女王亡き後、群れはどうなる?ハキリアリの展示が話題
東京都日野市の多摩動物公園の「ハキリアリ」の展示が話題になっている。
きっかけは、あましょくからこ(@karako)さんのツイートだ。
女王亡き後の群れのゆくえ | 東京ズーネット
— あましょくからこ (@karako) June 10, 2021
ものすごい展示を多摩動物公園でやっている。ハキリアリの群れが滅びていくところを展示するんだって。
> 数年に一度しかない、群れの終焉。ぜひ、終わりまでの日々の変化を見届けに来てください。 https://t.co/KvKj7CVxJ9
「ものすごい展示を多摩動物公園でやっている。ハキリアリの群れが滅びていくところを展示するんだって」とのコメントと共に、「東京ズーネット」のハキリアリの展示に関する記事のリンクを紹介した。
東京ズーネットの記事のタイトルは「女王亡き後の群れのゆくえ」で、まず、5月下旬に展示中のハキリアリの女王が死亡したことを伝えている。
2021年5月下旬、現在展示している群れのハキリアリの女王が死亡しました。昆虫園におけるハキリアリの飼育は20年近く続いていますが、過去飼育していた群れの女王はおおむね5年以内で死亡しています。
この群れは2014年に来園したので、女王は少なくとも6年半以上は生きたことになります。昆虫園としてはもっとも長く生きた女王ですが、まだ群れに勢いがあり女王も若かったころを知るものとしては、やはり死亡してしまうのはさびしいものです。

そのうえで、「女王がいなくなっても、働きアリたちは生き続ける」「ハキリアリの群れの展示を続けていく」と説明。
女王がいなくなり、群れもいっしょに消滅してしまったのかというとまったくそんなことはなく、多数の働きアリたちが、現在も展示ケースの中で菌園とともに生き続けています。新たな若い群れもバックヤードで待機していますが、もうしばらくはこの群れの展示を継続していく予定です。
また、「女王アリが死亡しても群れが続く理由」も解説している。
さて、なぜ群れがまだ続いているのかと疑問に感じる方もいるかもしれませんが、これは今までと同じ生活を維持するために、働きアリがそれぞれの作業をこなし続けているからです。人間から便宜上「女王アリ」とは呼ばれているものの、女王は全体に指示を出しているわけではありません。女王はあくまで働きアリを産む担当で、働きアリも自発的に行動しているため、女王がいなくても短期間群れを存続していくこと自体はできるのです。
このまま働きアリだけでくらしを継続していければよいのですが、女王の子供である働きアリは半年から一年程度の寿命のため、今後徐々に寿命を迎えた働きアリたちが脱落し始めます。ハキリアリの場合、身近に見られるアリのように、減ってしまった働きアリの仕事を他の個体が協力して肩代わり、ということがスムーズにいきません。
ハキリアリはキノコを栽培するという難度の高い生活をしていくために、働きアリの大きさを細かく変え、大きさに応じた分業をするという進化をしてきました。流れ作業のような連携で生活が成り立っているため、どこかの担当が欠け始めると総崩れにつながってしまいます。過去の記事でも働きアリはまだ数多くいるのに、「葉を切らなくなった」などの記述が出現するのはそのためです。

そして記事の最後、「数年に一度しかない、群れの終焉。ぜひ、終わりまでの日々の変化を見届けに来てください」とつづっているのだ。
この群れの展示を継続することで、なぜ女王は重要な存在なのか、女王がいなくなることが群れにどんな影響を与えるかを、来園者のみなさまに観察し、考え、理解していただくよい機会であると考えています。数年に一度しかない、群れの終焉。ぜひ、終わりまでの日々の変化を見届けに来てください。
ハキリアリの生態などがよりわかる貴重な展示となりそうだが、多摩動物公園はなぜ、この終焉を展示しようと思ったのか? 女王アリが死亡した後、1カ月以上が経ったが、群れにどのような変化が見られるのか?
多摩動物公園の担当者に話を聞いた。
ハキリアリの生態「葉を切り取って菌を栽培」
――ハキリアリの生態を教えて
北米の南部~中南米にかけて多数の種が生息しています。全てではないですが、集めた葉や落ち葉などで菌類の栽培を行っている種が有名です。
当園で飼育しているのは「Atta senxdens」という葉を切り取って菌を栽培する種で、ペルーで採集されたものです。
――巣の中で菌類を栽培し、それを食べる。なぜ、このような生存戦略をとるようになった?
アリにとっての栄養面での利点(葉そのものを食べるより良い)、植物相が豊富で菌類が育ちやすい生息環境など、様々な要因はあるのでしょうが、ハキリアリ以外にも、菌を食べたり利用したり、共生したりといった生活をする昆虫は国内外の様々な分類群にいるので、はっきりとした理由については分かりません。
――飼育しているハキリアリの群れは、女王アリを含め、どのようなアリで構成されている?
以下は当園で導入している種(Atta sexdens)を昆虫園の環境で飼育した場合に限った話です。
【構成要素】
・女王アリは1個体のみ(体長:30ミリほど)
・働きアリ
細かく大きさが分かれています(体長:最小2ミリほど、最大15ミリほど)。
大きさに応じて働く内容が異なります(完璧に分けられているわけではないですが)。
大きい働きアリや、ある程度、年を取った個体ほど巣外での仕事をしている傾向にあります。
【個体数】
数が多すぎてカウントできませんが、昆虫園で飼育している群れの場合、最盛期には数万匹はいると思います。野生下の勢いのある群れなら、働きアリが100万を超える大規模な群れになるそうです。

