「あなたの国は在留資格のない外国人に、国際法で禁止する“恣意的な拘禁”を行っている」国連の人権に関する作業部会がこう突きつけた相手国は、人権問題を国際的に非難されている北朝鮮ではない。人権を保障するわが国日本だ。

名古屋入管に収容されていたスリランカ人女性が死亡した問題で、入管庁は最終報告書を公表し長官自ら謝罪した。入管施設ではこれまで少なくとも17人が亡くなっている。なぜこうした悲劇が繰り返されるのか取材した。

「お姉さんは動物のように扱われていた」

スリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんは今年3月、収容されていた名古屋入管の施設で死亡した。最終報告書によると、ウィシュマさんは適切な医療を受けられていなかったばかりでなく、衰弱してベッドから落ちても数時間放置され、入管職員から侮蔑的な言葉を投げかけられていたことがわかった。

さらにウィシュマさんが死亡するまでの13日間の様子は、施設内の監視カメラ映像に残っていた。その映像を2時間程度に編集したものが12日、日本に滞在するウィシュマさんの遺族にのみ開示された。

映像を見た後、妹のワヨミさんは「お姉さんを助けることができたのに」と泣き崩れた。

また妹のポールニマさんは記者会見で「お姉さんは動物のように扱われていた」と語り、「この映像は自分たちに都合のいいところしか見せていない」とすべての映像の開示を訴えた。

ポールニマさん(中央)は「お姉さんは動物のように扱われていた」と語った
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国連が問題視する「恣意的拘禁」が繰り返された

日本の入管制度を問題視している国連人権理事会の恣意的拘禁作業部会は、これまで日本政府に「国際人権規約に反する」との意見書を送ってきた。

特に国連が問題視しているのが、「恣意的拘禁の禁止に反している」「司法審査がない」「収容期間に上限がない」の3点だ。今回の最終報告書では、その3点について入管制度がまったく改善されていないことがあらためて明らかになった。

ウィシュマさん遺族の代理人を務める高橋済弁護士はこう語る。

「まず『恣意的拘禁の禁止』についてですが、報告書では名古屋入管がウィシュマさんの仮放免を『一度不許可にして立場を理解させる』ために不許可にしたことが判りました。それを報告書も『様々な事情を考慮して仮放免が不許可になったことも理解できる』と追認しています。しかしこのように逃亡防止ではなく制裁・懲罰を目的とする隔離・拘禁は、まさに国連が問題視する『恣意的拘禁』にあたります」

高橋弁護士(左端)は「まさに国連が問題視する『恣意的拘禁』にあたる」と語る

司法審査がなく収容期間に上限がない日本

また高橋氏は「司法審査がない」点についてこう続ける。

「報告書では、名古屋入管が『逃亡を防止し出頭を確保できるか疑義がある』と仮放免を不許可にし、それを『理解できる』と追認して『逃亡の危険がある』と判断しています。しかしこうした判断について、国連は裁判所がやるべきだと問題視しているのです。入管が判断すると今回のように『仮放免しないのは不当ではない』となってしまいますので」

「収容期限に上限がない」こともウィシュマさんの命を奪った原因だった。

「もし収容期間に上限、特にEUの基準である6ヶ月の上限があれば、ウィシュマさんは昨年8月20日から収容されていたので、遅くとも今年2月20日には解放されて死なずにすんだのです」(高橋氏)

「もし収容期間に上限があれば、ウィシュマさんは死なずにすんだ」

「十分な医療体制が整備されていなかった」

今回の最終報告書公表を受け、入管庁の佐々木聖子長官は名古屋の入管局の体制について「充分な医療体制や体調不良者に対する組織的な対応体制が整備されていなかったことが明らかになりました」と述べた。

最終報告書によると名古屋入管の施設では、非常勤の内科医師の診察が週2回で各2時間に限定され、ウィシュマさんが死亡した土曜日を含む休日は医療従事者が施設にいなかった。

