兵庫県では、東加古川病院で新型コロナウイルスの感染者が200人を超えるなど、県内の複数の『精神科病院』でクラスターが相次いでいる。
こうした中、兵庫県は感染症の専門の看護師などを精神科病院に派遣して研修を強化し、感染拡大を防ごうとしている。

なぜ、精神科病院でクラスターが相次ぐのか。
兵庫県内の精神科病院に勤める看護師・森田亮一さんに話を伺った。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん
精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん
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森田さんは、感染症に関する専門的な知識と技術を持つ「感染管理認定看護師」で、兵庫県の研修を担当する看護師の1人だ。

精神科病院でクラスターが相次ぐワケ…“難しい感染対策“

 ――精神科病院でクラスターが相次いでいます。現場の看護師としてどう見ていますか?

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
私が勤める精神科病院ではクラスターは起きていませんが、もし院内で感染者が出た場合は、感染が広がりやすいんじゃないかと、正直に言えば感じています。
精神科病院では病気の特性上、患者さんに感染対策をお願いしても、なかなか手を洗っていただけないとか、マスクをつけていただけないことが多く、患者さん同士の距離も近いため、感染拡大のリスクは高いと思います。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
長期で入院する精神疾患の患者さんは以前と比べると減りましたが、10年単位で入院している方は実際にいらっしゃいます。病院が、治療の場というよりは、生活の場になっているところがありますので、”家庭内感染”に近いところがあると思います

患者の病室
患者の病室

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
また食事やグループワークによる治療で患者さんが集まることや、他の病院に比べてドアなどが多く患者さんがいろんなところに触れやすい環境であることも、感染拡大につながっていると考えられます

患者がグループワークで使用する部屋
患者がグループワークで使用する部屋

森田さんによると、精神科病院では、消毒液や手洗い場の設置にも難しいところがあるという。
消毒液は、患者が誤って飲んでしまうことがあるため、部屋や廊下に消毒液を設置するのが難しく、森田さんが勤める病院のスタッフは、常に消毒液を携行して、患者の手に拭きかけるなどして対応している。

手洗い場についても、患者の中には大量の水を飲んでしまったり、周りの人に水をかけたりする人がいるため、スタッフの目の届かないところには設置できないのだ。

消毒液など物がない廊下
消毒液など物がない廊下
消毒液を携帯する職員
消毒液を携帯する職員

――看護師はどう患者をケアしているのですか?
精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
感染対策ができない方は一緒に手洗い場に行ったり、食事で席につくときにアルコールを手につけて消毒していただいたり、食事のあとは歯磨きしたり、そういったところの介入をしています。歯磨きができない方に関しては、看護師が歯を磨くこともあります

「体調不良」“伝えられない” “わからない”患者も

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
本当に体調が悪いときに伝えることが苦手な方もいますし、熱が上がってしんどくても、それがよくわからない状態で普通に歩き回ることもあります。
熱がある状態だったら、普通は部屋にこもっていただくようにお願いするのですが、そのままの状態で他の患者さんの近くに行ってお話しをしたり、その状態でせきがでてもマスクができなかったり、そういうこともあります

――Q:症状を訴えられないような患者には、どう対応していますか?
体調的にはそこまで悪くなくても、1日に1回2回、熱や血圧を測ります。
それから、患者さんとお話しする機会が多いので、いつもと違うところに関しては、看護師などがチェックしていく形で対応しています。

新型コロナウイルスが一度持ち込まれると感染拡大のリスクが高いという精神科病院。
では、ウイルスを「持ち込ませない」ための対策はどうなっているのか。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
一般の病院だと、面会そのものを禁止していたり、外出泊を全くしないという対応をされていますが、精神科の治療においては、どうしても面会でご家族との交流を重ねていくことも大事です。
また、外出泊で、退院に向けて生活を整えられるかどうかを見ていくことも必要になってくるので、以前と比べて回数や頻度は減ってはいますが、完全に無くすことは難しい状態になっています。
3カ月や1年という単位で入院されている方が、適切な介入ができないと、そこからさらに入院期間がのびていってしまって、その人の生活の質が落ちてしまうことは避けたい。
接触頻度は減らすようにするのですが、患者の精神疾患の治療のためにも必要最低限の必要なところは守っていこうとしています。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
患者さんが(ウイルスを)持ち込むというところは、完全に防ぐのは難しいかなと考えています。
職員が持ち込まないことに関しては対策ができるので、そういったところで、できる対応をひとつずつやるということになります。普段からの”標準予防策”として、消毒・手洗い・マスクの着用など基本的な感染対策を徹底することが必要です。自分たちが患者さんに触る前と、その後、自分に触る前と、その2カ所で徹底すれば手を介しての感染は広がらないはずなので

精神疾患のコロナ患者を受け入れ 課題は?

