小ぶりにして手が届きやすい価格に…ジュエリーで七宝焼の魅力発信

愛知・あま市七宝町に伝わる伝統工芸「七宝焼」。

その伝統を守ろうと、挑戦を続けている若き女性職人がいる。
伝統を重んじながらも革新を続ける女性職人。彼女が生み出すのは、純銀とクリスタルガラスを用いた繊細な七宝焼のジュエリーで、多くの女性の間で話題となっている。

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名古屋市の西、あま市七宝町は、180年の歴史を持つ「尾張七宝」の発祥の地だ。明治16年創業の「田村七宝工芸」の田村有紀さんは、両親ともに職人で、幼い頃から七宝焼に慣れ親しんできた。

純銀を立て絵柄を描く「尾張七宝」は、デザインが繊細で美しいと評判だ。

彼女が特に力を注ぐのが、ジュエリー。ブローチにネックレス、髪飾り、帯留め、カフスなどを揃え、ネット販売を中心に多くの注文が入る。

田村さん:
小さい時から両親の、お爺ちゃんの作品が好きで、欲しいなって思うんですけど…、「買えないな、私のお金じゃ」と

「尾張七宝」の花瓶などは高価なため、手軽に購入できない。そこで田村さんは、ピアスやネックレスなど小ぶりのアクセサリーに着目し、手が届きそうな価格にすることで、その魅力をたくさんの人に知ってもらいたいと考えた。

純銀板で土台となる素地作り…「七宝焼きは偶然上手くいくことはない」

中でも人気なのが、海をイメージしたピアス「純銀銀彩 海グラデーション」。
作り方はまず純銀の板をカット。土台となる「素地」ができると、表面を叩いて凹凸をつける。

凹凸をつけることで光と影ができ、銀がよりキラキラ見えるようになる。

丁寧に磨くと、素地にクリスタルガラスを砂状にした釉薬をのせていく。これを、約800度の窯で3分ほど焼く。すると白い釉薬が溶けて透明になる。ここから、墨で下描きだ。

「七宝焼きは、偶然上手くいくことはない。下書き通りに絵柄と色が出るため、絵の技術が大切」と田村さんはいう。

絵柄を立体的に描くミリ単位の作業…経験こそが全ての「銀線立て」

下描きを終えると、ここからが七宝焼職人の真骨頂。純銀の帯状の線「銀線」を素地に立てて、絵柄を立体的に描く作業になる。

右手にピンセットとハサミを持ち、下書きに合わせて銀線を曲げていく。必要な長さに切ったら、仮止め用のノリをつけて、素地の上に立てていく。まさにミリ単位。手間のかかる繊細な作業に、全集中だ。

田村さん:
銀線が仕切りの役割を果たすので、繊細な絵柄の秘訣にもなりますし、線自体も純銀なのできらりと光る

目指す高みへ。経験こそが全て…
約15分かけ全ての銀線を立てた。海をイメージしたデザインの出来上がり。再び窯に入れて、釉薬を溶かして銀線を固定する。

気泡ができないよう水分量を見極める…クリスタルガラスで色付け

七宝焼は各工程で火を入れるため、完成までに約10回焼く。小さなアクセサリーでも、完成までにかかる日数は3日。手間がかかるのも七宝焼の特徴だ。

銀線を固定したら、色をつけたクリスタルガラスの釉薬をのせる。この時、気泡ができないように、つついて空気を抜く。

田村さん:
水際というか、ちょうどいいところをすくって、水の力を使って銀線の枠の中に落としていく

砂状のガラスは水に溶けているのではなく、浸かっている状態のため、ほどよい水分量を見極めなければならない。まさに職人の技だ。そして、また窯へ…

学生時代からシンガーとして活躍…年間200本のライブ10年こなすも職人の道へ

田村さんは、武蔵野美術大学の在学中に作った花瓶が「日本七宝作家協会展」で入選するなど、若くしてその才能を開花させた。
しかし歌うことが好きで、学生時代からシンガーとして芸能事務所に所属。年間200本のライブを10年間こなしてきた。

七宝焼普及のために、2020年12月にリリースされた「尾張七宝」のテーマソングも、田村さんが歌っている。ところが…

田村さん:
職人さんが減って、100~200軒あった窯元も(今は)8軒しかないんです

このままでは七宝焼の伝統が途絶えてしまう…。その魅力を一番よく知っていた田村さんは、「ここで何もしないのは将来後悔する」と職人の道に舵を切った。

田村さん:
どちらも好きだし、好きな物を辞める必要はないと思っているので。今だからこそできることを…

「好きなものを通し、誰かとワクワクを共有したい」と話す田村さんは、七宝焼も音楽も好きだからこそ、全力だ。

「これをつけているから頑張れる」…誰かのちょっとした力になりたい

田村さんのジュエリー作りもいよいよ佳境に。
表面に薄く釉薬を塗るなどして、窯に入れること10回。ようやく仕上げに取りかかる。

最後は表面の磨き。この作業は特に時間がかかり、時には一日中研いでいることもあるという。

田村さん:
艶感が違うし、触り心地もすごくいいので、喜んでいただけるだろうなって。手をかけた分の意味はあると思う

「純銀銀彩 海グラデーション」(3万9000円)。
鮮やかな青のグラデーションの奥には、素地につけた凹凸によって、光を浴びた海面のきらめきが見事に表現されている。伝統を重んじ、革新を続ける職人・田村さんの経験と勘が生んだ一品だ。

田村さん:
七宝焼は、色も形もサイズもいろんな事ができるので、可能性が未知数な工芸だと思っています

「悲しいニュースも多い」と感じている田村さん。
「今日はこれを着けているから頑張れる」という気分になれるような「ちょっとした力のひとつになる」ことを目指している。

(東海テレビ)

東海テレビ
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