去年の11月27日に新型コロナウイルスを発症した秋本可愛さん(30)。彼女は発症当初、倦怠感や身体の痛みはあったものの重い症状ではなかった。しかし発症から5日後、嗅覚と味覚が突然なくなり100日以上経ったいまも味覚はまったく戻っていない。厚労省によると発症後120日で味覚障害が残る人はわずか1.7%。いったいどんな症状なのか、秋本さんに聞いた。

「あれ?味がしないな」嗅覚と味覚が突然なくなる

秋本さんは介護関連会社の社長。2020年11月の連休明けに同居するパートナー(現・夫)が発熱しコロナ陽性が判明。その後自身も倦怠感や身体の痛みが出て、PCR検査の結果コロナに感染していることが分かった。

秋本さん「最初は『本当になるんだ』としか思っていませんでした」
秋本さん「最初は『本当になるんだ』としか思っていませんでした」
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ーー発症当初はどんな症状だったのですか?

秋本さん:
11月27に発症して陽性が判明したのが12月1日なのですが、当初発熱はないものの頭や身体がとにかく痛くてだるい感じでした。でも発症後も自宅でいつも通り仕事をしたり、オンラインで講演をする機会があったりと、寝込むほどではありませんでした。嗅覚と味覚がなくなったのは発症から5日後の12月2日でした。

――嗅覚と味覚がなくなったのは徐々にですか?それとも突然ですか?

秋本さん:
12月2日にお昼ご飯を食べた時「あれ?味がしないな」と思って、味を濃くしたんですけどやはり味がしない。その日朝食はとっていなかったのですが、前の晩は普通に食べていました。同時に匂いも感じなくなったのですが、その時は身体もだいぶ軽くなっていたので、「本当になるんだな」としか思っていませんでした。

医者から処方されたのは漢方薬と点鼻薬

――当初はそれほど気にならなかった?

秋本さん:
コロナの後遺症で嗅覚と味覚がなくなるのは知っていました。医療関係サイトを調べてみると「完治してから約2週間継続するようだったら一度受診をお勧めします」とあったので、「2週間ぐらいは仕方ないな」と思って経過観察しました。

しかし2週間経った時点でも嗅覚も味覚も全くない状況で、改善がみられなかったのと周囲に受診を勧められたので受診しようと考えました。最初に問い合わせた耳鼻科には「何もできない」と言われて、別の耳鼻科に行くと丁寧に診察してくださり、漢方薬と点鼻薬を処方されて、嗅覚刺激療法という嗅覚改善のための訓練を教えていただきました。

――その後は?

秋本さん:
先生に教えていただいた嗅覚刺激療法で朝晩アロマオイルを10秒ずつ嗅いで自分の嗅覚を確かめているのですが、22日目にようやくアロマオイルの香りがほんの少しだけわかりました。嗅覚はその後少しずつ改善傾向が見られ、35日目にしてようやく食事のにおいがわかるようになりました。ただそれ以降は3割程度以上の改善もなくちょっと凹みました。

しかしそこから私がきつかったのは、異臭がするようになったんです。温かい食べ物がすべて臭くて、それでも最初のうちはご飯を食べられたんですけど、臭いがきつくなった時期があって、その時は温かい物を食べようとしたらもう臭くて吐き気がするようになって。

嗅覚改善後温かい食べ物に異臭がするように

――異臭は具体的にどんな匂いでしたか?

秋本さん:
それがすごく難しいんです。「この匂いと似ている」みたいな感じではなくて、何か焼いてはいけないものを焼いたような。刺激臭ではなくて、カテゴリ的には硫黄に近いかもしれませんが、もっと受け付けられない感じです。真冬なのに温かい食べ物はすべて受け付けなくなってしまったので、もう開き直ってファスティング(ダイエットの一種)をしましたね。

――ファスティングにいきましたか(笑)。

秋本さん:
そうですね、この際きれいになってやろうと思いました(笑)。いま異臭はだいぶ改善されていて普通に食事もとれています。嗅覚は体感ですが50%くらいまで改善されましたね。とはいえ、まだしっかり嗅がないと匂いが分からなかったりします。味覚はまったくないままですね(3月10日時点)。

味覚がなくても辛さや味の濃さ、食感はわかる

――味覚がないという状態は、食事をするときどういう感じなのですか?

