力する司書:
本の中で奏花さんが宜野湾小学校の子供たちと一緒に、生きて…生き続けていけたらと思ってお手伝いすることを全員一致で決めました。想いを込めて作業させてもらっています

文庫のマークは、奏花ちゃんが好きだった児童書作家の「あんびるやすこ」さんが、奏花ちゃんの笑顔をイメージして描いてくれたものだ。

ひとつずつ形になっていく「そよかぜ文庫」。多くの人の想いが詰まった小さな図書館がついに完成した。

児童:
本が大好きな奏花さんを思いながら、みんなで大切に読みたいと思います。ありがとうございました

奏花ちゃんの父・屋宜司さん:
いっぱい読んで楽しんでね。それで奏花と一緒に絵本を読んでいる気持ちになってあげてね。皆と楽しく過ごしているんだなという気持ちになれて、「そよかぜ文庫」の活動をやってよかったなと、改めて子供たちにも感謝します

奏花ちゃんの母・道代さん:
奏花に読んであげられなかった本がいっぱいあるので、子供たちも読んでくれることで、奏花に届けばいいなと思います

奏花ちゃんのアルバムを見ながら話を聞く小林アナウンサー

愛情いっぱいの「そよかぜ文庫」。
天国の奏花ちゃんに、お父さんとお母さんの思いが届くように…。

【編集後記】
3年前のインタビューですが、今改めて多くの人に知っていただきたいと思っています。交通事故で愛する娘を突然奪われたご両親は、テレビの取材で思いを語ることに対して、ずっと葛藤していました。苦しい記憶を言葉にするのは、想像することもできないほど辛いことだったと思います。
それでも、「優しくてかわいい娘が一生懸命生きていたことを知って欲しい」「こうした事故があったのだと知ってもらうことで少しでも無謀な運転による交通事故を無くしたい」という思いから、思いを振り絞って私たちの取材に応えてくださいました。
そのご両親の思いを、私も少しでも多くの人に伝えていきたいと思っています。

取材から3年…現在もそよかぜ文庫は子供たちを楽しませています。また、奏花ちゃんが小さい頃通っていた幼稚園にも同じようにそよかぜ文庫が設けられていて、ここ最近さらに規模が広がったそうです。
文庫の開設から3年が経ち、幼稚園では「そよかぜ文庫ができた理由」を知らない子供たちがほとんどになってしまったため、2020年に屋宜さんたちは改めて奏花ちゃんの事故のことを話しに足を運び、子供たちも幼いながらにきちんと奏花ちゃんの事故のことを受け止めてくれていた様子だったということです。
また、父・司さんは事件事故などで大切な人を失った人達が登壇する講演会に招かれ、奏花ちゃんの事故を風化させないため、講話もしたそうです。
改めて、車を運転するときには誰かの大切な人の命を奪ってしまう可能性があることを考えてハンドルを握って欲しいと、強く思います。事件や事故の裏に、苦しい思いを抱え続ける家族がいることを胸に刻み、ニュースを伝えられるアナウンサーでありたいと思います。

(沖縄テレビアナウンサー 小林美沙希)