かつて九州最大の特定危険指定暴力団『工藤会』の本部事務所があった北九州市小倉北区の跡地には、生活困窮者支援施設『希望のまち』が建設されている。この施設内に設けられる入浴施設に特別なこだわりの壁画が描かれた。作品に込めた思いを取材した。
『工藤会館』から『希望のまち』へ
下書きなしで引かれる鮮やかな線。色とりどりのペンキが映えるキャンバスは、『お風呂の壁』だ。

制作しているのは、田中みずきさん(43)。温浴施設にペンキで風景を描く『銭湯絵師』だ。現在、日本で銭湯に絵を描く専門の絵師は、僅か3人。女性は田中さん1人だ。

「生活の中で絵があると、お風呂に入る楽しさと一緒になんだか気持ちが切り替わってパッと異世界に行けるような良さがあると思っている」と話す田中さん。全国各地の銭湯や施設から依頼を受け、足を運ぶ。
今回、キャンバスとして筆をふるったのが、北九州市で生活困窮者支援などを行うNPO法人『抱樸(ほうぼく)』が、2026年9月に完成させた総合福祉施設『希望のまち』だ。

『希望のまち』は、地域の誰もが集える交流スペースや、生活に困窮する人が一時的に暮らせるように個室50室を備えるなど、地域の新たな福祉の拠点として整備された施設。

「限られた人が使う場所ではなく、誰でも気楽に来られる。もっと言うと、用事がなくても来られる場所にしたい」と『抱樸』の奥田知志理事長は語る。

奥田理事長が、施設内で「特別な場所にしたい」との強く拘っていたのが風呂場。

「『このお風呂だったら入りたい』と言われるようなお風呂を作ろうと…。一旦裸に戻って、一番弱い状態をお互いさらけ出したうえで、もう1回生きていこう」と思ってもらえるような場所にしたいという思いがある。

女性“銭湯絵師”が描く北九州の風景
奥田理事長は、自ら東京まで出向き、「北九州の風景を描いて欲しい」と田中さんに依頼した。

田中さんは、下準備で小倉城など市内の名所を実際に見たり、地図で位置関係を調べたりしながら絵のイメージを固め、いざ現場に入ると泊まり込みで僅か3日で作品を仕上げてしまった。

完成した絵には、小倉城や門司港駅舎、若戸大橋など北九州市を象徴する風景が色鮮やかに描かれている。
「地元の名所とか、たくさん描いているので、見つけながら楽しんで頂くと一番ありがたいかな」と話す田中さん。
更に、路上生活者などの支援を長年続けてきた『抱樸』ならではのリクエストの「炊き出しのテントに今でも入っている言葉、『おんなじいのち』を描き込んで欲しい」という奥田理事長の思いもしっかりと描かれていた。

田中さんは、「凄く久々にお風呂に入られる方であったり、お風呂に入ることが苦手になってしまっていたりする方も、のんびりと心も体も休めながら楽しんでお風呂に入って頂けたらありがたい」と絵に込めた思いを語った。

2026年12月にグランドオープンする予定の『希望のまち』。『抱樸』では「お風呂は将来的には地域の人にも開放したい」としている。
(テレビ西日本)