秋本さん:
味覚がないといっても、何もわからないわけではないんです。辛い物などは触覚で分かります。例えばワサビは鼻にツンとくる感じはあります。辛さだけでなく、味の濃さや温度、硬さなどの食感はわかります。

カレーの味はわかりません。見た目とこれまでの経験でカレーを食べているのがわかるだけですね。アイスクリームやチョコレートを食べていても、甘い系統のカテゴリのものということはわかりますが、味のバリエーションは本当にわからないです。

――飲み物はどうですか?

秋本さん:
毎朝カフェラテを飲んでいますが、甘い系統の熱い飲み物だなと。ビールも飲みますが、ちょっと炭酸が強い苦い系統の飲み物みたいな感じです。いまはそういう感覚にも慣れてきて、味覚がなくてもおいしく食べられる工夫を心がけています。

秋本さん「いまは味覚がなくても美味しく食べられる工夫を心がけています」
秋本さん「いまは味覚がなくても美味しく食べられる工夫を心がけています」

食べ物の見た目と食事相手、食欲が最大の味方

――どんな工夫をしているのですか?

秋本さん:
味覚がないともったいないのであまり贅沢をする気にはなりませんが、食べたいと思ったものを基本的には我慢しないようにしています。見た目で「美味しそう」と感じることを大事にしていたり、誰かと一緒に食事をすることで目の前の人が美味しそうに食べていたら不思議と美味しく感じてきます。あとは「お腹が空いた〜」という食欲は最大の味方です。

――味覚を改善するための治療方法はないのですかね。

秋本さん:
味覚に関しては周囲からのアドバイスで亜鉛やビタミンなどのサプリメントをとってみたりしましたが、現状では私は効果がみられません。まだまだコロナ後遺症に関する治療法は確立されていないのが現状だと思いますが、「良いかも!」と教えてもらったことはできる範囲でやってみながら、焦らず経過を観察していこうと思っています。

コロナ後遺症への理解を深めることが大事だ

――もう100日を超えたのですね・・。厚労省によると120日後に嗅覚障害がある人は9.7%、味覚障害は1.7%(厚労省「新型コロナウイルス感染症診療の手引き第4.1版」より)なので、レアケースですね。

秋本さん:
私もこんなに長続きするのはちょっとびっくりしています。私は嗅覚と味覚障害なので仕事にはそれほど影響がなくて、メンタル的に凹むことはあれど重く受け止めずにすんでいるのは仕事に夢中になれているからだなと思っています。

ただ後遺症になってから知りましたけど、コロナの後遺症の程度は本当に人によってさまざまで、慢性疲労症候群でベッドから起き上がれず会社を休んでいる人もいたり、「陽性」の診断を受けていないばかりに「コロナ後遺症」として診察をしてもらうことができなかったりと、さまざま悩みがあるようです。

――後遺症に悩む方たちは多いと聞きますが、我々は症状などあまり知りませんね。

秋本さん:
いまSNSでコロナの後遺症がある人達との繋がりに情報をいただいたり声をかけあったりして、私自身が支えてもらっているなと感じているのですが、こうした“コロナ仲間”とのつながりや後遺症に対する理解を広めていくことがますます重要になると感じていますね。

――ありがとうございました。どうぞお大事になさってください。

厚労省によるとコロナの後遺症は、発症から60日後でおよそ2割の人が嗅覚障害(19.4%)、ほか呼吸困難(17.5%)、倦怠感(15.9%)、咳(7.9%)、そして味覚障害が4.8%となっている。さらに発症から120日後でも後遺症は残り、嗅覚障害は9.7%、味覚障害は1.7%の人にみられたという。また24%の人に脱毛がみられ平均76日間続くそうだ。

今後我々は後遺症に対する理解と注意が必要だが、まずはコロナに感染しないような対策を常に講じることが何より大切だろう。

(秋本さんのパートナーは医療従事者、秋本さんも介護関連会社であり、一般の人以上に感染対策には気を遣っていた)

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。