新型コロナウイルスの感染予防で効果が高いと注目を集めている“不織布マスク”。しかし、単に不織布マスクといっても、「N95」などと表記されたものから、形や性能によって多くの種類がある。店頭でどれを選んだらいいか、迷ったことのある人もいるだろう。

そこで、「感染予防に適した不織布マスクとは何か?」の疑問を解消するために、高機能の不織布マスクの開発も手掛ける信州大学繊維学部・金翼水教授に話を聞いた。

規格マスクは大きく2種類「防塵マスク」と「サージカルマスク」

ーーそもそも、不織布が良いと言われているのはなぜ?

不織布が良いのではなく、捕集効率(粒子をろ過する効率)と圧力損失(通気度の高さ)のバランスを満たしているマスクであることが重要です。

不織布を使用しているマスクは、フィルターの性能はある程度あったとしても、これがマスクとしての性能ではありませんので感染対策が十分とは言いにくいと考えられます。

不織布マスクが良く、布マスクがダメというのは、このバランスを布では達成できない点にあると言えます。ただし、不織布フィルターを挿入するタイプや、不織布フィルターが内部に入っているマスクもあるので、見た目だけで判断しないようにしましょう。

(画像はイメージ)
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ーーでは「N95」などと書いてあるマスクは何?

有名なN95は米国の防塵マスクの規格であり、対象粒子ごとにN・R・Pと捕集効率が95・99・100とグレードが分かれています。(N95・N99・N100やR95・P99といった具合に)

N95の認証機関はNIOSH(アメリカ合衆国国立労働安全衛生研究所)になります。

防塵マスクの規格は世界各国に同等規格が存在しています。EUはFFP2、中国はKN95、オーストラリアはP2、韓国はKorea1stClass(KF94)、日本はDS2になります。

それぞれ試験粒子や試験流量、合格値となる捕集効率と圧力損失が定められています。

マスクと言っても種類はたくさんある(画像はイメージ)
マスクと言っても種類はたくさんある(画像はイメージ)

ーー“マスクの規格”というのは何?

規格マスクは大きく分けて2種類存在します。「防塵マスク」と「サージカル(医療用)マスク」です。不織布マスクもサージカルマスクの1種となります。

防塵マスクは、フィルター性能が高くかつ顔面への密着性が高い形状になっており、微小粒子(ウイルスや粉塵)に対する曝露リスク(有害物質や病原菌にさらされるリスク)の高い環境で作業する着用者の呼吸器官を守ります。

(防塵マスクのイメージ)
(防塵マスクのイメージ)

一方、サージカルマスクにはフィルター性能はありますが、フィット性は高くありません。もともと外科手術の際に術者から患者への飛沫感染を防ぐ目的と、患者の血液から術者を守る目的で設計されているからです。

なおコロナ予防において現在、医療従事者がサージカルマスクではなく防塵マスクを使用しているのは、自分の身を守るためには飛沫またはエアロゾルの遮断が大事となることから、よりフィット性の高いものを選んでいることが理由となります。

日本の規格「DS2」とは

ーーでは具体的に、日本の「DS2」はどういう規格なの?

DS2は、日本の厚生労働省が定めた国家検定規格に適合したマスクで、米国規格のN95に相当するものとして一般に認識されています。

マスクの規格は粉塵発生現場や医療現場で使用するために作られています。そのため、マスクの規格は防塵マスク(N95)とサージカルマスク(医療用)の規格になります。防塵マスクには日本の規格はDS2ですが、サージカルマスクには日本の規格が実はありません。

なお米国では、サージカルマスクは医療機器であるためFDA(アメリカ食品医薬品局)が認可しています。

(画像はイメージ)
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ーーなぜ日本でサージカルマスクに規格がないの?

日本は、海外に比べ一般生活の中で花粉・風邪対策としてマスクを着用する人の割合が元々高く、独自の市場が発展していました。

基本的に、一般人が風邪・花粉対策で着用するためのマスクの規格というのは世界にもありませんので、花粉粒子捕集効率(花粉の粒子は大きくこれをろ過する効率)に対しては(一社)日本衛生材料工業連合会マスク工業会の規格など独自のものがあります。

(一般的な不織布マスクのイメージ)
(一般的な不織布マスクのイメージ)

日本市場の中では、防塵マスクやサージカルマスクの規格以外の高機能マスクが多く開発されています。高機能の基準としては、日本衛生材料工業連合会マスク工業会の自主基準があり、性能を表示する際には、

・花粉粒子捕集効率試験の結果

【サージカルマスク規格】
・PFE試験(微小粒子をどれくらいろ過できるのか)
・BFE試験(バクテリアを含む粒子をどれくらいろ過できるのか)
・VFE試験(ウイルスを含む飛沫をどれくらいろ過できるのか)


の結果であれば製品パッケージに表記をしても良いこととしています。

例えば「PFE99%」という表記であれば、約0.1μmサイズの粒子を99%ろ過するということになります。「PFE99%」「BFE99%」「VFE99%」といった表記があれば、フィルターとしての性能は高いです。

ただし、通気度やフィット性は考慮していませんので、これらが一概にいいマスクとは限りません。


ーー他にも日本独自の基準・規格はあるの?

