村に戻る住民をサポートする放射線専門家

東日本大震災から10年。未曾有の原発事故を起こした福島第一原子力発電所がある福島県内で、10年にわたり立場を超えて被災者に寄り添い続ける放射線の専門家がいる。

2021年3月、福島県川内村を訪れた長崎大学原爆後障害医療研究所の髙村昇教授。

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放射線の専門家として震災直後に福島県から放射線健康リスク管理アドバイザーを任され、10年たった今も現地で被災者の支援を続けている。

髙村さんは事故直後の2011年3月18日には福島に入り、翌19日には福島県のアドバイザーに就任、3月20日に、いわき市、24日には飯舘村に入った。

10年前の2011年3月11日、午後2時46分。観測史上最大のマグニチュード9.0を観測した東日本大震災。警察庁の調べなどによると、これまでに確認された死者は1万5900人で、未だ2255人の行方が分かっていない。(2021年3月11日現在)

川内村は地震による大きな被害は確認されなかったが、村から約20キロの距離にある福島第一原子力発電所で事故が起きた。

川内村 遠藤雄幸村長:(2011年12月)
放射線への不安は払拭できませんね、なかなか。

川内村は震災発生5日後に「全村避難」に踏み切った。放射性物質への不安を感じながらも、故郷に戻りたい。住民に寄り添い、支援を続けたのが髙村さんだった。

髙村さんはチェルノブイリでの原発事故後、周辺住民への医療支援プロジェクトに携わった経験を持っている。

川内村でも空間線量や土壌の放射線量を調査し、科学的に住民の不安と向き合い続けた。

長崎大学原爆後障害医療研究所 髙村 昇教授:
暮らしとして成り立つかどうかは最終的には村民1人1人が判断するだろうから我々は科学の面、医学の面からお手伝いをする、アドバイスをする立場と思う

髙村さんを中心とした長崎大学のサポートを受け、2012年1月、川内村は避難区域で最も早く「帰村宣言」を出した。

村に帰ってくる住民も増え、ワイン用のブドウの木を植えるなど新たな産業づくりのほか、工業団地の整備が進んでいて2020年12月には除染廃棄物の運び出しを終えた。

千葉県など複数の場所を転々としていた草野さん夫婦も震災から3年後に村に帰ってきた。

草野勝利さん(76):
ここは20キロ圏内なので放射性物質はどうなのかというのが一番の心配で。

草野繁子さん(75):
どういう風に考えたらいいか分かりませんけどね。やっぱり髙村先生が本当にしょっちゅう来てくれる。「心配ないですよー大丈夫ですよ」と、いつも言ってもらっていたので、何かあったら先生どうするのと言えば「大丈夫だよ」って言ってくれる。

今、村内では住民の約8割にあたる、約2000が暮らしている。多くが高齢者で、子育て世代が少ないのが現状だ。

女性:
帰ってきたのが4年前、5年になるかな。みんなと集まってゲームしたりしてそれが最高。

3年前に戻った女性:
(若い人は) あまりいないみたい。(元通りの生活は)ない。ありません。

福島第一原発では廃炉に向けた作業が進んでいる。しかし、溶けた核燃料と周辺の金属がまざりあった、いわゆる「燃料デブリ」を取り出す技術は開発段階でスタートラインにも立てていないとも言われている。

長崎大学原爆後障害医療研究所 髙村昇教授:
福島の復興は地域によってフェーズが違う。段階が違う。ここから富岡町に行ってみると人口1万6000人だったところが1割戻ったかなと。町は閑散としている。大熊町に行ってみると人口1万人だったところに戻ったのは200人ちょっとです。復興が始まったばかり。そして隣りの双葉町に行くと人口はゼロ…誰も戻っていない。復興が始まってもいない。

草野勝利さん:
収束はしていないからね、原発は。ところが「収束」と言うと、今は新型コロナのことで原発の収束は、住民は忘れている。(村内での聖火リレーは)喜ばれる人もいると思うけど本当に復興しているのかなと疑問をもつ人もいますし、ここにいない人は関係ない。ただ花火をあげて今戻っている人のためだけのお喜びの式典なのかなと。

草野繁子さん:
復興とかではなくて自分の生活のことで精一杯で…。絶対安全。事故はない。これだけはずっと東電さんは言ってましたからね。こういう風な事故はありえないと思っていましたけど、だから恐ろしいの一言ですよね。どうにもならない、人間の手には負えないんじゃないでしょうかね。

長崎大学原爆後障害医療研究所 髙村昇教授:
放射線は見えないし音もしないし、だからこそ怖い。でも、放射線は簡単に計れる。自分の線量、空間線量だからその値がどういう意味なのか、そういういったものを提示してきた10年だった。おそらくそういった作業をこれからもしないといけないと思うし、それが地域の人に、生活に寄り添ったような物差しを出しながら説明をしていくことになるのかなと。

震災から10年。原発事故の影響は消えることなく、故郷の復興を阻んでいる。その中で不安と向き合う被災者たちのそばに長崎からの支援がある。

(テレビ長崎)

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