小学2年生の時から抱き続けた夢を叶えた、トロントラプターズ・渡邊雄太選手(26歳)。

3年前にNBA入りを果たすも、結んだ契約は出場試合数などに制限がある育成選手向けの2ウェイ契約だった。

しかし4月19日、遂に本契約を締結し正真正銘のNBAプレイヤーになると、早速目覚ましい活躍を見せている。

「凄く嬉しかったですし、こうやってずっと機会を与えてくれるラプターズに凄く感謝もしています。本契約になるということで、今まで以上に注目してもらえると思いますし、そういった意味で余計気が引き締まる思いになりました」

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日本人として3人目の偉業達成に、SNSでは各方面から称賛の声が相次ぎ、サッカー元日本代表本田圭佑や、元メジャーリーガー上原浩治、さらにはSLAM DUNK作者・井上雄彦さんまでもが喜びの声を挙げている。

そんな今勢いに乗っている渡邊選手が、本契約の裏側にあった「運命を変えたプレー」、そして「両親への思い」についてS-PARKに語った。

4月、飛躍的に向上したオフェンス力

「素直に嬉しい。まずは本契約を獲得するということを一番近い目標にしてNBA1年目からずっとやってきていて、努力が実ったというか、今まで継続してやってきたかいがあったなという感じがしています」

2ウェイ契約ながら存在感を見せつけ、プレータイムを伸ばしていた渡邊選手。

今年2月にS-PARKが行ったインタビューでは、躍進の鍵について「ディフェンスですね」と答えていた。

それから2カ月が経ち、本契約獲得という更なる躍進を果たした渡邊選手に、改めて同じ質問をすると、真逆の答えが返ってきた。

「オフェンスの面で評価が上がったから、こういう本契約に繋がったのかなと思っています」

渡邊選手は3月から4月にかけ、調子が上がっていった。

「ディフェンスはずっと開幕当初から評価をしてもらえていたので。ただ問題はオフェンス面にずっとあって、3ポイントも2月3月と確率が落ちていましたし、2ポイントに関しても高確率で決められていなかった。

それが3月の終盤から4月に入ってから、かなり高確率で決められるようになってきましたし、加えてパスだったり味方を生かすようなプレーもどんどん出せてきているので。

今まで出来ていたディフェンスに加えて、そういうオフェンスの面で評価が上がったから本契約に繋がったのかなと思います」

これまでオフェンス面に課題を抱えていたという渡邊選手。

確かに月毎の得点を見てみると、1月は13試合で43点、2月は8試合で17点、3月は7試合で8点という数字だ。しかし4月は14試合で104点(27日時点)と、得点力が飛躍的にアップしている。

さらに今シーズン11本のダンクのうち9本が、4月に行われた試合で決めるなど、プレースタイルにも大きな変化があった。

この急成長のきっかけには、一体何があったのか。

運命のワンプレーがプレースタイルも変えた

渡邊選手に聞くと、本契約へ導いた“運命のワンプレー”があったという。

「おそらくNBA3年目にして、初めてファウルをもらいながらシュートを決められたんじゃないかなと」

あの有名バスケ漫画でも「ゴール下は戦場だ」と例えられるように、ゴール下は屈強なディフェンダーが立ち塞がる、コート内で“最も激しいエリア”だ。

「基本的にリングにアタックするという姿勢は、ずっとやろうとはしていましたが、なかなか結果に出ていなくて」

NBAという世界最高峰の舞台では、チャレンジすることすらままならない日々が続く。

しかし4月3日、ゴールデンステート・ウォリアーズとの一戦で見せたシュートは、屈強なディフェンダーに当たり負けすることなく、ファウルを受けながらねじ込んだものだった。

「体をぶつけながら相手からファウルをもらって」と語るこのシュートは、3年目にして初めて掴み取ったプレーだったという。

「ウォリアーズ戦のシュートがきっかけで自分のリズムがつかめた気がするので、一番印象に残っているシュートになると思います」

シーズン中の課題とも認識していたこのシュートは、試合に出られなかった期間で、ひたすら練習してきたものだ。

「練習で出来ていることがやっと試合の中で出来始めたという感じで、やっぱり1つ良いリズムでそういう部分が出ると、次の試合にも、そのまた次の試合にもどんどん繋がっていくので、今本当に自信を持ってリングにアタック出来ています。

