水害や土砂災害が相次いでいることから、文部科学省は2021年6月に公立学校の対策状況を初めて取りまとめた。

福島県内の918校のうち、浸水想定区域に立地するのは128校。土砂災害警戒区域に立地するのは84校。その両方に該当する学校も5校ある。

水害に詳しい人が学校現場にいない

学校ではどれくらい対策がとられているのか。

浸水想定区域にある学校について見ていくと、「避難確保計画」の作成、それに基づく「避難訓練」の実施は義務とされているが、福島県はどちらも全国平均を下回っている。

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学校施設内への浸水対策は、全国的にもあまり進んでいない。福島県も15%程にとどまっていて、特にハード面の対策が遅れている現状が浮き彫りになった。

――なぜ子どもたちの命を預かる学校施設で対策が進まない?

東京大学大学院客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
この法律の改正というのが、ちょうど4年前なんです。そこで要配慮者利用施設、いわゆる学校も含む施設というのは、水害とか土砂災害があったときは避難の計画を作る、それから訓練をする。この2つが義務化されたんですね

東京大学大学院客員教授で防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん
東京大学大学院客員教授で防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん

東京大学大学院客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
今、私たちの手元に来ている防災ハザードマップの浸水想定が公表されたのも、ちょうど同じ頃なんですよ。この3~4年の間で、この施設の避難計画や訓練など、様々なことをやらなくてはいけないとなったのですが、特に学校現場は水害に詳しい人は少ないと思うんです。だから、手探りの状態で進んでいるというところが実態だと思いますね

「避難は垂直に」独自の災害対応マニュアルを策定

その中で、2019年の東日本台風で浸水被害を受けた福島県郡山市の赤木小学校では、悲劇を繰り返さないために対策が進められている。

赤木小学校 角井勇三校長:
向こうに逢瀬川が流れていまして、ここの崖の部分は逢瀬側の河岸段丘ということになるので、水の流れで削られてきたところの一番端の部分だと考えています。土石流が流れたりするところではなく、特に急傾斜のところのものが崩落してくる

校庭に面している急傾斜地崩壊危険区域
校庭に面している急傾斜地崩壊危険区域

赤木小学校は、市内で唯一「浸水想定区域」と「土砂災害警戒区域」の両方に該当している。

2019年10月の東日本台風では、近くを流れる逢瀬川の氾濫により、校舎1階部分が浸水。教室や職員室が大きな被害を受け、復旧までの2カ月間、別の場所での授業を余儀なくされた。

浸水被害にあった職員室
浸水被害にあった職員室

赤木小学校 角井勇三校長:
いくらどんなに逆上がりの練習をしても、掛け算九九を覚えても、災害やその他の事故で命が亡くなってしまったら、学校教育の全てがやっている意味がなくなってしま。ですから、命に関わる浸水被害と土砂災害については、すごく真摯に重く受け止めて対策を取っています

ソフト面として、学校独自の災害対応マニュアルを策定し、避難行動を見直した。

水害の発生が予想された場合には、移動の際のリスクを考慮し、児童を校舎の2階以上に「垂直避難」させることに。

また、校舎が万が一被害に遭っても、授業を早期に再開させるために重要な書類を電子化したり、机や椅子などの備品を予め2階以上に移動させたりする工夫も盛り込んだ。

さらにハード面として、東日本台風で1階にあった電気設備が浸水による故障で校舎全体に送電できなくなったため、校舎2階部分にあたる3~4mの高さまで底上げした。

また、2021年度から始まった校舎の改修工事では、浸水の恐れのある1階部分には、そもそも教室を設けないようにする計画を採用。

郡山市教育総務部施設管理係 阿蘇慎二係長:
万が一、もし水害にあった場合でも、すぐ学校機能を再開できるようにする意味で、2階以上に普通教室と職員室を配置する計画にしております

工事の完了は3年後を予定していて、郡山市では他の学校でも防災対策の強化を進めていく方針。

命を守るため 学校と家庭での防災教育が大切

――学校の立地場所を変えることは難しいからこそ、赤木小学校のような対策が求められるのか?

東京大学大学院客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
素晴らしい取り組みだと思います。ハード対策については、それぞれの教育委員会の支援のもとで動いていると思うので、地元市町村との連携ですよね。その取り組みが重要です。

学校というのは、昼間は子どもたちがいる施設。また、学校の体育館を含めて、地域の避難場所として活用される例が多いと思います。そういう意味では、地域の拠点である学校の強靭化というのは、やはり急ぐべきだと思います

赤木小学校は、浸水被害に遭った10月12日を「防災の日」と定め、防災授業に取り組んでいる。

文部科学省の調査では、福島県内の浸水や土砂災害の恐れがある学校のうち、どちらも9割以上で防災教育が実施されていることがわかった。

東京大学大学院客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
これだけ災害が増えてるわけですから、そういう中で子どものうちから災害、あるいは命を守る知識、これを習得するというのはとても重要です

東京大学大学院客員教授で防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん
東京大学大学院客員教授で防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん

東京大学大学院客員教授・防災行動や危機管理の専門家「防災マイスター」の松尾一郎さん:
それからもう1つ、子どもがご家庭に帰った時に家族の中で防災教育に繋がる。これは大きいと思います。特に福島県は、水害のみならず地震や津波もある、火山災害も土砂災害もある。全ての災害がある県です。学校現場での年1回の避難訓練を通じて、命を守る術を学ぶ。こういう防災教育を親御さん含めて一緒にやっていく、この取り組みが重要だということです

(福島テレビ)

福島テレビ
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