マイページ
戦闘機パイロットを目指す若者たち “キラキラした学生生活”とは無縁の日々 極限を乗り切る訓練に密着【福岡発】|FNNプライムオンライン
“私”を生きる ~live My life~

戦闘機パイロットを目指す若者たち “キラキラした学生生活”とは無縁の日々 極限を乗り切る訓練に密着【福岡発】

Google ニュース プリファードソース

福岡県にある航空自衛隊芦屋基地。ここは戦闘機パイロットを目指す若者達の登竜門だ。学力や体力はもちろん、これまでの日常生活では味わうことのない極限状態での精神力が求められる。最高速度約1000kmの圧倒的スピードと技術の壁。過酷な訓練に挑む未来の戦闘機パイロット達の半年間に密着した。

戦闘機パイロット育成 1人5億円

2025年11月。航空自衛隊芦屋基地にやって来たのは、プロペラ機による初級課程を終えたパイロット候補生8人。

航空自衛隊『芦屋基地』 パイロットを目指し全国から集まった若者がジェット機の操縦を学ぶ教育拠点
航空自衛隊『芦屋基地』 パイロットを目指し全国から集まった若者がジェット機の操縦を学ぶ教育拠点
この記事の画像(46枚)

航空自衛隊の航空学生は、倍率約20倍の狭き門。既に厳しい選考を勝ち抜いてきた若者達だが、これからジェット機を使った高度な操縦技術を学び、更なるふるいにかけられる。

それものそのはず、戦闘機パイロットの育成には、1人約5億円かかると言われており、正にエリート中のエリートでなければ、訓練を受ける資格を得られないのだ。

この日、基地幹部や教官達が見守る中、8人の入校式が行われた。「航空教育集団司令部 三等空尉藤山翔悟以下8名、基本操縦T-4前期課程の履修を命ずる!」

入校式
入校式

『T-4』とは、航空自衛隊の戦闘機パイロットが研修課程で初めて乗る練習用ジェット機。航空自衛隊の花形『ブルーインパルス』の乗機としても有名で、優れた運動性能に定評がある。

『T-4』航空自衛隊の練習用ジェット機
『T-4』航空自衛隊の練習用ジェット機

訓練生を最初に待ち受けていたのは、このT-4訓練機に関する膨大な知識の習得だった。

訓練生の1人、齋藤景さん(23)。青森の高校を卒業後、すぐに入隊した。訓練初日とあって、齋藤さんの表情は硬く、緊張した面持ちだが、そんな気持ちを教官の声が一蹴する。

「君達は、ファイターパイロットを目指しているが、優れた操縦技術が必要。そのためには、十分な知識が必要だ!」。訓練生にとって悩んだり緊張したりする暇などない。学科では、航空工学や気象学など専門知識の習得が求められ規定の成績に達しなければ実機に乗ることはできない。

齋藤さんも「先取りをして、どんどんやっていきたい。上司からの教えで、『先取りして自分でやっていけ』という、それを実践してやっていきたい」と意気込む。

座学と並行して、実機フライトを見据えた約10時間のシミュレーター訓練も始まった。

シミュレーター訓練
シミュレーター訓練

画面上の訓練とはいえ、あらゆる緊急事態への対処が求められる世界。僅かな判断の遅れが、自分と仲間の命を危険に晒すため、常に緊迫した空気が漂う。

少しでもミスがあると、その都度指摘され「もう1回!」と教官の声が飛ぶ。

最高速度1000kmの現実

なぜ、パイロットの道を選んだのか尋ねると「防衛大学在学時代にいた指導教官が、航空自衛隊のパイロットをしていた。その方が凄く真っすぐな方で、『こんなにかっこいい人がパイロットなんだ』と思って、パイロットを目指すようになった」と答えた。

憧れが若者の未来を切り拓くー

訓練生が実機フライトで乗り込むジェット練習機『T-4』は、これまでの訓練で使ってきたプロペラ機に比べ、操縦の難易度がはるかに高い。

スピードも体にかる負荷も桁違いで最高速度は時速1000km。急旋回時には、体に体重の数倍もの重力が容赦なくのしかかる。

飛行中は同乗した教官や機内のカメラで常にチェックされる。ミスや不手際が重なれば、容赦なく退校を告げられ、2度と戦闘機パイロットにはなれない厳しい世界だ。

2026年1月9日― パイロットへの道を歩む2人にとって大きな1歩となる日がやってきた。初めての実機フライトだ。専用の装備を身に纏い、いよいよ大空へと向かう。

齋藤景さん(23)
齋藤景さん(23)

