シンガーソングライター・俳優として活躍する中川晃教さんが、市村正親さん主演・渡辺えりさん作演出の新作舞台「シークレットステージ」に出演する。仙台市出身の中川さんにとって、地元での公演は特別な意味を持つ。本番に向けた稽古の手応えから、ふるさとへの思い、そして市村さんとの稽古を通じて得た俳優としての新たな気づきまで、たっぷりと語っていただいた。
入れ子式の物語世界と、役を深める難しさ
――「シークレットステージ」では、どのような役を演じられるのでしょうか。
私が演じる森山英一郎は、ミュージカルスターです。
でもその場所にたどり着くまでには、さまざまな紆余曲折がありました。「ミュージカルをやりたい!」という思いで弟子入りした先が、なんと歌舞伎の世界だったんです。そこで、劇中に登場するミュージカル「シークレットフラワー」の主演俳優と、市村正親さんが演じる一番弟子の山田正男に初めて出会います。
当然、ミュージカル志望ですから歌舞伎の世界になじめない日々が続きます。そんなとき、兄弟子にあたる正男から、「お前声が良いよ。師匠に怒られても、何を言われても辞めんなよ」という言葉をかけてもらう。その言葉が、森山にとって生涯の宝物になるんです。
やがて一門を去り、歌舞伎の世界を離れた森山が、ミュージカルの世界で花開いていけたのも、正男からもらったその言葉があったからこそ。だから、主演俳優が倒れるというピンチを前に、市村さん演じる正男に恩返しがしたいという思いで、初日の10日前に急遽呼ばれる、という設定です。
――渡辺えりさんの作風について、稽古を通じてどのように感じましたか。
えりさんの作品はとてもコミカルでありながら、人情味のある場面も多く、心に深く突き刺さる言葉がたくさん散りばめられています。見ているあいだは楽しくて、つい笑ってしまう。でも最後には何か深いものを受け取る。それがえりさんの作風だと感じています。
特徴的なのは"入れ子式"と呼ばれる構成です。新しい箱を開けると、またその中から別の箱が出てくるように、物語を一つ開けると、さらに別の物語が現れる。あの市村さんでさえ、「今、どのシーンを演じているのか」「この場面と別の場面がどうつながるのか」わからなくなって、虚空を見上げている瞬間があったんです。
みんな理解が追いつかないながらも、必死で稽古を続けていく。
――その"分からなさ"を、えりさんはどのように捉えているのでしょうか。
本来、俳優としては観客に分かりやすく伝えなければいけません。そのためには、まず俳優自身が理解していなければならない、と市村さんもおっしゃっていました。
ただ、えりさんの作品ではそれが通用しないんです。えりさんは「わからないままでも良い。だけど体現したときにはじめて物語が繋がるし、観客には伝わる」とおっしゃる。だから、えりさんの言葉を信じて、稽古を重ねるしかないんです。
そんな状況のなかで、市村さんはどんどん役を深めていかれました。年齢を重ねた老人を演じているのに、単純な老いではなく、その中に強い輝きを放ち始めるんです。一人の人間が人生の終わりに向かっているように見えながら、そこからまた何かが始まろうとしている。そういう姿が、演劇そのものと重なって見えました。
市村正親さんの言葉が、俳優としての自分を問い直す契機に
――稽古を通じて、中川さん自身に変化はありましたか。
森山と正男の師弟関係のように、僕自身も、市村さんから宝物のような言葉をたくさんもらっています。
市村さんが「俳優が劇を、役を理解していなければ、お客様には伝わらない」とおっしゃっていて、最初は当たり前のことだと思っていました。でも、これまでを振り返ると、本当に深く理解したうえでやっていたのだろうかと、ハッとしてしまって。
深く考える、深く理解する、そして言葉にして演じる。そこに一つの真理があるなと感じますし、日常で言葉の持つ力を考えるきっかけにもなっています。
最近は、人の話を最後まで聞かずに、「こういうことですよね」「分かります」と先回りして答えてしまったなと後悔することがあります。「一言一句、最後まで受け取らずに答えてしまった」と。歌にしてもセリフにしても言葉が基本です。そんなことを市村さんの言葉から考えたりします。
――コメディミュージカルとして、舞台全体の雰囲気はいかがですか。
コメディミュージカルって聞いていたのに、稽古に入ってみると、コメディらしさが1ミリもない(笑)。でもそれがまたクスクス笑えるんです。
「舞台が始まるまであと10日しかない、どうしよう」と必死にやっている姿が面白かったりする。一生懸命だからこそ、その人の癖や人間らしさも出てくるんです。パニックになっているのに、そう見せないようにしていたりとか、「この人大スターって言っているのに手震えてる」とか。
あの市村さんでさえ「あまりに話が凄すぎて、よく分からなかった」っておっしゃる。まさにカオスです。でも、そのカオスが観客の目の前に現れたときに、作品の面白さになると思うんです。観客も「今、何を見ているの?」と迷うかもしれない。でも最後には、それらが見事に一つにつながっていく。一度見ただけでは分からない部分もあるかもしれませんが、「もう一度見てみよう」と思える、中毒性のある作品だと思います。
ふるさと仙台での上演に寄せる、格別な思い

