富山市が去年の国勢調査で人口を2000人以上水増しした問題で、刑事告発から1カ月余りが経ち、富山県警の捜査が本格化している。当時、調査員を務めた70代の男性は、市への憤りをあらわにした。

市から渡された「鉛筆」が語るもの
富山市に住む70代の男性が見せてくれたのは、去年の国勢調査で調査員を務めた際に、市から渡された鉛筆である。
「これが鉛筆。これが調査員用」
市から鉛筆で記入するよう求められたのかと尋ねると、男性はこう答えた。

「そうそう、ボールペンははじめから使ってくれるなと言われる」

この鉛筆で書かれた書類が、市の職員によって意図的に改ざんされたのではないか。男性はそうした疑いに、強い憤りを感じている。

「正しい判断ではない。あまりにも人数が多い」
発端は匿名の告発文
ことの発端は今年9月だ。富山市が国勢調査で「人口を水増ししている」と指摘する匿名の告発文が、BBTなどの報道機関に届いた。
その後、市は人口を実態より多く報告していたことを認めた。総務省は統計法違反の疑いで、市の職員を氏名不詳のまま県警に刑事告発している。県警は先月、市役所を家宅捜索し、国勢調査の関連書類などを押収した。
総務省が今年5月に発表した富山市の人口は、速報値で40万2133人だった。ところが9月発表の確定値は39万9197人で、3000人ほど少なくなった。

富山市の藤井市長は「誠に遺憾であり、痛恨の極み。大変申し訳なく、心からお詫びを申し上げます」と陳謝した。水増しの理由については「それは全く分からない。(不正な)事務処理を組織として指示していたのではないかと疑われかねない」と述べている。
消された二重線と「空き家」の書き込み

総務省によると、調査票には、居住実態がないにもかかわらず、あるかのように記入されたものがあった。

さらに、調査員が作成した世帯一覧では、「居住実態なし」として引いた二重線を意図的に消しゴムで消し、復活させた痕跡があったという。備考欄に書かれた「空き家」や「居住なし」といった説明書きも消された痕跡が多数あった。
市の職員が意図的に消し、実際に住んでいるかのように装った疑いがある。
140世帯以上を訪ね歩いた調査員
男性が担当した地区は、140世帯以上に上る。居住者に会えないことが多く、1つの家を4回訪ねたこともあった。調査には多くの時間を割いたという。
世帯一覧の中身が変えられることを想像していたかと問われると、男性は次のように答えた。

「全然想像していない。大体想像するような話ではない。性善説で成り立っている話。何で(不正に)消しゴムを使うのか私にはよくわからない」
男性が憤るのは、人口の実態を把握し、国や自治体が政策づくりに役立てるという調査本来の目的を、市が果たそうとしなかった点である。
「(人口は)50万人でも40万人でも30万人でもいい。10年、20年後、行政として公共施設をどうするか、子どもたちの保育所をどうするかという問題が出てくる。そのための資料が変えられることは絶対まずい」
専門家「組織的な指示があったとみるのが自然」

なぜ人口を水増しする必要があったのか。統計調査に詳しい東京大学大学院の肥後雅博教授は、自治体の動機を次のように推測する。
「自治体の地方交付税の受け取り額が人口によって左右されるから水増ししたいというのもあると思うが、『どうしても40万人を確保したかった』とか、なぜ40万人なのか全然わからないが、そういった特別な意図があると人口を水増ししたくなる」
県警の捜査の焦点は、組織的な指示の有無である。肥後教授は「あったとみるのが自然」と話す。
「(指示の)発信源が組織なのではないかと思われても仕方がない状況。あるところから『やってほしい』と指示を受けて、実際に職員がやったと考えないと。まず職員個人に水増しするインセンティブが何もないし、たくさんの人間が関わらないと2000人は増えない」
全容解明には時間も
県警は、国勢調査を担当した当時の企画管理部長をはじめとする市の職員を中心に、任意で事情聴取している。
捜査関係者の1人は「関係資料は膨大で、話を聞かなければいけない人物も多くいる。捜査には時間がかかるだろう」と話す。県警は全容解明を急いでいる。
藤井市長は、県警の捜査とは別に、市独自の内部調査を行う考えだ。
国勢調査は、行政の基礎となる重要な統計である。誰が何のために人口を水増ししたのか。信頼を揺るがす事態がなぜ起きたのか、徹底した原因究明が求められる。
(富山テレビ放送)

