集会参加者に向けた銃撃

銃撃直後の現場・11月25日
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11月25日夜、反政府集会が終了して約1時間後、会場に残っていた集会参加者に向けた銃撃があった。現地のネットメディアのカメラは、会場で何かを投げるフルフェイスのヘルメットをかぶった男の姿を捉えていた。

男が何かを投げた瞬間、大きな爆発音が鳴り響いた。爆発音に続いて数発の銃声が聞かれた。その後、男性2人がケガをして病院に搬送され、現地メディアによると、警察は男1人を拘束、けん銃を押収した。

押収されたけん銃

反政府集会での銃撃は2度目

反政府集会での銃撃はこれが2度目だ。1度目は11月17日、国会で憲法改正案について本格的な議論が始まった当日だった。国会へとデモ行進を進めた反政府グループと道路を封鎖した警察が衝突。さらに国王を象徴する黄色い服を着た王室支持派と反政府グループによる小競り合いも発生した。

これらの衝突で55人がケガをし、このうち6人が何者かに銃撃された。集会会場で起きた2度の銃撃は、集会をめぐる不穏な雰囲気と緊張の高まりを強く感じさせる。

集会会場は国王が筆頭株主を務める銀行本店前

サイアム商業銀行本店前の国王の写真

25日の集会が開かれたのは、大手サイアム商業銀行の本店前だった。この銀行は株式の23.38%をワチラロンコン国王個人が所有しており、国王が筆頭株主だ。このサイアム商業銀行の株式をはじめ、土地などの王室資産は、もともと政府から独立した特別法人である王室財産管理局が管理・運用していた。

しかし、2018年の法律改正によって、管理局が管理する王室資産はすべてワチラロンコン国王個人名義に切り替えられた。つまり、王室が所有する広大な土地など、すべてが国王個人の所有とされた。2017年の王室資産は1兆4000億バーツ、日本円で約4兆8000万円にのぼるという試算もある。

反政府グループは、「国の資産の私物化だ」「王室予算は多すぎる」などと主張。国の資産と国王個人の資産を明確に区分すること、そして王室予算の透明化と削減を求めている。この日の集会には、1万人以上が集まった。

サイアム商業銀行本店前・11月25日

2年ぶりの「不敬罪」を適用

反政府集会が相次ぐ中、プラユット首相は「あらゆる法律を適用する」として、取り締まりの強化を宣言。国王や王妃などを中傷・侮辱したと判断された場合に、3年から15年の禁錮刑が科される不敬罪(刑法112条)の適用再開を示唆していた。

首相の宣言通り、警察は11月24日、不敬罪の可能性があるとして反政府グループの学生リーダーなど12人に出頭を命じた。プラユット政権は2018年9月以降、不敬罪の適用を控えていたが、王室批判の高まりを受けて方針転換に踏み切った形だ。

出頭命令を受けた学生リーダー・パッサラ―ワリーさん

3つの事件で不敬罪の疑いがあるとして、出頭命令を受けた学生リーダーの1人、パッサラ―ワリーさん(25)は「政府が不敬罪を適用することはわかっていた。私たちは対応する準備ができているし、どんな法律を使ったとしても私たちの戦いは絶対に止めることはできない。」と笑顔で話した。

反政府グループはこれまでもリーダーたちが逮捕されてきたが、集会の開催を続けている。

アヒルのシンボル化も…混乱の収拾見えず

アヒルグッズを販売する屋台

デモ隊の新たなシンボルとなりつつあるのが黄色いアヒルだ。初めて登場したのは、国会前での集会がおこなわれた11月17日。警察の放水に抵抗して、集会参加者がアヒルのゴムボートを盾代わりに使用した。

その様子がSNSで拡散され、集会参加者を守った英雄と称賛された。最近では、アヒルの髪飾りなどを身に着ける参加者が増え、集会会場ではアヒルのTシャツや人形などを販売する屋台も登場している。

しかし、かわいいアヒルとは対照的に集会会場で2度目の銃撃が発生するなど情勢は緊迫の度を高めている。反政府グループも王室支持派も、集会の開催を続ける構えでさらなる衝突や混乱が予想される。

一方、警察は約2年ぶりに不敬罪を適用するなど取り締まりを強化。伝家の宝刀ともいえる不敬罪だが、適用の範囲がはっきりせず、政権側の恣意的な運用につながる恐れがある。混乱の収拾は依然として見通せない状況が続いている。

【執筆:FNNバンコク支局 武田絢哉】