「プロぺラとジェットは全然違う。怖くはないが…緊張する。吐しゃ物を入れる袋です。酔いやすいので、今回一応持ってきた」と話す齋藤さん。緊張が記者にも伝わってくる。

まずは、出発前の整備隊への連絡だが、いきなり間違えてしまう。緊張した面持ちで『T-4』へと向かう齋藤さん。それでも記者の問いかけには、「100点を目指したいです」と気持ちは負けていない。

機体のチェックを済ませ、教官と共にコクピットに乗り込む。いよいよ『T-4』で飛ぶ。ジェットエンジンが始動し轟音が滑走路に響き渡る。

同期の藤山さんも準備万端だ。

離陸すると『T-4』は一気に上空に舞い上がり機体は小さくなった。音速に迫る圧倒的なスピード。一般的な旅客機が時速800kmなのに対し、この練習機は約1,000km。操縦かんを握る手にも力が入る。

更に激しい旋回にはいると経験のない強い重力が全身を襲う。

その極限状態の中で求められる一瞬の状況判断。初めて挑んだ『T-4』は、「これまでの訓練とは次元の違う難しさだった」と着陸して、どっと疲れに襲われた齋藤さんが言葉を振り絞った。

初フライトを終え着陸する斎藤さんの『T-4』
初フライトを終え着陸する斎藤さんの『T-4』

「凄かった。今まで乗ってきた機体とは、機動性やGのかかり方が全く別次元で…。正直30点ぐらい。いままでの勉強が発揮できてない」。

フライトを終えると、すぐに教官から注意点や改善点が容赦なく指摘される。

「速やかにジョインナップ行動(編隊集合)に移るために、それが編隊長のとの信頼関係だから。そうじゃないウィングマン(僚機)は連れて行けない。

着眼点自分で持って正確にやっとけば、次できるから。むしろできる自信ある?『できるかどうしようか』じゃなくて『やるんだ』『俺、やってやるぜ』という強い気持ちがないとできないから。そのつもりでやって」。

頭では分かっていたものの初のジェット訓練機の操縦は、齋藤さんら訓練生にとって、悔しさの残る結果となった。

「キラキラの楽しい職場じゃない」

過酷な訓練が続く中、束の間の休日。この日は基地を離れ、街の居酒屋へ出掛けた。

酒を酌み交わしながら訓練での課題や悩みを打ち明け合う同期たち。

高校卒業後、青森から1人遠く離れた基地での勤務となり「当初は不安だった」と話す齋藤さんは、最近、SNSで高校時代の友人が、楽しそうな日常を発信しているのを目にし、なんとも複雑な気持ちを感じていると話す。「僕らがヒイヒイ訓練やっている時に、友達はめちゃくちゃ飲んでて良いなと思う」。

防衛大卒で、齋藤さんよりも年上の藤山さんも世間のイメージと自分達のいる航空自衛隊という現実のギャップを実感しているという。

「自衛隊のパイロットは、テレビとかでキラキラしているところを報道される。かっこいい感じ、楽しそうな感じに報道されるが、実際は自分がやったらそんな感じではなくて、そこにギャップがあった。全然キラキラの楽しいだけの職場じゃない」と本音を漏らす。

訓練生達は、若さゆえの想いや悩みを抱えながら、互いの課題を共有し、また明日からのフライトに備え“自衛官”へと戻っていく。

「死なないパイロットになれ」

若い訓練生がパイロットへの道を歩み始める一方で、この日、長年、空の安全を守り続けてきた1人のパイロットが、航空自衛隊を“卒業”した。長年、戦闘機パイロットとして任務に就き、その後は後進の指導にあたってきたベテラン教官、山本幸彦さん。定年となる57歳を迎え、この日が最後のフライトとなった。

