菅首相が国際会議デビューを果たしたG7サミット=主要7カ国首脳会議が閉幕した。菅首相はこのサミットにどんな戦略を描いて臨んでいたのか。その成果の舞台裏には2人の首脳との連携と、水面下での勉強があった。

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中国への懸念と東京五輪開催支持という2つの目標

菅首相のこのサミットでの最大の目標は2つ。東アジアで影響力を拡大する「中国への懸念」と「東京オリンピック・パラリンピックの開催支持」を各首脳と共有し、サミット最終日にまとめられる「首脳宣言」に「明記」することだった。

この実現に向けて菅首相はそれぞれ戦略を描いていた。中国に関しては、アメリカのバイデン大統領と連携して、いわば“根回し”に動き各国の理解を得ること、そして東京大会の開催については議長国・イギリスを取り込むことだった。

ジョンソン首相との会談を経て五輪に「全員の賛意」取り付け

では実際に菅首相はどのような行動に出たのか。東京大会に関するヒントは、サミット開幕前に実現にこぎ着けたイギリスの・ジョンソン首相との対面で初の首脳会談にある。この会談で菅総理は、ジョンソン首相から「大会の成功を確信している」という言葉を引き出した。

そして会談の直後に開幕したG7サミットでの最初の議論の場で菅首相は、発言の締めくくりとして、東京大会の開催に向けた決意を各国首脳に伝えた。これに対しある首脳から「全員の賛意を代表して成功を確信している」という発言があり、G7首脳による東京大会開催支持の一致がはかられたと公式に説明された。

この気になる“ある首脳”が誰かというのは公にされていないが、政府関係者によると「全員の賛意」というフレーズを会議で言えるのは議長国のジョンソン首相しかいないという。

ジョンソン首相はロンドン市長時代にロンドンオリンピックを開催したこともある。そうした経歴のジョンソン首相だけに、菅首相との会談で大会開催への思いを伝えられ、直後の会議の場で菅総理の決意表明に応えて、「全員の賛意」として開催支持を取りまとめたという推測だ。この見方が正しければ、菅首相の戦略が成功したといえる。

バイデン大統領と手分けし「対中国」の根回しに奔走

そしてもう一つは中国に対する懸念の共有だ。これはバイデン大統領との日米首脳の連携が大きな成果につながった。

日米は中国の脅威への懸念をもっと世界で共有すべきだという理由から、先の日米首脳会談でも確認された「台湾海峡の平和と安定の重要性」という文言をG7サミットの首脳宣言に明記することを目標としていた。日米だけではなく主要7カ国も一致して、中国の動きに釘を刺そうというのが狙いだ。

しかし、取材を進めると中国との経済的な結びつきの強いドイツなどが難色を示しているという話もあり、G7全ての国が一致するのは難しい情勢だという情報が現地でも流れていた。その一方で、日米政府はサミット期間中に日米首脳の会談や立ち話を行う準備を進めていたが、なかなかそれがセットされず、同行記者団は疑問に思っていた。しかし、実は菅首相とバイデン大統領は、2人での会談よりも各首脳への根回しを優先させて動いていたため、会談の時間が取れなかったとみられる。

このため公式発表で菅首相とバイデン大統領が協議を行ったのは、中国について討議する会議の合間のおよそ10分間だけで、しかも断続的に行われたということだった。この時間について菅首相は「作戦会議」だったと表現している。つまり菅首相とバイデン大統領は、“自分がこの首脳と直接話をするので、あなたはこちらをお願いします。その結果はこうでした”というやりとりを繰り返し“根回しとすりあわせ”を行っていたとみられる。

この日米連携が功を奏し、G7の首脳宣言に、目標としていた「台湾海峡の平和と安定の重要性」が明記された。つまりこのG7サミットで菅首相が目標としていた「中国への懸念の共有」と「東京大会の支持」の2つがいずれも首脳宣言に盛り込まれ、初の国際会議デビューで大きな成果を上げることにつながったといえる。

各国首脳とのコミュニケーションは

そしてこのサミットに向けて、菅首相は密かにあることを勉強していた。それは英語だ。配信される映像では親しげに会話する欧米の首脳に対し、移動の際に一人の姿も見られたが、カメラがない場面では積極的に会話をしていたという。派手さやパフォーマンスを好まない菅首相ならではだが、関係者によると英語を使う際は、誤ったメッセージが伝わらないよう、通訳を付けずに話すことは控えたという。

また、通訳を介した会話でも、ドイツのメルケル首相が共同声明の文案について反発した際には、菅首相がメルケル首相の目を見てとうとうと説明し、メルケル首相も「そこまで言われるとは思わなかったわ」と折れて、宣言がまとまった政府関係者は語る。ほかにもカナダのトルドー首相やフランスのマクロン大統領とも意気投合するなど各国首脳との意思疎通もうまくいった様子だ。

このように成果の多かったサミットだが、今後、中国に関しては安全保障面での懸念と経済面での協力をどう両立するか、東京大会については大会の安全安心と盛り上がりをどう両立させるかという、難しい課題に向き合うことになる菅首相。手にした成果を今後にどう活かしていくのか注目が集まる。

(フジテレビ政治部 千田淳一)