カエルに捕食されてもお尻から脱出「マメガムシ」

捕食されてもお尻から生きて脱出することができる昆虫がいる、という衝撃的な発表があった。

その、昆虫がガムシの一種「マメガムシ」である。

提供:杉浦真治准教授
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この研究を発表した神戸大学大学院農学研究科の杉浦真治准教授によると、マメガムシはカエルに捕食されても消化管を生きて通過し、カエルのお尻の穴(総排出腔)から無事に脱出することを発見し、8月4日に発表した。

(※総排出腔…未消化物、尿、卵、精子が排出される単一の穴。軟骨魚類、両生類、爬虫類、鳥類のほとんどにみられ、一部の哺乳類も有する。)

(参考:Active escape of prey from predator vent via the digestive tract

90%以上が生きたまま脱出成功

カエル類の多くは歯がなく、獲物となる昆虫や小動物を丸呑みするが、杉浦准教授は様々な昆虫をカエル類に与えて、逃避・防衛行動を調査してきた。

提供:杉浦真治准教授  トノサマガエル

その結果、マメガムシが、トノサマガエルに飲み込まれても、15個体中14個体、90%以上の個体がカエルのお尻の穴から生きて脱出することを発見した。
ちなみに、別のガムシ科の一種、キベリヒラタガムシは捕食された13個体全てが死んで排出された。

さらに、マメガムシはその他のカエル4種(トウキョウダルマガエル、ツチガエル、ヌマガエル、ニホンアマガエル)に対しても高い確率で生きて脱出した。

提供:杉浦真治准教授  マメガムシによるカエル5種からの脱出成功率

自ら排便を促し脱出している可能性

そして、脱出にかかる時間にも発見があった。トノサマガエルは他の餌を飲み込んでから排出するまで平均50時間かかるが、マメガムシが生きて排出される場合は平均1.6時間だった。

こうしたことから、マメガムシはカエルの消化管を生きて通過し、総排出腔から脱出するためにカエルを内部から刺激して排便を促している可能性があるというのだ。
近年、捕食者体内から生きて脱出する行動自体は発見されているが、今回のような排便を促進して生きて脱出する動物は、これまで知られていなかったという。

提供:杉浦真治准教授  マメガムシによるトノサマガエル体内からの脱出ルート

お尻の穴から生きて脱出することにも驚きだが、マメガムシはどのように排便を促進し、そしてなぜ体内で消化されないのだろうか?杉浦真治准教授に話を聞いた。

泳ぎが上手な小さい昆虫

ーーマメガムシはどういう昆虫なの?

鞘翅(コウチュウ)目ガムシ科に属する小型種(3.8–5.0mm)で、成虫は水田などで水草などを摂食する。水生甲虫の一種です。

普段は水中を遊泳するが、水面に出て飛翔して移動することもある、泳ぎは非常に上手です。
成虫は、枯れた葉の一部などを食べていると考えられています。

提供:杉浦真治准教授  マメガムシ

ーー大きさはどのくらい?

体長5mm程度です。


ーーどこに生息している?

水田や休耕田に多いです。

「硬い部位で消化液からうまく身を護っている」

ーーなぜ消化されないの?

マメガムシは水生甲虫の仲間で、前翅(昆虫の翅の前部分)や他の部位が硬く、これをしっかりと体に密着させて水が体内に入らないような仕組みがあります。
これによって酸性かアルカリ性かのカエルの消化液からうまく身を護っている可能性があります。

また、硬い翅の下に空気を取り込み、長時間水中で生活が可能なため、嫌気的な(必要な酸素がほとんどない)カエル消化管内で長時間耐えられるのかもしれません。

とはいえ、6時間を超えると生きて出てこられる個体はいなかったので、マメガムシは積極的な前進運動によって消化管を通過しなるべくはやくに体外に脱出する行動が重要なのだとは思います。

提供:杉浦真治准教授  捕食前のマメガムシ(左)とトノサマガエル(右)

ーーどうやって排便を促しているの?

メカニズムはまだ不明です。
しかし状況証拠から、歩いてor泳いで消化管を進み、後腸(直腸)付近で、脚や動きによって刺激して排便を促していると推測しています。

ヒトの肛門と同様に、カエルの総排出腔も排出を調整する筋肉である括約筋によって閉じていると考えられます。
ヒトでも下剤を肛門から入れてガスを膨らませて排便を促すように、なんらかの動きなどで圧迫して便意を誘導しているのだと思います。

ただし、マメガムシが体から何か化学物質を出している可能性はないと思います。

提供;杉浦真治准教授  排出後のマメガムシ(手前)とトノサマガエル(奥)

カエルの健康状態は異常なし

ーーもしかして、カエルは体内で消化しないの?

いえ、カエルはヒトと同様に消化管で食べ物を消化します。
例えば、胃液は強酸性であることが知られています。

ーー捕食をしたカエルの健康状態に変化はあった?

カエルはすぐに死んだりだとかダメージを負った形跡は確認されていません。
マメガムシも多くの個体はその後も通常の生活をしていました。
 

提供:杉浦真治准教授  排出中のトノサマガエル(総排出腔からマメガムシが脱出中)

ーー他に捕食後されて生きて脱出する昆虫はいる?

昆虫では、メスのナナフシが鳥に食べられた後、体内に保持していた卵だけが糞として排出され、卵のほんの一部が生きていたという報告があります。
また、ミイデラゴミムシがヒキガエルに飲み込まれた後にしばらくして口から生きて吐き出された例はあります。

また、お尻から糞として生きて出てくる動物としてカタツムリ(ノミガイ)やメクラヘビの一種も知られていますが、高頻度で積極的に脱出する動物はマメガムシ以外に報告例はないと思います。

昆虫は他の動物に捕食されないために様々な逃避・防衛行動をとることが知られていて、これまでは主に捕食者との接触前の逃避行動が研究されてきたというが、食べられても排便を促して生きて脱出できるとはとても生命力の強い昆虫である。
ただ、排便を促すメカニズムはまだ不明と語るように、いきものの世界は奥深い。
 

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