新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令後2回目の週末となる16日(土)・17日(日)は、大学入学共通テスト(以下共通テスト)の実施日だ。

今年は共通テストの“元年”であり(これまでは大学入試センター試験)、受験生にはただでさえプレッシャーがあるうえに、今回の緊急事態宣言でさらなる不安が広がっている。

「ポストコロナの学びのニューノーマル」第31回では、国立大学理系のトップクラスであり、共通テスト受験生約3千300人に試験場を提供する東京工業大学(以下東工大)の益一哉学長に、コロナ禍の入試のあり方について聞いた。

考えうる試験場のコロナ対策はすべて打ってきた

緊急事態宣言発令に向け萩生田文科相は5日臨時記者会見を開いて、緊急事態宣言が発令されても共通テストは予定通り実施すると正式に表明した。

この決定について益学長は「受験生のことを考えると適切な判断だった」と語ったうえで、東工大の入試に向けた準備状況をこう語った。

「共通テストでは全受験生が同じ条件、環境であることが基本です。文科省は毎年マニュアルをつくっていますが、今年はコロナの感染対策がありさらに細かく指示がありました。本学でも考えうる対策はすべて打ってきました」

東工大益学長は「考えうる対策はすべて打ってきました」と語る
東工大益学長は「考えうる対策はすべて打ってきました」と語る
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受験生が利用する”交通機関の密”対策が重要

東工大では試験監督などの入試スタッフが感染者や濃厚接触者になった場合に、代替スタッフを手当てできるよう予備の人員をこれまでより厚めに配置している。また2月の個別入試の際には会場にサーモグラフィを設置し受験生の検温を行う予定だ。

「試験監督の予備は例年用意していますが、今年はサポートチームを2つ用意しています。だから受験生には『大学も受験生から見えないところでも様々な準備をしているから、毎日検温して体調を整えて安心して受験に臨んでほしい』と思います」

共通テスト実施の2日間は全国で約53万人の受験生が移動する。そこで懸念されるのが、受験生が利用する交通機関での感染対策だ。これだけの受験生が一斉に移動すれば、交通機関などが密になることも予想される。

「せっかく準備をしてきた受験生たちの機会を奪うことなく、実施に向けて社会全体で支えていきたいなと思っております」

萩生田氏はこう述べて、国土交通省や経済産業省などと連携しながら、政府全体で受験生をサポートすると強調した。

東工大では約3千300人の受験生に試験場を提供する
東工大では約3千300人の受験生に試験場を提供する

試験日の公共交通機関利用を控えてほしい

共通テストは週末実施されるので、公共交通機関の利用者は平日より少ないことが予想される。しかし益学長は「ぜひ社会の人たちに伝えたいことがある」と語る。

「受験生によって受験科目が異なるので、試験場に来る時間はばらばらとなります。しかし16日最後の教科となる外国語はほぼ皆が受験するので、終了時間の午後6時過ぎは帰宅する受験生で公共交通機関が混雑することが予想されます。だから一般の人には16日の6時過ぎからしばらくは受験生のために公共交通機関の利用を控えてほしいのです」

また益学長は、国立大学の個別試験についてもこう語る。

「国立大学の前期日程は、2月25日と26日に集中します。いずれも平日なので朝の通勤時間に受験生が移動しないといけません。できればその2日間は時差通勤かテレワークをお願いしたいです」

大学でも試験後は受験生の“時差帰宅”を促し、大学近くの道路や公共交通機関の駅が混雑するのを防ぐよう努めている。

益学長「試験日には時差通勤かテレワークをお願いしたい」
益学長「試験日には時差通勤かテレワークをお願いしたい」

共通テストは追試験も準備している

入試に向けて東工大では様々なケースのシミュレーションを行い、“プランB”、“プランC”まで用意していると益学長は語る。

「おそらく文科省や他の大学も、万が一入試ができなくなった場合のシミュレーションをしていると思います。文科省も大学も受験生の受験機会を確保するためにあらゆる方策を考え実施していきます。共通テストも今年は特例追試験を用意しているので、受験生は安心して準備してください」

緊急事態宣言を受けて大学入試センターは8日、受験生に対する理事長メッセージをホームページに掲載した。受験生と保護者はぜひここにある注意事項を確認してほしい。

「毎朝検温などの健康観察を行い、結果を健康観察記録に記録して試験会場へ持参」

「体調が万全でない場合は、無理して受験せず追試験の受験を申請」

「試験場内では常にマスクを着用」

「換気のため窓の開放を行うので厚手の上着など持参」

「昼食は各自が持参し、他者との会話を控え自席でとる」

「試験場で体調が変化した場合、無理をせず監督者へ申し出る。この場合でも追試験の受験申請ができる」

受験生の入試環境整備は大人の責務

今年の受験生はコロナによる休校や修学旅行など学校行事の中止・縮小など、「なぜ私たちだけが」「なぜ俺たちだけが」という思いを持っているだろう。

「そういう経験をぜひ糧にして、エネルギーに変えてこの試験を乗り切っていただきたいなと思っています」(萩生田氏)

受験生がベストの状態で入試に臨む環境を作るのは、我々大人の責務なのだ。居住地域や通勤などで利用する路線にある学校の試験日には、ぜひテレワークか時差通勤を励行してほしい。都内では2月1日から3日頃は私立中学の試験日が集中するので、配慮をお願いしたい。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。