終わりの見えない新型コロナウイルス感染拡大の中、医療の最前線に立つ看護師。岡山県津山市の病院には、2021年から働き始めた新人看護師の姿があった。

彼女を看護師に導いたのは、乳がんで亡くした母親の存在。「看護師として最後まで責任を持ってサポートしたい」と語る彼女の胸中とは。

昼休みにもメモを見返し患者に寄り添う看護を

重い呼吸不全の70代の男性を介助しているのは、加納佑美さん。この春、看護学校を卒業したばかりの新人だ。

加納佑美さん:
上向きますよ。体ふきますよ

意識があってもなくても声を掛ける。患者と接する際、大切にしていることだ。

加納佑美さん
加納佑美さん
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加納佑美さん:
実習では資格がないので、患者に直接触れて処置することはあまりないので、学生と現場は全然違います

津山市の津山中央病院。30の診療科、515のベッドを持つ岡山県北の拠点病院で、外来患者は年間約20万人に上る。

岡山県北の拠点病院「津山中央病院」
岡山県北の拠点病院「津山中央病院」

中でも県北で唯一の救命救急センターは、看護師など40人が所属し、24時間体制で重症患者に対応する、いわば命を守る最後の砦だ。

 
 

加納佑美さん:
今日は2番か3番ベッド、どちらか1人の受け持ちをさせていただく

ほぼすべての診療科の患者を横断的に受け入れる救命救急センターは、患者の入れ替わりが多く、看護師の担当患者も日々変わる。新人の加納さんは、毎日始業より30分早く出勤し、前任の看護師の記録を細かく確認する。

加納佑美さん:
どういう経緯で入院したか、既往歴、要介護があるかないか。片っ端からメモします。患者さんの全体像が分からないとケアに反映できない

 
 

教育を担当する先輩はいるが、新型コロナへの対応で多くの看護師が必要となっている今、いつも手取り足取りとはいかないのが現実。1人で患者の処置にあたることも増えてきた。

津山中央病院 救命救急センター・近藤弥弓看護師長:
患者さんや家族の立場になろうと考えて声掛けをしたり、ケアしたりしている

昼休み、加納さんは稼働していない病棟の一角にいた。昼食の時間かと思いきや、傍らには先ほどのメモ。

加納佑美さん:
食事もするけど、午前中にやったことを整理して、次の準夜帯の人にどう伝えようか昼休憩に考える

昼休み中にも次の仕事に備える
昼休み中にも次の仕事に備える

加納佑美さん:
楽な仕事ってないですよね。いろんな仕事をやってきたんですけど、1周回って看護だなって思ったので

現在30歳の加納さんは、看護師になる前は関東で飲食店のアルバイトをしたり、化粧品会社の社員として働いたりしていた。転機が訪れたのは、24歳の時だった。

加納佑美さん:
美容の仕事に就いていた頃、疾患のある人を接客することが多くて。(肌がまだらに白くなる)白斑があって、「どうやったら隠れますか?」とか。疾患と闘っている人のそばで力になりたい。母のことがあったからそう思ったと思う

看護師を志したきっかけを話す加納さん
看護師を志したきっかけを話す加納さん

がんで亡くなった母への思い…目標は「認定看護師」

津山市の郊外にある公園。小学6年の夏、最後に母親と遊んだ思い出の場所だ。

加納佑美さん:
ここに連れて来てくれて、バドミントンをしてくれた。しんどそうだったので、私も小さいなりにお母さんの顔色をずっと見ていて、5分、10分もしていないかな、でもそこで2人でやったのを覚えている

この前の年、母親に乳がんが見つかった。すでにステージ4で、脳などに転移していた。

母が亡くなるまでの約2年半、やり場のないつらさの中で芽生えたのが、患者を支える看護師への思いだった。別の仕事に就いてもそれは消えることなく、27歳の時、看護学校への入学を決めた。

 
 

加納佑美さん:
やりたいことは何歳でもできるから、焦らなくてもいいやと思えていた。良かったと思う。後悔は何もない

加納さんは将来、高い水準の知識と技術を持ち合わせる「認定看護師」の資格取得を目指している。

加納佑美さん:
患者さんだけでなく、家族に対しても役に立ちたいというか。人生のサポートができて、最後まで責任を持って看護したい気持ちが強い

遠回りしたからこそ出会えた今の自分。加納さんのような看護師の活躍が、救急医療の最前線を支えている。

(岡山放送)

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