勝者なき選挙
「勝者なき選挙」
ある都庁幹部は選挙結果をこう評し、今後の都政運営の難しさに懸念を示した。

4日投開票の都議選は定数127。
自民党が25議席から33議席に増やし第一党となったが、過去2番目の少ない議席数。
第一党だった都民ファーストは46議席(※4月20日現在)から大きく減らし31議席だが、自民党とは2議席差で第二党。
当初「埋没か」とも言われていた公明党は、全員当選の23議席。
「東京五輪中止」を掲げた共産党は1つ増やし19議席、「東京五輪は延期か中止」の立憲民主党は7つ増やし15議席。
維新の会と生活者ネットは変わらず1議席ずつ。無所属は4議席。
立憲民主が倍増以上の躍進をしたものの、数の力で“押し切れる”党はひとつもない。
当初、今回の都議選では、前回のような「小池旋風」がないので都民ファーストは3分の1以下、15議席前後まで減って大惨敗、そのぶん自民党が勝って、公明とともに過半数を獲得する、というのが大方の見方だったが・・・

小池知事の入院がターニングポイントに
「有権者から声をかけられビラもよく受け取ってもらえるようになった」
当選した都民ファーストの都議はこう話し、小池知事が入院すると、急に有権者の反応が良くなったことを明かした。
「でも、退院してからは“良かったね”とは言われたものの有権者の反応は入院中の方が良かった。退院した時には(都民ファーストへの)追い風が止んだ感じだった」
退院は必ずしも都民ファーストの選挙にとって良い話ではなく、小池知事の入院で都民ファーストに“同情票”が集まったことが選挙戦のターニングポイントとなったようだ。
小池知事の「意地」
「意地でやるのだろう」
投開票日の2日前、小池知事は「安静のため中止」となっていた定例会見を、午後2時から午後4時に変更して急遽開催。

「息苦しいときに使う」と酸素ボンベを持って登庁する知事の姿に都庁幹部は小池知事の「意地」を感じたという。
「バタッと倒れても本望」
小池知事は、会見中に声がかすれ時折息苦しそうにしていたが、こう語る時は目にも声にも力が入っていた。
「吹っ切れたんだろう」
前回の都議選で都民ファーストとともに戦った公明党が今回は自民党と選挙協力、新型コロナウイルス対策を考えると自民党と正面から喧嘩をするわけにもいかないことなど、小池知事をよく知る関係者は、様々な“フラストレーション”を溜めていた小池知事の心境の変化を感じたという。
小池知事の「演説なし」が気遣いか
「応援演説をしなかったことが気遣いではないのか」
選挙戦最終日の3日、小池知事は最初の知事選の際に使ったガラス張りの車にのって、突然都民ファ候補の激励に回った。

最初に駆けつけた荒木ちはる代表の元で小池知事は、感極まったのか“くしゃっ”と顔をゆがめ、涙ぐむ場面もあったが、演説は一切行わず。
その後、豊島区、練馬区、千代田区など次々と激励に回った先でも一言も演説しなかった。
激励の間も酸素ボンベを持っていたということで、声を出すのが難しかったのかもしれないが、都民ファーストのある都議は「激励に回ったことは選挙にあまり大きな影響しなかったと思う。ネットでは書かれていたけどテレビとかで取り扱われたわけでもないし。特別顧問なので激励に回るのは当たり前」として、演説を行わなかった事が自民党、公明党への「気遣い」だった、との見方を示した。

「小池さんは政局モンスター」
「今回ばかりは小池さんを“政局モンスター”と思った」
小池知事が“政局感の強さ”で難しい局面を乗り切る姿を何度も見てきた関係者も、今回はさすがに驚いた様子だった。

勝者なき選挙結果、数の力で押し切れる政党がどこも無い中で、小池知事にとっては、自民党・公明党との連携が重要だ。しかし、選挙戦最終日に小池知事が突然都民ファースト候補者らの激励に回ったことに不快感をあらわにする声もあり、今後も“しこり”は残るだろう。
さらに知事と対立してきた共産・立民が議席を伸ばしていることもあり、今後の都政運営は視界不良で波乱含み、といえる。
体調が万全と思えない小池知事が、新型コロナウイルス対策、東京五輪など大きな難問を、持ち前の政局感の強さでどう乗り切っていくのだろうか。
取材・執筆:社会部都庁担当 小川美那