抗菌性(JIS L 1902)や抗ウイルス性(JIS L 1922)といった機能性を評価するための日本独自のJIS規格もあります。

なお「99%」フィルター使用と記載のあるマスクは、PFE試験、BFE試験、VFE試験、花粉粒子捕集効率試験の「どれかの試験評価において99%の結果が出ているフィルターを使用したマスク」という事になります(保証値ではなく測定値)。

認証された密着性の高いマスクが最適

ーーでは、日本のマスク事情をどう思う?

日本は、一般の国民のマスクに対する関心が少ない(よくわからない)と思っております。きちんとした規格のマスクに関して関心がないのが現実です。これは日本の政府やマスコミの問題だと思います。マスクに関する情報発信はあまりにも少ないです。

恐らく、認証(韓国のKF94・USAのN95・EUのFFP2・中国のKN95)されたマスクが市場に出回らないからです。医療従事者を中心に上記の認証マスクを使用しているのではと考えております。

(画像はイメージ)
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しかし、最近の論文で1.8mの距離から咳をした場合N95クラスのマスク以外は危ないとの発表もあります。


ーー結局、感染防止効果の高いマスクとは何?

良いマスクというのは、捕集効率が高く、圧力損失が低く(通気度が良く)、かつ密着(フィット)性が高い形状のものになります。

私の判断では、まずフィルターの性能です。次は呼吸しやすさ、汗がたまらない、声が通りやすいなどがあると思います。そして認証されるマスクにはこれら、密着性と通気度、圧力損失などを全部クリアしています。

そこで、“うつらない”“うつさない”マスクの結論は、認証のあるマスクの着用が第1です。

例えば、日本で販売しているマスクはフィルターの性能が高くても、マスクとしての密着に関しては着目していないのですが、認証があるマスクというのは密着性を大事にしています。密着性が低いマスクは感染症対策に効果があるとは言いにくいでしょう。

AirQUEEN(提供:株式会社ヤギ)
AirQUEEN(提供:株式会社ヤギ)

ーー密着性が高いというのはどういうこと?

2D立体設計(一般的な不織布マスクの形)では、密着性を担保できないため、飛沫のことを考えると防ぐことができないので3D立体設計のものをおすすめします。
2D立体設計はどうしても密着という観点では、フィルターの効率が高くでも問題はあります。


ーー認証マスクはどうやって入手できるの?

現実的に薬局や店では私は認証のあるものは見たことありません。
私も2020年1月から疑問でした。なぜ日本では一般人は購入できないかということが。恐らく物がないから?(でも医療従事者はきちんとN95のような認証のマスクを使ってると聞きました)

今も物はないので一般人はなかなか購入が難しい状況であると私は認識しております。
インターネットでは見つけることができますね。 買う前に認証があるかどうかを調べる必要があり、 海外の認証マスクは個人が買おうとしたらいくらでも買えると思います。ただ値段はやや高いです。


ーー不織布マスクだと何が良いの?

不織布マスクは3、4枚重ねて使ったら効果があるかもしれませんが、不織布マスクでも海外の認証を得たマスクはあります。これは高性能のフィルタを使ったものです。

不織布マスクのほとんどが99%カットと書いてあるけど、ほとんどがPM2.5に対して99%であり、N95方式で測ると60から70%程度で低いです。
ただ他の布マスクやポリウレタンよりは良いです。しかし感染対策としてはお勧めできないです。

今日本では認証のマスクの購入が難しいので、ベストではないが選ぶなら不織布マスクの中でPFE試験、BFE試験、VFE試験等をクリアしたマスクが良いです。


ーーちなみに、金教授が開発した「AirQUEEN」はどういうマスクなの?

AirQUEENはフィルターがナノ構造になっており(細かい網状)、軽くてフィルターの効率が高い(99%)、しかも通気度も良い、アルコール洗浄でウィルスを非活性化してから再利用ができるなどの利点があり、これは2020年に論文として発表しました。

マスク「AirQUEEN」について(提供:金翼水教授)
マスク「AirQUEEN」について(提供:金翼水教授)

金教授は、日本のマスク事情について「日本のマスク市場は認証の基準はあるとしても、現実に一般の方はこのようなマスクは手に入らない。これが問題です。テレビを見ると、不安で2枚3枚とマスクを重ねて使っている話を見ましたが、認証のマスクは1枚でも十分効果があると言えます。」とも語っていた。

より安全性を求めるのであれば、密着性が高い形状やN95、DS2、FFP2、KN95、KF94などの認証がされているマスクの使用ということだが、医療従事者への優先や市場を考えると難しそうだ。

「AirQUEEN」の「PFE99%」の表記 (提供:金翼水教授)
「AirQUEEN」の「PFE99%」の表記 (提供:金翼水教授)

そこで今、私たちが現実的に選べるのは、単に「99%カット」とだけ記載されている不織布マスクではなく、「PFE99%」などと記載されているPFE試験、BFE試験、VFE試験などをクリアしたマスク」だろう。
 

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。