新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、来年の日経平均株価はどうなるのか?「2021相場の論点」を今月上梓したマネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏は、来年末は3万円を超えると予測する。「予想されるリスクはコロナだけでなく政治と東京オリパラだ」と主張する広木氏にインタビューした。
来年経済の回復感が顕著になる
――前回広木さんにインタビューしたのは戦後最悪だった4-6月期GDPの発表直後でした。それでも広木さんは「秋にはⅤ字回復して株価は2万5千円を目指す」と予測していましたね。
(関連記事:「秋にはV字回復期待」で戦後最悪GDPでも株式市場は2万5千円目指す)
広木氏:
結局突き抜けちゃいましたね(笑)。近年の景気後退はバブルの崩壊で起こっていますが、今年はコロナショックで人為的に経済を止めた非常に特殊な景気後退だったと思います。
だからこの特殊要因がなくなればすぐ平常時に戻るわけで、株式市場は当初パニック売りしたもののその仕組みに気づいてからは戻りが早かったですね。
――来年はワクチン接種が本格的に始まりコロナは終息に向かうことが期待される一方、各国で変異種が見つかるなどまだまだ予断を許しません。来年の株価予測は難しいですね。
広木氏:
感染が終息しないのは最悪のシナリオですが、それでも経済の回復感は顕著になると思います。株式市場が企業業績を評価するのは変化率の観点からなので、「大底をつけた=最悪期はすぎた」見方が大勢を占めれば、来年は発射台が低い分変化率が高くなります。
アナリストたちが予想する平均の増益率は50%です。飲食、旅行、移動、エンターテインメントなどの分野は以前の状態に戻りませんが、いち早く景気回復した中国の需要やデジタル化、リモートワーク需要などの新たな成長要因で相殺されるでしょう。

最も高いシナリオで来年末株価3万1200円
――たしかに大底をつけたらこの先は改善するだけですね。それでは広木さんは来年末の株価をズバリいくらと予測しますか?
広木氏:
来年最も確信度の高いシナリオで株価を予測すると3万1200円です。過去50年間(1970年~2019年)で日経平均が年間で上昇した年が32回あって、その平均上昇率が20%。今年末の終値を2万6000円として上昇率20%だとすれば3万1200円となります。
さらに上振れるシナリオでは、過去50年間で上昇した年32回のうち上位16回の平均上昇率は34%。これを当てはめると3万4800円になります。
――ワクチン普及の遅れや変異種による感染再拡大、人々の行動制限で経済停滞が続くというワーストシナリオの場合はどうなりますか?
広木氏:
ワーストシナリオでは株価がPBR(※)1倍を割り込むという可能性が出てきます。しかしいま“日経平均株式会社”の1株当たり純資産は2万円を超えているので、PBRが0.9程度まで下がったとしても株価が2万円を割ることはないでしょう。ワーストシナリオでも2万500円を底値に見ておけば充分だと思います。
(※)株価純資産倍率。株価がその企業の資産価値の何倍の値段がついているかをみる投資尺度で、低い方が割安と判断され1倍が底値の目安とされている。
”菅おろし”と東京オリパラ開催がリスク
――コロナ以外で株式市場がリスクと見ているのは何ですか?
広木氏:
政治がリスクになってきたのではないかと。菅政権はスタート時こそ支持率も高いし選挙をやれば勝つだろうと思われていました。政権が安定して財政出動や規制緩和といったマーケット・フレンドリーな政策を出し続ければ買い材料だったのですが、最近の様子を見ているとどうもそうはならない感じです。
来年の衆議院選挙で政権交代はないにしても、与党の議席が減って事実上の負け戦になると「菅おろし」みたいな風も吹きかねない。そうなると日本がまた短命政権に戻り、「規制改革が進まない」と外国人の失望売りにつながるシナリオも充分あると思います。

――来年開催予定の東京オリパラですが、かつてはインバウンド期待で景気浮揚要因とされていました。いま株式市場ではどう見ていますか?
広木氏:
個人的には東京オリパラは開催しない方が株価にとってプラスだと思っています。開催した場合、仮に無観客だったとしても海外から多くの選手や関係者が訪れます。感染拡大が続く国の人々を受け入れるのは日本ではコロナ流行後経験がなく、果たして完全にコントロールしきれるのでしょうか。
もし外国から新たな変異種が持ち込まれたら、オリパラ後日本だけ感染拡大が続くということにもなりかねません。こうしたリスクを負うのでしたら、インバウンド需要はすでに期待できませんし開催しないほうが日本経済や株式市場にとってプラスだという見方もあると思います。
財政出動でカネ余りと資産インフレに
――アメリカはバイデン政権が誕生しますが、経済政策に大きな変化はありそうですか?
広木氏:
コロナ禍が続く中、どの国も世論に押されるかたちで財政出動が続くと思います。バイデン政権もそうでしょうし、それは景気と株価的にプラスだと思います。
アメリカは一時2千万人の失業者が出ましたが、もともと労働市場が流動的なので簡単に解雇するけど雇い直しも早い。一方アメリカではいま企業の生産性が高まっています。これは“不都合な真実”ですが、生産性の低い人員を整理したので企業業績はそれほど打撃を受けていないのですね。

――確かにアメリカではコロナによる死亡者数が30万人を超えていますが、NYダウ平均は史上最高値を更新していますね。
広木氏:
アメリカでは巨額の財政出動によって、失業しても手厚い支援があるので家計所得が増えています。失業前より可処分所得が増えている人たちもいて、市場関係者の間では「これまで見たことのない景気後退だ」と言われています。カネ余り、資産インフレのような状態になっていて、株価だけでなくビットコインもすごい勢いで上がっています。
これは実は日本でも同じ状況になっていて、銀行は企業や家計にどんどんお金を貸すので、銀行預金はこれまで見たこともないくらい増えている。日本でもカネ余り現象がいま起きているわけで、コロナが終息するとインフレが加速し金利が上昇する可能性もあります。
中国が世界経済のけん引役になるか
――最後に中国はいち早くコロナ禍を抜け出しましたが、世界経済のけん引役として中国から益々目が離せなくなりますね。
広木氏:
中国は経済的に頭1つ抜きん出ている状況ですよね。国家資本主義的なシステムの成功例がまた積み重ねられたかたちです。1党独裁体制が主導する国家資本主義は機能することが明らかになってきて、我々自由資本主義陣営にとってはチャレンジだと思いますね。

――ありがとうございました。来年の今頃またお話するのが楽しみですね。
(2020年12月26日オンラインにて取材)
【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】