遺族の会見に同席する駒井弁護士(右)

では海外の入管収容施設はどのような医療体制になっているのだろうか? イギリスの入管収容施設を視察・調査した駒井知会弁護士はこう語る。

「私は2012年にイギリスのハモンズワース入国者収容施設を視察しました。施設に入ってまず驚いたのは、被収容者が描いたという絵で壁が彩られていたことでした。また施設には英会話教室、美術室、音楽室、図書室、ジム等も備えられていて、共有スペースにはキオスクがあって飲み物やスナックなどが購入できるほか美容室もありました」

収容施設の壁は被収容者が描いた絵で彩られていた

イギリスでは人権と人間性の尊厳が守られる

日本では被収容者の部屋は6人から10人の多人数部屋で(現在コロナで部屋の人数は減少)、窓のない部屋もありドアにはのぞき窓がついている。

一方ハモンズワースでは2人部屋で窓があり、ドアののぞき窓は閉められていてプライバシーがより保護されていた。

日本では被収容者は番号のみで呼ばれるが、イギリスでは被収容者と職員がファーストネームで呼び合うなど、被収容者の人権と人間性の尊厳が守られている。

ハモンズワースでは、被収容者のプライバシーがより保護されていた

医療体制はどうだったのだろう。駒井氏は語る。

「入院患者と通院患者の専用フロアがあって、医師が平日だけでなく土日も診療します。看護師は24時間常駐、他に精神ケア専門の看護師も常駐です。ほか歯科治療室、レントゲン室、薬剤処方室もあります。さらに外部の病院で診察を受けたいと被収容者が要望した場合、原則施設側は拒否できず、かつ医療費は全額国費でカバーされると説明を受けました」

日本では2019年に東京の入管施設で、被収容者の様態が急変したにもかかわらず、入管が救急車による緊急搬送を拒否したことが問題になった。

施設には医師が毎日診療し、看護師が24時間常駐する

被収容者の外部アクセスが制限される日本

さらに駒井氏が驚いたのは、被収容者の外部とのアクセスだ。

「共有スペースにはパソコンも設置されていて、インターネットの利用が出来、メールで支援者や弁護士とのやり取りも可能です。パソコン教室までありました。1人1台携帯電話が無償で貸与され、24時間通話可能です。外部との面会は1年365日、午後2時から午後9時まで可能で時間制限無し。面会室にアクリル板などなく被収容者と面会者はラウンジで直接談話できます」

共有スペースにはパソコンが設置されネットの利用が可能

日本の場合、電話は公衆電話のみで、外部との面会は土日祭日夜間不可(弁護士が予約した場合を除く)。東京入管は午後3時で面会受付が締め切られる。原則アクリル板を通して30分程度と決められ立会人がつく場合もある。日本では被収容者の外部へのアクセスが大きく制限されているのだ。

「ここには人道がない」は他人事ではない

なぜ日本とイギリスは、ここまで違いがあるのだろうか。駒井氏はこの理由をこう語る。 「施設側が被収容者の収容期間中の時間は人生の大切な日々であると認識して、被収容者が有意義な時間を過ごせるような工夫をしています。また内務省/国境庁(当時)から独立した視察委員会や市民社会の監視の目が厳しく、各種の国際人権条約を遵守させる制度も整っています」

そして駒井氏はこう続ける。

「こうしたことを前提に、施設では人を人として待遇する意識が育っていることでしょうか。英国の施設も改善の余地は少なくありませんが、それでも日本とは次元が違います」

妹ワヨミさんは映像を見た後泣き崩れた

ウィシュマさんの妹ワヨミさんは、監視カメラ映像を見た後「日本のすべての外国人は見るべきだ。ここには人道がない」と泣きながら語った。

これは日本にいる在留資格のない外国人だけの話ではない。社会的に弱い立場にいる人の人権が守られない社会は、あなたの人権も守られないのだ。
 

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】