――仙台出身の中川さんにとって、地元での公演はどのような意味を持ちますか。
僕自身は仙台出身で、父は気仙沼市出身なので、こうして地元に帰ってこられることは本当にうれしいです。
今年、デビュー25周年を迎えます。ミュージカルを始めてからは24年になりますが、その間、ふるさと仙台でコンサートやフェス、番組収録などに参加する機会があり、そのたびに帰ってくる喜びを感じてきました。仙台や宮城県には、すでにミュージカルを知っている方たちもいますが、今回初めて観る方もいると思います。初めてミュージカルを観る観客が、まっさらな気持ちで客席に座ってくれている。その方々に初めてのミュージカルを届けることには、本当に大きな感動があります。それは地元だからこそ、より大きいものがあります。

――仙台の街で、特に印象に残っている場所や風景はありますか。
ペデストリアンデッキや仙台駅の東口の吹き抜けは何回歩いても、わくわくしてしまいます。東京に出てから、宮城の思い出を聞かれると、迷わずペデストリアンデッキと答えます。通学の途中に通っていただけなんですけど、四季折々で違う表情を見せてくれていた。雪の日には何回もペデストリアンデッキで滑って転びました(笑)。宮城の人たちは滑らない歩き方を知っている。そんな何気ない季節ごとの景色や暮らしが、思い出になっているんだなと思います。
仙台の街の変化ぶりには、帰ってくるたびに驚いています。そうやって変化に敏感になっているのは、15年前の東日本大震災が根本にあるんです。多くの物が失われたあの日から、こうやって復興を遂げてきた。僕の中には震災の前の地元の景色も残っている。だからこそ、より今の景色が新鮮に感じるところもあるのかもしれません。
――地元への思いが、さらに強まったきっかけもあったとか。
昨年、サンドウィッチマンさんが旗揚げしてくれた宮城県人会です。山寺宏一さん(塩釜市出身)と舞台で共演する機会が縁で参加できました。当時やっていた公演の初日の前日だったので少し迷ったんですけど、やっぱりうれしくて行きました。
みんな東京にいながら宮城のことを思って何ができるだろうと考えているんです。僕も自分にできることは何だろうと考えるようになりました。そんなこともあって、今回の仙台での公演は、これまでよりもまた強い思いで臨みたいと思っています。
二人の先輩が育んできた夢が、舞台として結実する

「シークレットステージ」は、かつて市村正親さんが渡辺えりさんに「いつか僕に何か作ってね」と話したことがきっかけで、長い年月を経て生まれた舞台だ。
そして、中川さんが初めてミュージカルに出演したとき、お父さん役を演じていたのが市村さんだったという。渡辺さんは、同じ東北・山形出身。様々な縁が重なり合うなかで、仙台出身の中川さんが地元の舞台で届けるこの作品には、出演者たちが観客に届けたい感動が凝縮されている。
中川晃教 1982.11.05 生まれ 仙台出身 シンガーソングライター・俳優2001年8月1日、自身が作詞作曲の「I Will Get Your Kiss」でデビュー。2002年ミュージカル「モーツァルト!」タイトルロールを演じ、数々の賞を獲得。以後、音楽活動と並行して数々のミュージカルに出演。
ミュージカル「シークレットステージ」は10月24日(土)25日(日)、宮城・仙台銀行ホール イズミティ21(仙台市泉文化創造センター) 大ホールで公演。