群れの終焉を展示する理由
――ハキリアリの群れの終焉を展示する理由は?
女王の死亡に伴う、群れの衰退自体は実は以前から何度もありましたし、衰退している時期の展示自体も行われていました。
ところが、今までは基本的に女王が死亡し、群れがほぼ壊滅した後の、誰の目にも群れの崩壊が明らかな状態になり、新たな群れとの交代がアナウンスされる際に、さりげなく「実は死んでいました」と公表することがほとんどでした。
これだと、来園者の方には「よく分からないが、いつのまにか消滅した」という印象しか残らず、ハキリアリの一生を紹介しきれているとは言えないのでは、と考えたことが大きな理由です。
こうして告知すれば、来園者の方が働きアリ1匹1匹に注目して動きを追ったり、群れ全体を見渡して、異常の起きている個所でどんなことが起きているか見てみたりと、観察を促し、ハキリアリに対する理解が深まるのではと思いました。
また、展示種のハキリアリの生活が様々なバランスの上で成り立っていて、そのバランスの維持に女王アリが大きく関わっていることを、今回の展示を通して知ってもらいたかったという理由もあります。
ただし、アリ類すべてが同じ生態、同じ社会構造をしているわけではなく、ハキリアリ類同士でもかなりの差があります。これはあくまでも、当園で展示している種限定の話です。
――女王アリが死亡した後、どのぐらいの時間が経過すると群れが消滅する?
今までの群れも、皆、異なっていたので分かりませんが、働きアリの寿命を考えると、半年前後で消滅すると思います。
女王アリ亡き後の変化
――女王アリの死亡後、まず、群れにどのような変化が生じる?
新たな卵が産まれなくなるため、巣内で卵や幼虫が観察されなくなります。それに伴い、蛹(さなぎ)や若い成虫(やや色が薄い)も確認されにくくなってきます。
――女王アリの死亡を確認してからしばらく時間が経過しているが、群れは現在、どのような状況?
「女王の死骸を確認できた時期」なので、実際はもっと以前に死亡した可能性もあります。女王は死亡後もしばらくは働きアリが世話を続けて巣内を持ち運んで移動するので、それなりに(場合によっては数か月)時間が経過しないと見つかりません。
(6月下旬時点で)葉はかろうじて切っていますが、持って帰った巣の中で使わずに余ることが増えてきました。おそらく以前の状況を知らない方であれば、まだ大した違和感はなく見られると思います。
――目に見える変化はある?
群れの状況については、「巣の菌園の大きさ」から察することはできます。5月2日には菌園がまだ二山あります。

ところが、6月14日には菌園はごくわずかになっています。


――多摩動物公園の現在の開園状況を教えて
現在、当園は9時30分~17時で開園をしていますが、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、整理券方式で入園人数を制限しています。(1日の入園人数の上限は2000人となります)
入園には事前にインターネットか電話での予約が必要です。なお、昆虫園本館・昆虫生態園の閉館時間は16:30となります。

「群れの終焉」がどのように進んでいくのか、今後の様子も気になるところだろう。
なお、東京都に緊急事態宣言が発令される7月12日以降の多摩動物公園の開園時間は、9日の15時時点では変更ない。ただし東京都から指示があれば閉園になる可能性もあり、その場合は発令の前日(11日)までに公式HPで知らせるとのことだ。
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