後継者不足や生活スタイルの変化などで厳しい状況に置かれている日本の伝統工芸。そんな状況を打開しようと福岡の若手人形師と日本を代表する佐賀の陶芸家、2人の職人が立ち上がった。
動き出した前代未聞のプロジェクト
2025年、春。福岡市の工房で、大きなプロジェクトが動き出していた。下絵を描いているのは、中村弘峰さん(40)。博多人形師の家に生まれ、4代目となる。今、最も注目されている博多人形師のひとりだ。

博多人形の概念を打ち破る作風。廃校した福岡市の小学校跡に設置された大きな狛犬など、話題を呼ぶ作品を数々発表してきた。
中村さんが大事にしているオリジナルキャラクター『不老BOY』。次に手がける作品は、このキャラクターをモチーフにして或る人と一緒に作ることになっていた。

「本当にいろんな人とコラボすると、やっぱり新しいアイディアが生まれるので、どんどん自分が進化するからですね」と中村さんがコラボを楽しみにしている相手は-

世界で広く愛されてきた有田焼のなかでも、そのトップに位置する柿右衛門。人間国宝だった14代の父を継ぐ、第15代酒井田柿右衛門さん(58)だ。

実は中村さん、かつて柿右衛門窯で修行をした縁があり、今回の作品作りに繋がったという。「天下の柿右衛門だからですね。柿右衛門窯だから。楽しみでしかないというか。ありがたすぎるというか。なんか普通だったら有り得ないんですよ。日本で誰も、できないんじゃないですか」(博多人形師 中村弘峰さん)

柿右衛門さんは「大学を出た後に、うちで半年ぐらい(働いていた)。お父さんの(中村)信喬さんが、うちの先代と仲良かったんで、職人の仕事場っていうところに入れたいと。木を切ったりとか家の周りの掃除してくれたりとか」と話す。

柿右衛門さんは、当時の中村さんのことをよく憶えていた。
市場が縮小し続ける厳しい状況の伝統工芸
400年の歴史を持つ日本の磁器発祥の地、佐賀・有田町。町の至る所に建つ窯の煙突がその歴史を物語る。

柿右衛門窯の作業場。それぞれの工程に分かれて、多くの職人が働いている。

「13年ぐらい前ですかね。懐かしいです」 と話す中村さんはここでの修行を終えた後、次々に斬新な作品を発表。今や日本を代表するアーティストになった。

今回は、そんな成長した姿を見てもらうことで、柿右衛門窯への恩返しができればと考えていた。早速、試作した『不老ボーイ』とスケッチを柿右衛門さんに見せる。
「“伝統工芸が永遠”みたいなことを願ったシリーズで、柿右衛門の世界と『不老ボーイ』がミックスしたら、すごくまた僕にとっても意味があるし、見てみたいなって思っているんですけど…」と説明する中村さん。

柿右衛門さんも「好きに(人形を)作ってもらって、できたのを見てから考えた方がいいかな…」と応じた。

有田焼と博多人形。お互いに代々続く技を受け継ぐ2人だが、その伝統工芸は今、市場が縮小し続ける厳しい状況に置かれている。そんな現状に対する思いを込めた作品も中村さんは提案した。それはシロクマをモチーフにした作品だ。

「シロクマは白い生き物で、プラス絶滅危惧種みたいな感じなんで、伝統工芸がどんどん担い手が少なくなっているとか、自然環境が痩せていくと伝統工芸、続いていけないみたいな、そういうのをシロクマという動物に乗っけてみたいなと思っている」(博多人形師 中村弘峰さん)

博多人形は土で作るが、有田焼は石で作る。有田焼は博多人形よりも高温の窯で焼く。

前代未聞のプロジェクトが動き出した。
博多人形から有田焼へ渡された“バトン”
早速、福岡の自分の工房に戻り、粘土をこねて人形作りに取りかかる中村さん。人形が手に持つ柿の形も、少しずつ整ってきた。

「古い伝統工芸と思って見たら、めっちゃ新しかったっていう引っかかりがサプライズに繋がるんで、やってみたらお客さんも『意外と受け入れられた』みたいになるといいかなと思っている」と中村さんは人形と向き合う。

約2カ月後、完成した人形を手に、中村さんは再び有田の柿右衛門窯を訪れた。柿右衛門さんが人形を見詰める。
「いい作品ですね。どこにどう描こうかなみたいな感じになっていますけどね。皿だったら、やっぱり使い勝手を気にして、食材が乗らないところに絵を入れたりとか、食べ物が映えるように配置をしたりするんですけど、人形となってくると、ちょっとそういうことではないので…」と柿右衛門さんは思いを巡らした。

柿右衛門の特長は“余白の美”。何も描かれていない白い部分をいかに引き立てるか、絵を描く部分とのバランスが大事になる。人形にどんな絵を描き、自分の世界を創り出すのか、腕の見せ所なのだ。

更に4カ月後、中村さんが重たそうな人形を運んできた。大きなシロクマだ。
「白いので、柿右衛門の“余白の美”が出やすいかな」と中村さん。

柿右衛門さんは「なんか楽しい気持ちはあるんですけど、こっちにバトンが来たぞみたいな。頑張ります」と笑った。
※後編に続く。
(テレビ西日本)