航空自衛隊を卒業した山本幸彦さん
航空自衛隊を卒業した山本幸彦さん

「初級操縦過程を卒業する時のコマンダー(指導教官)から、『死なないパイロットになれ』と、『どんなことがあっても生きて帰って来い』と卒業する時に言われた。それが操縦人生の根幹にあった」と山本さんは、自らのパイロット人生を振り返った。

そして、最後に感謝の言葉を家族や仲間たちに語った。「本当にに皆さん、今までお世話になりました。きょう、孫も含めて家族が来てくれました。皆んなの力があってここまでこれたと思っている。本当にありがとう。いい時間を過ごさせてもらいました」。

最後は、後輩達が、バケツで祝福の水を次々と浴びせ、長年、日本の空の安全を守ってきた山本さんの新たな門出を祝った。

偉大な先輩の背中を追いかける訓練生と、その道に別れを告げるベテランパイロット。

日本の空の安全を目指す若者達は、大先輩の姿と言葉を胸に再び、過酷な訓練の日常に戻っていく。

訓練の先は次の訓練

芦屋基地での飛行訓練もいよいよ終盤。「もうそろそろ検定に向けて仕上げていく段階なので、科目の正確性を重視してやっていきたい」と話す齋藤さん。この日は、横風が強いので、「着陸をいつも以上にしっかりできるように」と自分に言い聞かせて訓練機『T-4』へと向かった。

初フライトから5か月。齋藤さんの表情にも訓練を積み重ねてきた自信と自らの技量を客観的にはかる余裕が備わっていた。

「きょうは前回の反省事項はできたような気がするが、全体的に精度は高くない。83点ぐらい」と頭をかく。

訓練が進むにつれ、訓練生達の意識もそれぞれ変化していた。「『不安だな』という気持ちから、『やるしかない』という気持ちになった。空に行くというのは、凄く特別なことだと思っている。怖いし不安だし、何していいか分からなかったが、今は学生パイロットとして、仕事の一環でやらなければならないこととして捉えてる」としっかり話す齋藤さんに頼もしさを感じた。

半年間の厳しい訓練は、技術はもちろん、自衛官としての成長にも繋がっていた。

「日本と地元の空を守りたい」

7月21日、芦屋基地での基本操縦T-4の前期訓練課程を終えた齋藤さんら8人全員が、無事に終了式を迎えた。

1人1人に修了証書が授与され、教官らと記念撮影に臨んだ訓練生達だが、この後、休む間もなく次の訓練地、静岡・浜松基地へ向かうという。

取材の最後に齋藤さんに今後の目標を聞くと、「強い操縦者になりたい」と即答した。

「日本を守るためと僕は、地元の空を守りたいと思っていて、F35に乗り青森の三沢基地に行けたらと思っている。大変なこともいろいろあったが、いい半年間だった。

今は1日でも早く、強く良いパイロットにならないといけない。ゆくゆくは、もっと成長して、日本の国防を担える自衛官になりたい」と答えた齋藤さんの言葉に、もはや迷いはなかった。

更なる厳しい訓練と狭き門に挑むため、訓練生を乗せたバスは芦屋基地を後に走り出した。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。

  • 1
  • 2
関連記事
“私”を生きる ~live My life~の他の記事
人口2人・定期船ゼロの離島 それでも「住んで良かった」夫婦の8年 島再生の新イベントに密着【鹿児島発】
人口2人・定期船ゼロの離島 それでも「住んで良かった」夫婦の8年 島再生の新イベントに密着【鹿児島発】
都道府県
「必ずこの借りは返す」女子ハンドボール・ブルーサクヤ鹿児島が王座奪還へ始動 10月12日開幕初戦
「必ずこの借りは返す」女子ハンドボール・ブルーサクヤ鹿児島が王座奪還へ始動 10月12日開幕初戦
スポーツ
花の消費額が10年で4割減 全国3位の産地・鹿児島で農家と生花店が挑む「花を日常へ」 異色の戦略とは
花の消費額が10年で4割減 全国3位の産地・鹿児島で農家と生花店が挑む「花を日常へ」 異色の戦略とは
都道府県
国内最多20頭のコアラ飼育 鹿児島・平川動物公園で小6が一日園長「将来の夢に飼育員を候補に入れる」
国内最多20頭のコアラ飼育 鹿児島・平川動物公園で小6が一日園長「将来の夢に飼育員を候補に入れる」
ライフ
一覧ページへ
×