 森田さんが勤める精神科病院では、精神疾患がある軽症のコロナ患者も受け入れている。
コロナ患者は空間を分離して健康観察を行っているが、ここでも、精神科病院ならではの対応が必要になっているという。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
一般の病院だと、患者に何時に熱を測ってくださいと伝えて、それでナースコールで聞いて確認して、患者の部屋に行かなくて済むタイミングというのがあると思いますが、精神科病院だと、その接触が減らせないんです。
その都度、看護師が必ず部屋に行って体温を測って、介抱して看護師が目で患者さんの状態を確認してというところがあるので、関わる頻度は高くなります。
うちのスタッフは、防護具を着ているので、患者さんのメンタルのケアを重視して、いつも通りにお話を聞きます。その際に、距離を空け過ぎてお話しすることがないようにしています

――容体の変化はどうケアしている?
血液中の酸素飽和度は一日4、5回測ります。また、心電図のモニターで波形に異常がないか常時見ています。
ただ、看護師が患者さんに対応しようというときに、精神疾患の特性で不機嫌になられて近寄りがたいときもあるし、状況によっては、本当に検査しないといけないときでも検査を断られることもあります。発見が遅れがちになり、難しくなるところはありますね

森田さんが勤める精神科病院では、人工呼吸器などがないため、患者の容体が悪化した場合には、他の病院に患者を搬送することになる。
ただ、この転院についても課題があると明かす。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
平時からそうですが、どうしても、精神科の病気があるだけで、他の一般の病院では受け入れてもらえない。コロナは関係なくても、精神科の患者が状態が悪化した時には、精神疾患があるなら受けられないということが実際にあって、重症化したときに対応しづらいということが実際にあります。
(精神疾患があるコロナ患者についても)いざ、重症化のおそれが出てきて転院させなければならないというときに、受け入れてくれるところがあるのかという不安はいつもあります。精神科の病気があっても、重症の患者を受け入れてくれる病院もいくつかあるが、そういったところは多くはないので。

マンパワーも防護具も不足…精神科病院の苦しい事情

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
一般の病院と比べて医師や看護師の配置数が少なめで大丈夫という法律があるので、どうしても精神科病院の医療従事者の数は少なくなっています。
そのために患者さんの健康観察が遅れることがありますし、患者さん自身も症状をうまく伝えられないという方もいて、対応に遅れが出るということがあります。
精神科だからスタッフの数が少なくてもいいというのは、何とかしてほしいと正直なところ思います。患者さんに関わるのにマンパワーがいるので。

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
それから、平時は防護具を使わない精神科病院ですが、何かが起きた時は使えるように、ガウンやマスクなどの物資を回していただけるとありがたいなと思います。
感染していたり、疑いがあったりする患者さんで精神的に落ち着かない方は、1人に対し看護師2人で関わることが多いので、必要な防護具の数は多くなっています。
クラスターが起きているところは行政の介入で物資を入れてもらえると思うんですが、何も起きていない精神科病院が感染予防のために動こうと思うと、防護服は潤沢にはないのではないかと正直思います。どこで聞いても、ほとんど入ってこないと聞いていましたので。普段の感染予防策として、防護具も必要な数は欲しいと思いますね

精神科病院の感染対策「やり続けることが大事」

精神科病院に勤める「感染管理認定看護師」・森田亮一さん:
精神科病院の感染対策は、ずいぶん意識として上がってきたと思いますが、これからですね。私が研修に行った他の精神科病院でも自分ごとだと捉えて、感染対策をする方は増えていっていますので、これがいい機会になれば。
いま、新型コロナの新規陽性者が減りつつあるところで、もう大丈夫だと思わずに、きちんとやるべきことをやり続けられることが大事だと思います。

(聞き手 関西テレビ記者 藤川宏平)

(関西テレビ)

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