オリンピックの開会式に「アフリカ人であることを理由に出演をキャンセルされた」と、セネガル出身の打楽器演奏者が自身のSNSにした投稿が波紋を広げている。組織委員会は24日の会見で「事実無根」と発表。これをうけ、演奏者は筆者のインタビューに「事実とは異なる」と怒りを込めて語った。

事実無根と主張する大会組織委員会

「その方のご主張に関しては全く事実と異なっている」

大会組織委員会は24日の会見で、西アフリカ・セネガル出身の打楽器演奏者ラティール・シーさんの「人種を理由に開会式出演をキャンセルされた」とする主張にこう反論した。ラティールさんは1995年に来日し、25年にわたって国内外でプロとして音楽活動を行っている。

主張が真っ向から食い違うことにラティールさんはこう語る。

「これまでは今回の投稿によって様々な人に迷惑かけてしまったと思っていましたが、記者会見を聞いて憤りを感じます。そもそもSNSの投稿がここまで大きな反響を呼ぶとは思いませんでした。メディアにリークをしようとは一切考えてもなくて、書き込んだものがこんな風に広がってしまってすごく驚いていますし複雑な気持ちでいたのです」

ラティールさんは来日以来25年間プロとして音楽活動をしている
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「出演がキャンセルになった」と突然通告

ラティールさんによると開会式の出演オファーがあったのは去年12月中旬だ。開会式に出演したタップダンサーとは15年にわたるパフォーミング仲間だが、タップダンサーの共演者として歌と打楽器を担当することになり、4月22日に大会出演への誓約書にサインし、出演者用のID登録も行った。

出演依頼されたパートは女優の真矢ミキさんが出演した木やりうたとダンスのパフォーマンスの部分で、熊谷さんのタップダンスに合わせて打楽器を演奏する予定だった。

契約までの4カ月間は演出家とオンラインで打ち合わせを繰り返し、4月末に始まるリハーサルの日程も説明を受けていた。しかしいつまで待っても連絡がこないので問い合わせると「緊急事態宣言を受けて延期になっていて、まだ見通しがつかない」とのことだった。

その後5月に入ったところでまた問い合わせると、「出演がキャンセルになった」と突然言われた。

「なぜここにアフリカ人が?」となる

その際セネガル人の演奏家2人だけがキャンセルされたと聞き、「その理由を知りたい」と尋ねると広告会社より当初は「コロナということもあって」との説明があった。

しかし「出演のオファーがあった12月の段階でコロナによる大会規模の縮小は決められていたので理由にはならないのでは」とあらためて聞くと、「コロナで人数削減をしたいというのが理由ではなく、演出内容を組織委員会にプレゼンしたところ『なぜここにアフリカ人が?』となり『ほかの国籍も入れないといけなくなるから』だと言われた」ということだった。

この回答に驚いたラティールさんは「確かにアフリカ人だが、日本で25年間活動をしてきて国籍も関係なくプロの音楽家として日本の音楽界に貢献してきた。そうしたことを評価しないで、見た目で判断するのは人種差別ではありませんか」と抗議したが、広告会社は「これは人種差別ではありません」の一点張りで平行線をたどった。

「自分の出演部分だけが切り取られた」

ラティールさんは当初「広告会社からはよく対応してもらい、迷惑をかけるのはいけない」と考え、この件を誰にも語るつもりは無かったという。

しかし開会式の数日前にリハーサルの模様が公開され、その映像を観てラティールさんは衝撃を受けた。

「自分が出演予定だったパートのまさに自分の出演部分だけが切り取られて、そのままのかたちが残っていたのです」

「しかも日本の多様性を象徴するのにふさわしい自分の出演がキャンセルされたにも関わらず、多様性を表現しているというナレーション付きで連日放送されていることに違和感を覚えました。さらに小山田さんやいろいろな問題が露呈してきたのをみて、組織委員会にはやはり問題があると思い始めSNSに自分の想いを吐露しようと思ったんです」

「誰かが事実と異なることを言っている」

SNSの投稿は大きな反響を呼び、国内のみならず海外のメディアにも取り上げられた。

こうした状況を受け組織委員会は24日の会見で、記者からの問いに「その方のご主張に関しては全く事実と異なっている。多数のミュージシャンが出演する音楽パートがあったが、感染対策と予算上で断念して企画自体が変更になった。そのためミュージシャン含む参加予定の方がたには出演をお断りするのが経緯」だと主張した。

ラティールさんは会見で事実無根とされたことにこう語る。

「では私は作り話をしたと言っているのでしょうか?非常にショックです。私は広告会社からその様に説明を受けましたし、開会式は私が何回も打ち合わせをしたのとほぼ同じパフォーマンスでした。日本で長く仕事をしていて、政府の仕事もしている私が作り話をすると思いますか?私が言われたことは間違いありませんので、誰かが事実とは異なることを言っているのです」

「このような事実はございません」と組織委

筆者はあらためて組織委員会に次の3つを書面で確認した。

まず、出演キャンセルの理由を組織委員会側が「なぜここにアフリカ人が?となり、他の国籍も入れないといけないという話になる」と広告会社に伝えたことに対し、組織委員会では「このような事実はございません」と回答した。

また、会見では「多数のミュージシャンが出演する音楽パートがあったが、感染対策と予算上で断念して企画自体が変更になった」と説明があった。これについて音楽パートとは開会式のどの部分を指すのかと尋ねると、「当該パートは企画自体が無くなりました。変更という表現が分かりにくかったようで申し訳ありません。企画は最終的に披露するに至らなかったため、詳細をお伝えすることは控えさせていただきます」とのことだった。

さらにラティールさんの「開会式のパートは当初打ち合わせをしていた企画と変更されておらず、自分の出演部分だけが切り取られている」という主張について、組織委員会は「当該パートの企画自体が無くなったため、このミュージシャンを含むパートに参加予定の方々には出演をお断りすることになったものと認識しています」と回答した。

五輪に人種差別はあってはならない

全く両者の主張が食い違う中、ラティールさんは語気を強めてこう語った。

「組織委員会を攻撃するのが我々の目的ではありません。組織としての判断に悪意がなかったものとは信じていますが、アーティストとしての功績ではなく見た目や肌の色が出演の可否の判断基準となったその行為は差別と呼ばれるものですし、特にオリンピックという多様性を尊重する国際大会においてはふさわしくない行為であったと思います」

そしてラティールさんはこう続けた。

「アーティストとしての名誉のためにも真実を明るみにしたいです。そして組織委員会には間違った判断を認めて謝罪し、組織として社会全体のお手本となる様、より良い社会の実現に向けてリーダーシップをとっていってもらえることを願っています。21世紀になって世界的な大会で人種差別という言葉を聞くのはあってはならないことです」

果たして人種差別による出演キャンセルがあったのか否か、真相究明が求められる。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】