30時間以上前に豪雨による洪水を早期に予測

29日未明、沖縄本島地方で、集中豪雨をもたらす「線状降水帯」が発生し、災害の危険度が高まっているとして、全国で初めて「線状降水帯発生情報」が発表された。

毎年、日本各地で集中豪雨などによる被害が発生していて様々な対策がとられているが、こうした中、30時間以上前に豪雨による洪水を早期に予測するシステムを東京大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した。

気象庁の洪水キキクル(洪水警報の危険度分布)では、3時間先までの予測が示されている。一概に比較できるものではないとしつつ、東大とJAXAが開発したシステム「Today's Earth - Japan(TE-Japan)」は30時間以上前の予測が可能だというのだ。

このシステムは、日本全体を1km程度の格子に分割し、それぞれの格子で、植物の種類や土の種類、地形、川の形状等を考慮して、「降った雨がどのように染み込むのか」「どのように蒸発するのか」「どのように川に流れ出すか」「川の中でどのように流れたり氾濫したりするのか」などを計算。そのプログラムが、3時間毎に、開始時刻から39時間後まで動く。そうすることによって洪水を早期に予測するという。

また予測情報は、限定公開ウェブページの日本地図上に「5段階の警戒レベル」と「何時間後の予測か」を表示し、洪水リスクの分布が一目で分かるとのことだ。

(画像提供:東京大学・JAXA)
(画像提供:東京大学・JAXA)
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洪水の予測を前日には知ることができれば、夜中に急いで移動する必要もなくなり、より安全に避難ができるようになるのではないだろうか?

6月23日から共同研究用として自治体向けに警戒情報の提供を開始しており、自治体にとっては、早い段階で危険を察知できることで、住民を早く避難させることに役立ちそうだ。

では、このシステムはどれだけすごいものなのか? また、予測はどれだけ当たるのか?開発者の一人である東京大学の芳村圭教授に話を聞いた。

(※画像はイメージ)
(※画像はイメージ)

きっかけは2015年の鬼怒川の大洪水

――そもそもこれまで30時間以上も前に警告を知らせるものはなかった?

日本には、十分に長い警告時間を高精度で提供するための効果的な河川洪水予測方法はありません。国土交通省は、観測された上流の水位に基づいて、洪水が発生する前に数時間の警告で正確な予測を提供しますが、これは人々が効果的に対応するには遅すぎ、深夜に洪水が発生すると状況はさらに悪化します。

したがって、人口密度が高く、標高の低い沿岸地域では、リードタイムを長くして正確な予測を行うことが非常に重要です。
※リードタイム…予測開始時刻から「アラート」時刻までの時間


――このシステム、なぜ作ることになった?

もともとは、私が大学院の学生だった2000年代の前半に、地球全体を100km程度の格子で分割して作ってみたものが原型になっています。日本域を10km程度の格子で分割したバージョンもそのときにできました。当時は防災に使うという意識はあまりなく、世界中の洪水や渇水の状況を日本に居ながら推定したかったというのがきっかけでした。

そのまま時が過ぎ、2015年9月の関東・東北豪雨によって鬼怒川で大洪水が起きました。近所に住んでいたこともあり、率先して現地調査を行ったりしたのですが、日本の首都圏でもこのようなことが起こるのだということを改めて知らされたショッキングな出来事でした。その際に、昔に作った日本域バージョンの原型が、実はある程度洪水を予測できていたことがわかり、JAXAさんと本腰をいれて改良していこうと考えました。

JAXAの人工衛星からの情報を反映

――JAXAの技術はどんなところに生かされている?

人工衛星から、日常的に雨の量や気温、風速、日射量などが測られており、私達のシステムに入力される大気情報の中に使われています。そのほか、地形や植生などの地面の情報としても衛星による観測情報が使われています。そのほか、氾濫して水に覆われた地域が衛星から捉えられるのですが、そのような技術も私達のシステムに生かされています。


――このシステムの予測の精度はどれくらいなの?

39時間先までの予測で、2019年の台風19号で決壊した堤防箇所について、捕捉率は90%程度(142箇所中130箇所)、適中率は24%程度(130箇所/542箇所)でした。
※この捕捉率とは、決壊した箇所に対してアラートが出されていた箇所の割合。適中率とは、アラートが出されていた箇所に対して決壊した箇所の割合となる。

洪水予測結果(画像提供:東京大学・JAXA)
洪水予測結果(画像提供:東京大学・JAXA)

――現在は自治体に提供のみ。一般向けに公開しない理由は?

気象業務法に「気象庁以外の者が気象、地象、津波、高潮、波浪又は洪水の予報の業務を行おうとする場合は、気象庁長官の許可を受けなければならない」とありますが、私達は許可を受けていないので公開できません。

許可を受けたくても、「気象等の予報業務の許可等に関する審査基準」として、「地象及び洪水の予報業務については、防災との関連性の観点等から、当面許可しないこととする」という運用がされていて、現状では許可が受けられない状況です。

31の自治体がすでに使用を検討

――自治体にはどのように利用してほしい?

いくつかの自治体にうかがったところ、災害時に対応する職員の臨時増員の手配をはじめ、避難所の設営、電話などを用いた住民への注意喚起など、洪水発生前に行う作業は膨大にあり、より長い(1日以上先の)予測情報に対するニーズがあることを知りました。そういうニーズに対して、TE-Japanの予測情報が参考になるのではと考えています。


――すでに使いたいと手を挙げている自治体はある?

6月18日の時点で、長野県や茨城県水戸市、宮崎県西都市など、31の自治体が手を挙げてくださっています。


――このシステムは、今後さらに精度は上がっていく?

はい、地上と上空からの地球観測が今後も充実し、洪水をシミュレーションするモデルが改善され、コンピューターの性能も上がっていくことが期待できますので、洪水予測の精度も上がっていくと考えています。

 

ここ数年は、毎年のように“数十年に一度の大雨”といった言葉も聞く。空振りでも事前の注意喚起が必要とされる今、被害を最小限にするために、こうしたシステムの活用が重要になってくるかもしれない。
 

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プライムオンライン編集部
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