「私には憲法第2条がある」
「私には(合衆国憲法)第2条がある。私は大統領として何でも好きなようにできる権限を持っているのだ」
この言葉が今、トランプ大統領に対する弾劾訴追の根拠になってきた。
下院の司法委員会に場所を移した公聴会でも、こう話すトランプ大統領のビデオが何回も再生され、これに対して参考人が意見を求められた。その一人、ハーバード大学のノア・フェルドマン教授は「合衆国憲法を大事に思うものにとって、この発言にはぞっとする思いにもさせられます」と証言した。
公聴会の議長を務めたジェラルド・ナドラー議員(民主党・ニューヨーク州)も、締めくくりの意見表明で次のように述べた。
「トランプ大統領は外国政府に米国の選挙への介入を依頼しただけでなく、同様なことを繰り返すことを明らかにした。と言うのも、彼は自らの言葉で「私は何でも好きなようにできるのだ」と言っているからだ。私たちは今行動しなければならない。この国では、大統領は何でも好きなようにはできないからだ。この国では何人も、大統領といえども法を超越した存在ではないのだ」
トランプ発言が弾劾訴追の重要な根拠へ

この公聴会を受けて、ナンシー・ペロシ下院議長(民主党・カリフォルニア州)はナドラー議員に対してトランプ大統領に対する弾劾訴追文を作成するよう指示したが、その発表の際にもこのトランプ大統領の発言が引用された。
「大統領の行動は合衆国憲法に著しく反するものです。特に彼が『憲法第2条で何でも好きなようにできるのだ』と言うのは我々の憲法の中核を攻撃するものです」
近々下院で投票にかけられると言われる弾劾訴追でもこのトランプ発言が重要な根拠になりそうなのだが、トランプ大統領はなぜそんなことを言ったのだろうか。
トランプ大統領の発言の意図
保守派のニュースサイト「ブライトバート・ニュース」が調べたところ、今年7月23日に保守派の青年の集会での発言と分かったが、問題の発言の前後はこうなっていた。
「ムラー特別検察官らはあらゆる捜査をしたのに何も陰謀は見つからなかった。何もなかったのだ。私には第2条がある。私は大統領として何でも好きなようにできる権限を持っているのだ。しかし私は今そのことはまったく考えてもいない。と言うのも特別検察官らは報告をまとめたし、妨害もなかったからだ・・・」
大統領は、いわゆる「ロシア疑惑」の捜査をしてきたムラー検察官らの責任は問わないと言う意味で、合衆国憲法第2条の権限を行使しないと言ったのだった。

民主党が意図的に演説を“中抜き”
その合衆国憲法で大統領の権限を規定した第2章第2条にはこうある。
「(大統領は)法律によって設置される他の全ての合衆国官吏を指名し、上院の助言と承認を得て、これを任命する。但し、連邦議会は、適当と認められる場合には、法律によって下級官吏の任命権を大統領のみに付与し、または、司法裁判所もしくは各部門の長官に付与することができる」(アメリカンセンター訳)
ムラー特別検察官の場合は大統領が任命の権限を司法長官に付与したわけで、反対に罷免することも同長官に指示することができると解釈される。それを大統領が「何でも好きなようにできる」とトランプ流に表現した部分を民主党側が意図的に中抜きしたことになる。

弾劾というのは、選挙という民主的な手段のみで選ばれた者を強制的に排除するという「合法的クーデター」とも言えるが、その根拠が言ってみれば「改ざん」されたようなもので成り立つのだろうか?
