移住者が増える信州。長野県松川村でカステラ店を営む夫婦も景色に魅了され、神奈川から移住して店を開いた。2人が信州で見つけた第2の人生とは。

北アルプスの景色に魅了され 移住を決意

厨房に広がる甘い香り。焼き上がったのは、ふわふわのカステラだ。

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松川村の住宅街にあるカステラ専門店「きいろいポケット」では、10種類ほどのカステラを販売している。

訪れた客:
よく来ます。お誕生日とか、お礼なんかにすぐ買って届けたい

営んでいるのは、常前勝則さんと寿子さん夫婦。2人とも65歳。

妻・常前寿子さん:
仕上がった時のふんわり感が出たら、最高に2人で喜んでいます

店を開いて、まだ2年。夫婦は都会からの移住者だ。

2人は岩手県出身で高校の同級生。卒業後は共に都会に出て働き、同窓会で知り会ったという。結婚後は神奈川県川崎市で長く暮らし、娘1人を育て上げた。

会社勤めをしていた勝則さんは、60歳ごろから移住を考えるようになった。

夫・常前勝則さん:
(都会の)通勤で電車だとかそういうのが、年代的につらくなるころなんですね

岩手に戻るのも選択肢だったが、知り合いが移住した安曇野市を訪ねてから、周辺で移住先を探すようになり、2019年に松川村で空き物件を見つけた。

夫・常前勝則さん:
我々も終のすみかを探していまして。北アルプスの景色を見た時に、絵画を見ているように時間が止まって見えた。素晴らしい景色に魅了されました

妻の趣味を極めようと説得し、カステラ店を開業

勝則さんは、せっかくなら第2の人生に新しいことを始めようと提案した。

夫・常前勝則さん:
趣味で15年くらい、家内がカステラを焼いていまして。人に時々作ってあげて「おいしいね」って言われるのを見てまして、趣味のカステラを極めてみようかということで説得しまして

妻・常前寿子さん:
「自分がおいしいと思って売れば大丈夫だよ」って熱意に洗脳されて(笑)。「これから楽しい人生を送ろう」という言葉がありましたので。自分の好きなことをさせてもらっているので、頑張れるかなと思います

こうして、空き物件に厨房をつくって移住。すぐにカステラ店をオープンさせた。店名は、勝則さんの好きなビートルズの曲「イエローサブマリン」にちなんでいる。

信州の食材を生かした自慢のカステラ

看板商品は「アカシヤ蜂蜜のかすてら」だ。

まず、松本の業者から仕入れている卵に砂糖を加え、よくかき混ぜる。そこにアカシヤのはちみつと小麦粉を加え、さらにかき混ぜる。

夫・常前勝則さん:
燕岳が木の間から見えるんですよ。この景色を見ながらカステラを作れるのも、おいしさの(秘訣)の1つかもしれない

生地を木枠に入れ、オーブンでじっくり焼き上げる。途中、こまめに気泡を消すと、よりふんわりとした焼き上がりになるという。

夫・常前勝則さん:
2人で一緒に作りますね。あれだこれだケンカしながら(笑)

妻・常前寿子さん:
そういう時に燕岳を見て癒やされる

焼き上がってから、一晩寝かせれば完成。

長野放送・嶋田一宏記者:
食感はしっとりとしています。食べた瞬間に程よい甘さが口に広がって、とてもおいしいです

ほかに地元の黒大豆を入れたものや、中川村のメイヤーレモンを使った蜂蜜レモン味などがあり、地元や信州の食材を生かすようにしている。

地域にも溶け込み…「移住の選択は間違ってなかった」

夫婦だけということもあり、1日にできるカステラは約18本。営業は金曜から日曜までの3日間となっている。

妻・常前寿子さん:
「きょうはもう休んで、何も作らない日にしよう」って、ちょっとその辺連れて行ってくれたりするので、楽しみながらやっている

――仲が良いですね。

妻・常前寿子さん:
時々、カチンとくることもあるんですけど、その辺りをスズメが歩いていたりすると癒やされますね

移住して2年。常連客もでき、店は地域に溶け込んでいる。

妻・常前寿子さん:
お野菜をいただいたりね

近所の客:
良い方だから尊敬しているのよ、本当に

買ったカステラで「お茶会」も…

「お茶会」をした客:
おいしいです。甘さもちょうどいいし、お茶飲もうって言えば、カステラ買ってこようっていう

「お茶会」をした客:
親しみやすいよね、あのカステラ屋さんね

夫・常前勝則さん:
温かみのある村なので、ここで地域のものを使ってカステラを作ったり、地域と関わり合いをもって生きていくという選択肢は、間違ってなかったと思う

夫婦で決めた移住、夫婦で営むカステラ店。2人の第2の人生は、始まったばかりだ。

妻・常前寿子さん:
あと何年こうやって一緒にいられるかわからないし、だったら一日一日、好きなことして生活していければいいかなと

夫・常前勝則さん:
この歳になって、情熱を傾けて2人で一緒に取り組めるっていうことはすごく幸せなことで。挑戦する意欲は変わらないので、このまま挑戦していってください。二人三脚ですから

(長野放送)