自分の中で『そこまでいけば決めきれる』という自信があるので、凄く今良い傾向かなと思っています」

しかしオンラインでのインタビュー越しに見える渡邊選手の体には、屈強な猛者たちに立ち向ってきた証が刻まれている。

「練習だったり試合の後は、気づいたら傷が何個かはあるので、気にしたことないですね、個人的には。膝とかにも擦り傷や打撲の痕があるんですけど、なんでこうなったのかちょっと覚えていないですね」

戦いの中で身につけ、そして認められたオフェンス力なのだ。

本契約を最初に両親に伝えたワケ

本契約に結びついたもう一つのきっかけは、「両親への思い」だ。

「両親ももうそこそこいい歳なんですけど、一生懸命リバウンドを僕のために拾ってくれて、両親のためにもしっかりシュートを決めたいと思っている」

そう2ヶ月前に話していた渡邊選手。

共にバスケ選手として活躍した両親は、オフシーズンには、朝5時半からの練習に付き添い、リバウンドを拾ってくれたという。

家族は試合会場にも足を運んでいた
家族は試合会場にも足を運んでいた

「両親にも1週間前くらい本契約になりそうというタイミングで連絡は入れていて、その時も凄く喜んでくれました。ただ両親も僕と一緒で、『まだまだこれは通過点だからこれからもっと頑張っていかなきゃね』という感じで」

今回の本契約を結んだことも、最初に伝えたのはもちろん両親だった。

「サインしている写真を含めて、家族のグループLINEに入れました。みんな凄い喜んでくれて、今まで頑張ってきて良かったなと思いましたし、ますます頑張らないとなという気持ちになりました」

渡邊選手の父・英幸さんは「僕も息子に『諦めちゃいけない』と教えられる部分がある、62歳にもなって。でも本当に嬉しいです」と笑顔を見せる。

新たに掴んだ“オフェンス力”と、変わらぬ“両親への思い”が、更に大きなステージへと導くことになった。

日本のバスケ少年へ伝えたい“諦めない心”

渡邊選手の活躍は、日本でプレーしているバスケ少年たちにとっても、NBAが近くなったと感じるきっかけになった。

渡邊選手は「そう思ってくれれば僕は凄く嬉しいですし、自分が子供のときはどうしてもNBAというのは凄く遠い存在で、『NBA選手になりたい』って口にすれば笑われていたような時代だったので。

今僕だとか、八村塁がNBAでやっていることによって、NBAをもっと身近に感じて、本当に声を大にして『自分もNBA選手になりたい』と言って、夢見る子供たちがどんどん増えてくれれば、それが日本のバスケットにも繋がっていくと思いますし。

そうやってこれからもNBA選手が出てくれば、僕としては凄く嬉しいですね」と、日本バスケの未来を語る。

この契約がバスケ少年たちに夢を与えた
この契約がバスケ少年たちに夢を与えた

さらに彼らに伝えたい想いをこう続けた。

「とにかく努力を継続していれば、良いことが待っているというのは、僕が実際そうだったので、やっぱり努力していればその先に絶対何かあると思うので、仮に結果が出ていない時期があっても、腐らずにやり続けてほしいなと思います」

本契約を結んだ渡邊選手は「今本当に凄く楽しいです」と話すが、すでに気を引き締め、次を見据えている。

「本契約はもらえたんですけど、来年の保証はまだ無いですし、このまま活躍してもっともっとアピールして、まずはプレーオフに出るために、残りのレギュラーシーズンの試合1戦1戦大事にしていかないといけないなと思っています」

本契約後、しっかりと出場機会で活躍を見せている渡邊選手。

「2年前のワールドカップで世界相手に全然通用しなくて、チームとして成長するのはもちろんなんですけど、個人個人、1人1人がもっと力を付けないと、世界と十分に戦っていけないというのを凄く感じました。

そういった意味では僕もこの2年間凄く成長出来ていると思いますし、日本代表の力になれるようにしっかり頑張っていきたいと思います。

これだけNBAで、世界最高峰の舞台でやれているということは、本当にどこにいってもやれるということだと思っているので、日本代表のために十分な戦力になれるという自信はあります」

NBAで個を磨き、日本代表でも更なる飛躍に期待したい。